公開中
やみやみちゅうどく.
side.夕夜
「ねえ、そこの君??」
「…あ??」
誰だよ、と思って振り返った。
…振り返ったが、誰なのか全くわからない。
まあ俺に話しかけてくれる唯一の素敵なお友だちは今俺の隣にいるんだ、
ただの赤の他人か。
……。
え赤の他人がなんで俺に話しかけてきた??
ナンパ??男が男に??
あーでも俺天禰のこと…。
なんでもいい、とりあえず何の用か聞いてみよう。
「誰、俺に何の用??」
「いや〜なんか顔がタイプでー」
背後から話しかけといて顔かよ。
絶対今適当に理由作ったな。
「で?」
「一旦抱いてみたいな〜って」
…えーとどこの夢かな。
「無理っす」
「天禰のユーに手出すな」
天禰のその言葉に、一瞬顔が赤くなる。
でもそんな訳がないということを思い出し、すぐに戻る。
「そっかぁ…。じゃあ×んで」
「え」
隠し持っていたらしいナイフが向かってくる。
人っていうのは所詮こんなものだ。
キレたら暴力で解決。
それの対処法を教わっても、いざ本番になれば全て忘れる。
結局は全部無駄なんだ。
努力も我慢も生命も能力も恋愛も。
全部全部、無駄になって終わる。
無駄にならないのは、生まれ持った才能だけ。
それが現実ってものだ。
これが現実じゃなければ良かったが、生憎これは現実だ。
つまり。
俺はここで死ぬ。
大好きな人に、大好きだと伝えられないまま。
…俺が死を受け入れた時。
ナイフが、俺の一生を終わらせようとした時。
「ユーは天禰が守るの」
「え、」
突然、目の前に天禰が飛び出してきた。
そのまま、突き飛ばされる。
その時、「それ」が見えてしまった。
天禰の背中に、ナイフが深く刺さる姿を。
「ッ、!!僕何も知らないから!!」
「おい待て!!」
俺のことを当然のように抱こうとして当然のように殺そうとした奴は逃げていった。
ちょっとだけ手を振ったあと、すぐに天禰󠄀に駆け寄った。
「天禰󠄀!!!」
「大丈夫、大丈夫なの…ユーが生きてれば、全部どうでもいい…」
天禰󠄀は頑張って笑顔を作る。
「嫌だ、置いて行かないで…」
「駄目なの、ユーは天禰󠄀の分も生きて」
「天禰󠄀がいなきゃ意味ない!!」
それを聞いた天禰󠄀は、少し目を見開く。
でもすぐに戻る。
そして落ち着いた口調で言った。
「…本当に辛くなったら、天禰󠄀の方来ていいの。…でも、少しは長生きしてね」
握っていた手が、離れていく。
あとはもう、冷めていくだけだ。
…これが、現実。
天禰󠄀という特別が、消えたあとの残り香。
隣にいた君が消えたとき。
俺は長い長い夢から覚めてしまった。
「一つだけ…、…もうユーの隣に居れないことが、寂しいの」
---
「はッ!!」
…夢、か…。
そうだよな、天禰󠄀はもういないんだ。
1年前、7月7日。
17時44分に。
大好きだったあいつは、もういないんだ…。