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ひとひらの時間
先輩方の卒業式はいつもより静かで、けれど胸のざわつく空気が漂っていた。
座席に座ると、隣の席の友達が小さく鼻をすするのが聞こえる。
誰もが少し緊張しているのに笑顔を交わす瞬間があって、
なんだか可笑しい気持ちになる。
先輩達は少し照れくさそうに、しかし誇らしげに卒業証書を受け取っていく。
ひとりひとりの小さな仕草を見ていると、不意に彼らがいなくなる事への違和感と、
それよりも強い、時期最高学年としての自覚が芽生えてくる。
「来年には私も、あそこに立つんだ…」
小さく呟くと、背筋が少しピンと伸びた気がした。
まだ見ぬ未来に対する期待と、少しの不安が混ざった、複雑な気分になる。
校長先生の長い長い話に、三年生の先輩方は真剣に耳を傾けていた。
欠伸をして、退屈そうにしていた姿からはとても想定できない、大人びた姿だ。
式が終わり、先輩方が退場する。何人かは涙ぐみ、また何人かは誇らしげだった。
校門の前に出ると、先輩たちは晴れやかな顔で歩いていく。
制服の裾に桜の花びらが舞い落ちるたびに、笑顔が弾ける。
「先輩、卒業おめでとうございます!」
彼女が声をかけると、先輩は手を振り返してくれる。
他愛もない話をし、笑い声が校庭に響く。桜吹雪の中で光が踊る。
「いやぁ、先輩方、嬉しそうだったよねー!」
「ほんと!あの笑顔見てるだけで、こっちまで幸せになるよね」
風に舞う花びらを手で追いかけながら、ふたりは笑い合う。
その言葉を聞いていたのか、途中で一人の先輩が振り返ってにこっと笑った。
「ありがとう、これからも頑張れよ!」
その一言に、友人の頬が少し赤くなる。
友人の片思いしていた、恰好良い先輩だ。まあ、恋は叶わなかったが。
教室に戻る途中、桜のトンネルを歩きながら私は小さく深呼吸した。
「私も、いつか先輩たちみたいに、自信を持って歩けるかな…」
そんな思いが自然と芽生えていた。
帰り道、校門前で立ち止まる。
いつかの先輩方も、こんな気持ちだったのだろうか。
風が髪を揺らし、肩に花びらが触れるたび、春の温かさが体中に広がる。
歩き出す足取りは少し軽くなっている。まだ後ろ髪を引かれる気持ちはあるけれど、
胸には希望が詰まっていた。桜並木を抜けるたびに、自然と笑みが零れる。
「私も、頑張ろう。」
「早く行こー!!」
遠くから、友人の呼ぶ声が聞こえる。
「はーい!!今行く!!」
春は別れの季節でもあり、新しい始まりの季節。
他愛もない日常のひとコマひとコマは、私を前に進ませる魔法みたいだ。
先輩方の期待に答え、最高な一年にしよう。
そう思いながら、私は学校を後にした。