公開中
The Comedy of X 2
「話が違う!」
「どこも違わないだろう……」
「違うってば!」
嗚呼、頭が痛い。
私、小栗虫太郎は小さく溜息を吐いた。
何故彼らは喫茶で言い争いをしているのだろうか。
店に配慮して小さめの声とはいえ、怒気が大量に発散されている。
給仕の方々からの視線が痛い。
言い争いをしているのは乱歩くんと、先刻会ったダネイだった。
「乱歩くん、ミスターダネイ、一寸静かに──」
耐えかねて仲裁を試みるも、其の言葉は当事者の言葉に掻き消された。
「虫太郎くんだって話が違うって思うでしょ?」
「否、知らな──」
「ミスター小栗、違わないよな?」
「だから、知らないと」
助けてくれ、と他の二人を見るが、一人はペットと戯れ、もう一人は優雅に珈琲に口を付けている。
裏切ったな。
ただでさえ、むさ苦しい男五人組だというのに、この状況の所為で更に奇異の目に晒されている。
状況を整理しよう。
何故乱歩くんとダネイは口論をしているのか。
簡単に言うと、謎への認識の相違である。
ダネイが提示した『|密室《locked room》』──その言葉に、乱歩くんは一度は目を輝かせたものだが、その密室の中起こった事件を知り、その輝きを失望に変えた。
まあ、詰まるところ──
「兎に角、密室の中のモノが只の盗難だなんて聞いてない!」
と言うことだ。
盗まれたモノに意外性が有れば違ったのかもしれないが、盗まれたのは大きな彫刻でも、池の中の鯉でもない。
終戦直後、米国が秘密裏に行っていた研究の纏められた文書だ。
まあ、盗まれるのも普通なことである。危機感は持った方が良いが。
「何を言う! 国家の黒を暴くかもしれない貴重な文書だぞ!」
「知らないよ、そんなの!」
「What!?」
と言う訳である。
嗚呼、頭が痛い。
比喩でも何でもなく、言葉の応酬から来る頭痛がする。
そろそろ給仕の方が笑顔かつ遠回しに、そして有無を言わさず退店させて来そうで恐ろしいのだが。
「二人とも」
漸く助けの一声が来た。
声を掛けてくるのは予想外だったのか、二人ともぴたりと口論をやめる。
私は声を上げたリーの方に、希望を込めた眼差しを向ける。
この際、先刻まで素知らぬ振りをしていた事は水に流してやるから。兎に角助けてくれ。
そう思ったが。
「喧嘩をするので有れば外でしましょうか」
(微妙にズレている……)
私は一人頭を抱えた。
救いの手だと思った手は、違う混沌へと私たちを導いただけだったらしい。
喧嘩をする場所を弁えよ、と言うならば、喧嘩を止めよと言って欲しかった。
「む、虫太郎くん? どうしたであるか?」
心配したように背を摩っているが、ポオくん。
(元はと言えば、お前が知り合いと私たちを予期せず会わせてしまったからなのだぞ!?)
