公開中
若紫
帰路につきながら、今日は壺女はいないのかと思う。どうでもいいが。
源優華。源といえば、源頼朝とか、源義経とか。そういうのを思い浮かべる。
ああ、あと源氏物語。
1年前の苦い記憶が蘇ってきた。
---
その日、歴史の授業があった。可もなく不可もなくの授業。とりわけ好きな授業もなかったし、とりわけ嫌いな授業もなかった。ある意味、何も恐れていなかった。
前日の復習だった。黒板に問題が白いチョークで書かれる。コツコツと、黒板にチョークが当たる音が響いた。
源氏物語を書いたのは誰か、という問題だった。普通に紫式部と答えた。そうしたら清少納言派とわかれ、あっという間に紫式部と答えるのはわたしのみになった。絶対に合っているから、変えない。
正解は勿論紫式部で、わたしのみが正解した。当たり前だ。枕草子というエッセイのようなものを書いたのが清少納言、源氏物語という小説を書いたのが紫式部。
そこで素直にいけばよかったんだ。素直にすごいね、じゃあ次いこうって。
〝絶対答え見たんだろ!それしかねぇよ!〟
記憶の中の男子が言い放つ。
〝確かに〟
〝そうだそうだっ〟
わたしのクラスは、全員馬鹿だった。馬鹿の集まり。馬鹿の集会。1人の馬鹿が馬鹿なことをでっち上げて、それに馬鹿が全員便乗する。馬鹿な担任の男性教師は、一切対応をしなかった。ほら、静かにしろよ。そう言って、笑っていた。負の連鎖が連なっていき、最終的にどうなったのか覚えていない。
---
どうすればよかったのか、未だわからなかった。あの時「違う」と否定する勇気なんてなかったし、先生に言いつけようにも、先生はそっけなく対応するだけだった。親に言うほどの|大事《おおごと》でもなかったし、友達に愚痴を言おうにも言えなかった。
昔のわたしはどうすればよかったのか。
オレンジの空に、涙ぐむ紫の姿がフラッシュバックした。
トラウマは怖い。