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秋
晴瀬です
寒い気持ちの話です
秋を感じたかった。
暑さと寒さだけが生きていた。
涼しさ暖かさなんて優しさは知らなかった。
心地よさを知りたかった。
道に太陽が照り返って揺れていた。
通行く人が腕を抱えて自らを守っていた。
子供の笑い声が蝉と一緒に飛んでいた。
空気が澄んで雲ない空が広がっていた。
夏というようだった。
冬というようだった。
すべて秋ではなかった。
秋を知りたかった。
愛を知りたかった。
10月、鳥を見ていた。
忙しなく飛んでいた。
12月のことを師走というらしい。
鳥は12月のように鳴いては飛んでいた。
それをただ、見つめていた。
だから気づくのが遅れた。
隣に少女が立っていた。
少女に視線を移す。
同い年くらいかな、そう思った。
少女も一拍遅れてこちらを見た。
視線と視線が交じる。
目が合う。
突然彼女の瞳孔から色が溢れた。
そのまま瞬く間に世界を染めた。
色のない季節が変わる。色が広がる。
色は、世界は、10月は、こんなに鮮やかなものだったかと彼女の瞳から世界へ視線をずらした。
眩しかった。
光で溢れていた。
鮮やかで驚いて、また彼女を見た。
彼女の虹彩は世界と同じ色をしていた。
彼女は微笑んだ。そして言った。鶯のような声だった。
「わたし、あき」
声のようなものが漏れた。驚いた。
そのまま聞き返す。
彼女はそれを無視して続けた。
「名前は?」
有無を言わせない雰囲気に呑まれて、名前を言った。
彼女はそう、とそれだけ言った。
「わたしはあきって名前」
少し時間が空いて、彼女は、あきはそう囁くように言った。
あきは向日葵のように明るく、でも小さく笑った。
その声に返す言葉はなかった。
だから黙っていた。
あきも黙っていた。
あきはただ隣にいた。
隣にいるあきと同じ方向をただ見ていた。
鳥は鳴いて木はざわめく。
間もないうちに同じ景色は色をつけたことでまったく変わった。
その時間を飽くことはなかった。
その中であきは突然言った。
「秋って嫌い」
霜のような声で白く冷たく小さく言った。
理由を問うとあきはゆっくりとこちらを見て、また前を向いた。
「何もないから」
思考を巡らせた。
この声にどう返すべきか。
唐突に言葉が湧いた。
"秋"
今が秋なのか。
秋とはこれなのか。
この色が、この風が、この棗の香りが、この少女が、秋なのか。
秋は、秋はこの感覚なのか。
だから言った。
「そうかな」
あきは瞬きした。
「秋っていいものだと思うよ」
あきは首を傾げた。
|爽籟《そうらい》が吹いた。
秋を知った。
明るさを眩しさを鮮やかさを、そして少しの影と寂しさを知った。
空は高く青く、澄んでいた。
「そろそろ冬がくるね」
あきが言った。
いつもあんなに恐れていたはずの冬が今年はまったく怖くなかった。
だからあきに笑いかける。
あきは少し目を丸くして、そのあと大きく笑った。
そこで気づいた。
秋はずっと笑っていたこと。
必要なのはそれに気づくことだけだった。
秋が広がってた。
一歩踏み出して秋を吸い込んだ。
自然と笑顔があふれた。
展開が早すぎて自分でもついていけません
「寒すぎて秋なんてないじゃん」から書きました
寒すぎますね
受験生なのに手かじかんで勉強できません(言い訳)