そんな私の心の叫びは、呻き声となって空中へ消えた。
---
真っ白な雲が流れていっている。
その正体は小さな雲粒だけれど、もくもくとしたその姿はまるで甘い洋菓子のようだ。
先刻の店のソフトクリームを食べれなかったことが悔やまれる。
僕、乱歩は溜息を吐いた。
食べれなかった、と言ってもお金が足りなかった、などではない。
「ミスター江戸川、さっさと来い」
「えーやだよ」
「なっ……!」
彼、ダネイが食べさせてくれなかったのだ。
全く、真面目すぎる人間というのは面白くない。
対してその相方のリーには少し気になるところがあるが……
まあ、今は気にするものではないだろう。
僕には関係ない。
ダネイに対しつれない態度を決め込む僕に、若干疲れた目線を虫太郎くんが送ってくる。
気にしない。
「あー、ダネイ。どちらに向かっているのであるか?」
ファミレスでのこともあって、ギクシャクとした雰囲気を和らげようとポオくんが話しかける。
話しかけられたダネイは少し嬉しそうに答えた。
「少し大使館に用がありまして。事件に関することですので……」
ダネイはそういうとチラッと僕を見た。
僕は妨げていると言わんばかりの表情。心外である。
しかし、大使館か。
大体事の流れが掴めた。
機密文書の中でも、外交に関連する内容なのだろう。
僕が気にすることでもないが。
僕はそう考えながらもう一人の探偵に目を向けた。
此方は傍観者に徹しているようだが、事の流れがおかしくなったら修正はするだろう。
別に彼らだって、“How”が解らなくてポオ君に助けを求めにきたわけでは無いのだろうし。
「ふーん、じゃ、僕帰るねー」
「え」
「ら、乱歩くん?」
ふいっと外方を向いて手を振った僕を、ポオ君が焦ったように呼び止めた。
僕がいても意味は無いと思うのだが。
もしかして、食べるだけ食べて去ろうとしているのが気に掛かったのだろうか。
そのことは申し訳ないと思っている。あとでお詫びにカール用のおやつでもあげよう。
其れはさておいて。
「だって、ダネイとリーが持ってきた謎は、僕がいない方が都合がいい筈だし。抑も興味無いし。
ってことで帰る」
「……そうであるか」
僕が理由として並べた言葉の一部に、アメリカ二人組が一瞬の動揺を見せる。
そう。二人にとって僕は都合が悪い筈なのだ。
日本全国の謎を解き明かしてきた、横浜の薄暮を取り仕切る一員である、稀代の名探偵。
外交問題に関わる事件において、これほどまでに相手国から見て面倒臭い者は無いだろう。
わざわざ僕を美味しそうな謳い文句で釣ったのもそれだ。
一度甘い言葉で呼び寄せてネタバラシをすれば、落胆した僕は手を引く。
そう考えたのだろう。実際そうだし。
「ってことで虫太郎くん、道案内宜しくー」
「……電車の乗り方が分からない君を一人で帰らせるわけには行かないからな」
「そうそう。分かってるじゃあないか」
僕はそう言って虫太郎くんを道連れに、アメリカ組を放って歩き出した。
直ぐに虫太郎くんも後ろから追い付いてくる。
ただ、長い前髪の下で、ポオ君が何か気がかりなことを思うように目を伏せていたことだけが、頭の片隅に残った。
---
「なあ、乱歩くん」
「なにぃ?」
「良かったのか?」
亜米利加組と別れてから数十分経ち、駅への道も終わりが見えてきた頃。
時たま外套の裾を引っ張って軌道修正し乍らも、虫太郎くんはぽつりと問うた。
「うん。興味ないもの。荒事になりそうなことは、僕の領分じゃないしー」
「そうか……」
虫太郎くんも頭が悪いわけではない。
細かく言わずとも、先ほどの二人の思惑は大体伝わっていたようだった。
そんな会話をしながら歩いていると、やっとのことで見慣れた煉瓦の駅が見えてくる。
直ぐ側の壁に掛かった時計に目をやるが、未だ電車が来る時刻では無さそうだ。
少し待つことになるなあ、と時計を見ながらぼんやり考える。
時刻はお昼を少し過ぎたくらい。後3時間経ったらお八つの時間だ。
その時。
プルルルルル
「あれ? 電話?」
「え、いや、私ではないな」
「あ、僕だ。もしもーし」
突然鳴り響いた携帯の呼び出し音に、わたわたとなりながらも通話ボタンをタップする。
すると、聞き慣れた声が耳に届いた。
