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放課後の喫茶店
「いつでもお越しくださいね」
店主は、私が店を出るときにそう言って微笑んだ。
「人生に疲れたとき、人生が面白くないとき」
コーヒーのカップを私の机から下げて、微笑みながら言った。
辞書一冊ほどの砂糖が入ったカップをお盆の上でこねくり回し終わったあと、私の砂糖臭い手を握って言った。
「人生の放課後に、ご利用ください」
店主は「人生の放課後」と言った。
喫茶店は、ビルの屋上階にある。
無機質なコンクリートが、階段を上る者自らの死を促進するようなビルの屋上階、鉄扉を開ける、その一歩手前に喫茶店はある。
絶壁のようにそびえ立つ、自殺の名所にその喫茶店はある。
「人生」と書かれた看板を提げて、その喫茶店はそこにある。
私は、吸い込まれるようにその喫茶店に入って行った。
「さて、人生に戻っていきますか?」
店主は、人生に戻っていくかと訊いた。
戻りたくない。
泣き叫ぶように呟いたら、店主はお盆を置いて私の肩を包み込んでくれた。
「戻りたくないなら戻らなくていいのです」
店主は何もせず、ただ私を肩で受け入れてくれた。
肩を撫でることもせず、肩を叩くこともせず。
「仲間はこんなにもいるのですから」
座ってコーヒーを飲んでいる客は、誰一人例外なく虚ろな目をしていた。
誰一人、他の人を見てはいなかった。
「私は、あなたにコーヒーを提供できただけで幸せです」
コーヒーは、どれだけ砂糖を入れても苦かった。
「私は……私は、生きてみたいです」
店主は、私の両肩を優しく掴んで言った。
「それでいいのです。人生はあなたのものですから」