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蒼色ストライクス 1話 「夕暮れ時の灯り」
夕暮れの横浜スタジアム。
練習を終えた外野の芝生には、橙色の光が長い影を落としていた。
清水麻成はグラブを肩に引っ掛け、ダッグアウトへ帰ろうとしていた。
しかし、その背にふと声が追いかけてくる。
「麻成、ちょっとキャッチボール付き合ってくれない?」
振り返ると、金渕光希がボールを片手に立っていた。
汗で額に貼りついた前髪の奥の瞳は、夕陽を反射してきらりと光っている。
「まだやんのか。練習、さっき終わったばっかじゃん」
「うん。でも……もうちょっとだけ投げたいんだ。今日、フォームがしっくり来なくてさ」
光希は照れたように笑った。
その笑顔を見ると、麻成の胸の奥に小さな熱が灯る。
それを悟られたくなくて、麻成はわざとため息をついてみせた。
「しょうがないな。ほら、早く行くぞ」
二人は外野の端へ並び、距離をとって向き合った。
光希が投げたボールは、夕陽の中で美しい軌跡を描く。
麻成はそれを受けとめながら、ふと気づく。
——光希は、こんなにも真っすぐな目をしていたっけ。
何度も返して、何度も受け取って。
やがてボール越しに視線が重なったとき、光希が少しだけ声を落とした。
「麻成と投げると、落ち着くんだよ。なんでだろうね」
心臓が一瞬止まり、次の拍で跳ねた。
麻成は慌てて視線をそらし、ボールを握り直す。
「知らないよ……勝手に落ち着いてな」
強がった声とは裏腹に、指先が少し震えていた。
その震えを見透かしたように、光希は柔らかく笑う。
「ありがとう。……これからも、いっぱい投げてくれる?」
その問いは、ただの練習の約束以上の響きを持っていた。
麻成は小さく息を吸い、ゆっくりと頷いた。
「……ん。光希が言うなら、いつでも」
夕風が吹き、二人の距離をそっと揺らす。
グラウンドを包む橙色の光の中で、ボールが再び行き交う。
それはまるで、まだ名前のついていない想いを確かめ合うように——。