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汝諸君よ死と舞い踊れ
霧の深い冬の夜、私は森を抜け、廃墟となった館の前に立った。
瓦は崩れ、壁は蔦に覆われ、窓は割れて闇を覗かせていた。
冷たい風が館の隙間を通るたび、軋む木の音が森全体に響き渡る。
胸の奥に、得体の知れぬ不安が蠢いた。
扉に手をかけると、錆びた蝶番が軋み、かすかな腐敗臭が鼻を突いた。
踏み入れた廊下には埃と泥が厚く積もり、湿った音を立てる床板の下には、
何か軟らかく冷たい感触が潜んでいる気配があった。
私は思わず息を飲み、足を止めた。
広間に入ると、視界の隅で、動く影があった。
よく見ると、それは死体の山だった。
紫黒に変色した皮膚、口を歪めたまま固まった表情、
骨が見えるほどに裂けた手足。
床には乾ききった血がべったりと張り付き、
触れれば指先に冷たくねばつく感触が伝わる。
死体は静止しているようで、しかし関節が痙攣するたび、
微かに床を這うように動いた。
その時、黒い衣の女が現れた。
顔は血で赤黒く染まり、唇には乾いた血糊が張り付く。
瞳だけは生者の光を帯び、私を射抜く。
女が手を差し出すと、死体たちがまるでその指示に従うかのように蠢き始めた。
私は恐怖で体が硬直した。
床を這う死体の手が私の足首に触れ、冷たく湿った感触が全身を貫く。
断裂した腹からは腸の絡まった断片が見え、骨の端が床に食い込む。
恐ろしさで息を詰めながらも、女の指先が私を導く。
生きている私だけが、その渦の中心で立たされていた。
女の導きに従い、一歩を踏み出すと、死体の群れは舞踏の輪を作った。
床に散った血は光を反射し、腐敗の匂いが鼻を突き、
湿った肉片が踏まれるたびにかすかに音を立てる。
恐怖と嫌悪に震えながらも、なぜか私はその舞踏の中心に引き込まれていった。
視界は断片的に過去の惨劇を映す。
館の壁に刻まれた血痕、崩れた家具、荒れ果てた食卓。
腐敗した肉と血の匂いが、過去の記憶を私の感覚に重ねて押し付けるかのようだった。
生きている自分が、今や死者たちの渦に取り込まれているという感覚。
恐怖と陶酔が同居する不思議な感覚に、私は全身を震わせた。
やがて館は再び静寂を取り戻す。
死体は床に崩れ、女も姿を消した。
しかし床にはまだ湿った血と破れた肉片が散乱し、死の余韻が漂っている。
私は膝をつき、手足を振り払いながら館を後にした。
冷たい風が肌を刺すが、胸の奥にはあの舞踏の記憶が焼き付いて離れてくれはしないだろう。