公開中
BTS 석진
泡沫 .
大学帰りの夕方。
駅前のベンチに座っていたあなたは、スマホを見ながらため息をついた。
課題にアルバイト、人間関係。
なんだか全部がうまくいかなくて、疲れていた。
「隣、座ってもいい?」
突然声をかけられて顔を上げる。
そこには帽子を深く被った、背の高い男性が立っていた。
「どうぞ」
あなたが少し場所を空けると、彼はゆっくり腰を下ろした。
しばらく無言。
でも不思議と居心地は悪くなかった。
すると彼がふっと笑う。
「すごく難しい顔してる」
「え?」
「世界が終わりそうな顔」
思わず吹き出してしまう。
「そんな顔してました?」
「うん。かなり」
彼の笑顔につられて、あなたも少しだけ笑った。
「何かあった?」
初対面なのに、なぜか話してしまった。
学校のこと。
将来への不安。
自分に自信が持てないこと。
彼は途中で否定することなく、ただ静かに聞いてくれた。
話し終える頃には、胸の中が少し軽くなっていた。
「ありがとう」
そう言うと、彼は優しく首を振る。
「頑張りすぎなんだよ」
夕日が彼の横顔を照らす。
どこか見覚えがある。
そう思った瞬間、彼の帽子が少しずれて顔が見えた。
あなたは息を呑む。
「え……ジン?」
彼は気まずそうに笑った。
「あ、バレちゃった」
驚きで言葉が出ない。
テレビで見ていた人が目の前にいるなんて。
「ごめん、驚かせた?」
「めちゃくちゃ驚いてます……」
ジンは声を上げて笑った。
その笑顔は画面越しに見るよりずっと優しかった。
---
それから不思議な縁が続いた。
偶然同じカフェで会ったり。
本屋で鉢合わせしたり。
気づけば連絡を取るようになっていた。
ある夜。
あなたは落ち込んでいた。
大切な試験に失敗したのだ。
スマホを見ると一件のメッセージ。
「今、電話してもいい?」
ジンだった。
通話ボタンを押す。
「もしもし」
「元気ないでしょ」
第一声で見抜かれてしまった。
我慢していた涙が少しこぼれる。
「なんで分かるの……」
「君のことだから」
電話の向こうで彼は優しく笑った。
「失敗したって聞いた」
「うん……」
「じゃあ今日は落ち込んでいい」
あなたは黙る。
「でもね」
ジンの声が少し真剣になる。
「君が頑張ってたこと、俺は知ってる」
胸が締め付けられた。
「結果だけで価値は決まらないよ」
その言葉が心に染み込む。
気づいたら泣いていた。
「ありがとう……」
「うん」
少し沈黙。
そして彼が小さく言った。
「本当はさ」
「?」
「いつも君のこと考えてる」
心臓が大きく鳴る。
「ジン……?」
「会いたいって思うし、笑ってほしいとも思う」
呼吸が止まりそうになる。
「それって……」
「好きだから」
世界が静かになった気がした。
ジンは少し照れたように笑う。
「君は?」
あなたは涙を拭きながら答えた。
「私も好き」
次の瞬間、電話の向こうで嬉しそうな笑い声が聞こえた。
「よかった」
その声は誰よりも優しくて。
そしてあなただけに向けられた特別な声だった。
---
それから何年経っても、ジンは変わらない。
時々子どもみたいにはしゃいで。
時々世界一かっこよくて。
でも二人きりになると、必ずこう言う。
「今日も好きだよ」
そのたびにあなたは思う。
あの日、駅前のベンチで出会えて本当によかったと。