『乱歩さんかい? 妾、あー、与謝野だけど』
「与謝野さん?」
珍しい。何か大きな事件でもあったのだろうか。
でも、声はいつもの通り優しくて柔らかいままだ。焦りは含まれていない。
「何か事件でもあったの?」
『あァ、否、そういう事じゃないんだ。今社員が全員出払っているんだが、一寸妾も用ができちまってね。社長と事務員数人だけになっちまうから、一応何かあった時のために連絡を入れておこうと思って』
「あぁ、そういう事。わかった。気をつけてね」
『ん。じゃアね』
ぷつんという音の後に、繋がっていないことを示す無機質な音が続いた。
僕もそろそろ帰るところだ。丁度良い頃合いだろう。
「何かあったのか?」
通話が終了するまで待ってくれていたのだろう、虫太郎くんがそっと話しかけてきた。
場合によってはタクシーを捕まえて急いだほうが良いかもしれないと思っているのが見て取れる。
その必要は無さそうだが。
「ううん。留守番してた与謝野さんも留守になるから、一応知っておいてっていう連、絡、……」
話の内容の一部を伝えようと話し始めたが、言葉が途中で詰まった。
何だか、何かに気付ききれていない感覚がする。
「乱歩くん?」
突然黙り込んだ僕を覗き込むようにして、虫太郎くんが首を傾げる。
だが、今はそんなことに構っていられる余裕はなかった。
与謝野さんは責任感が強い人だ。
うちは仕事柄恨まれることも多いから、事務員と社長以外の人間も留守番に置いておくことが多い。
そんな状況の中ででも、与謝野さんが仲間を後にしなければならない用向きとは何だろう。
(急を要する外回りとか?……否、事件があったわけではない……)
ともすると、与謝野さん個人を呼び出すような面会の掛け合いがあったのだろうか。
そういえば、と思い出す。
何故、ポオ君はあの手紙を今日開封していたのだろう。
忘れていた? ポオ君なら有り得んこともない。執筆中は特にだ。
だが、元々届くのが遅かったのなら?
外国便は元から届くのが遅い。その上、検閲などが入れば実際に宛先に届く日にちはかなり遅れることだろう。
アメリカ二人組がポオ君の助言を欲した事件は、彼方の国の機密文書が盗まれた事件。
かつ、ニホンとの交流にも関係するようなもの。
其れの調査を恐らく正式に担当している探偵が、ニホンへ訪ねてくるとなったらどうだろう。
そして、アメリカといえば先の大戦の戦勝国であり、一国で欧州とも並ぶような大国だ。
先の大戦においては、ニホンも多大な被害と加害の過去があり、そして今も晒されたままである生傷が幾つもある。
例えば──。
其処迄考えれば、後の推論──否、推理は簡単なものだった。
僕の周りには、そんな生傷の一つを抱える人が、女性が、一人いる。
その生傷は、敵国から見ればどのようなものだったのだろう。
「虫太郎くん」
電話が掛かってきてから暫く無言だった僕が、突然名を呼んだことに驚いたのだろう。
虫太郎くんは一瞬びくっと肩を震わせると、心配そうな表情で此方を見た。
「何だ?」
「ここ迄来ちゃったのに悪いんだけど、戻っても良い?」
「は?」
「興味とは一寸違うけど、気分が変わった」
目を見開いて、意味がわからないと言いたげな虫太郎くんに、申し訳ない気持ちが浮かぶ。
けど、仕方ない。
此れは僕のエゴだけど。
あんなに優しい彼女を、綺麗な蝶の翅を、また傷つけたくはないから。
お久しぶりです。
眠り姫です。
時間かかってごめんなさいいい!
気づいたら年明けてた。
最近忙しくって。心が。
そしてね。はい。どこにでもカップリングを入れていく眠り姫クオリティ。
入れなくてもいいけどさあ。
なんか、入れたくなるんだよな。
(紫:そんな理由だからカップリング乱立系になるんだよ)
うう。
(太中、芥敦はセット味がまだあるが、そこで何故乱与を打っ込む?)
好きだからさ☆
(……ソウデスネー)
pixiv検索すると結構セットであるよ?
(それは君が好きなユーザーさんの話だろ)
あは。だってあの方の話素敵なの多過ぎて!
なのに親に言うのが躊躇っちゃうから全年齢の同人誌でさえお迎えできない!
うわあん
って事で、ここまで読んでくれたあなたに、精一杯の感謝と、そして謝罪を!(苦笑)