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8話 花よりもきれいな君が
最初は、僕はアメリアのことが好きではなかった。いや、正直に言おう、僕はアメリアが嫌いだった。真面目で堅苦しく、いつも親の仕事の手伝いをしない僕を叱ってきた。別にやれと言われているわけでもないのに毎度やらされる意味が分からず、仕事熱心なのはいいが人を巻き込むなよ、と常々思っていた。そんなある日、アメリアが15歳になる誕生日、僕はその日がアメリアの誕生日であることをすっかり忘れて、友達と夕方まで遊んでいた。アメリアはもう僕に誕生日プレゼントをくれたのに、僕はプレゼントの用意すらできていなかった。アメリアは僕が夕方になるまで帰ってこなかったため、なんとなく、その事がわかってしまったらしい。目にうっすらと涙を浮かべたアメリアを見て慌てた僕は、実は用意してある、と嘘をついてしまった。罪悪感からとっさに出た嘘だ、とは、期待と涙で輝いた目をみたら言えなくなってしまった。困った僕は僕と友人数人しか知らない花畑に連れていくことにした。正直にいえばもう、それしか思いつかなかったのだ。結果、今でもキザでくさい行動だったと、時々とても恥ずかしくなる。でも、それでもアメリアは喜んでくれた。雨上がりでべちゃべちゃの地面も気にせず走り回って、可憐な花たちに負けないぐらいにきれいに咲き誇り、小さな花を1つぷち、と取って自分の髪に差し、幸せそうに笑っていた。そして、
『ありがとう、お兄ちゃん!』
そういってその場所で一番綺麗に咲いてみせた。その瞬間僕の体が、心臓が、大きく音を鳴らしながら苦しいぐらい脈を打って、呼吸が早くなって、顔が熱くなった。どうしたらいいのかわからなくなって、僕はただただ綺麗なアメリアを見つめることしかできなくなった。チェリーレッドの花の葉っぱから雨粒が跳ね落ちる。
僕はその日、アメリアに、妹に恋をした。