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Truth or Dare
「Truth or Dare」
私はごくりと唾を飲み込んだ。汗が頬を伝って顎を撫で、そしてぽたりと落ちる。
扇くんはにやにやとした笑みでこちらを
見つめる。
その手には、キング。
私の手には、クイーン。
「……Dare」
呟くように、低く答えた。
扇くんは嬉しげで楽しげなあの笑みを浮かべ、
私に難題を突きつけた。
絶対に出来るわけがない、無理難題を。
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「駿河先輩、真実か挑戦ゲームしませんか?」
扇くんは、私の部屋の掃除の最中、トランプ
片手にそんな事を言ってきた。いや、まずそのトランプは一体どこから持ってきたんだ。
「駿河先輩のこの膨大なコレクションの整理中に発見したんですよ」
勝手に私のものを拾ってゲームをしようと提案しているのか、この子は。今まで何度も感じて
きてはいるけれど、かなり価値観が違うと
思う。ともあれ、数時間程掃除をしていたためかなり脳が休憩を求めていたし、ルールはよく知らないけれど何となく興味が湧いたのでその提案に応じる事にした。部屋の真ん中に何とか作ったスペースにはテーブルが置かれている。水分補給用にお茶とコップが置かれているだけの無駄に幅を取っていたテーブルに腕を乗せ、軽く胡座をかいて畳に座る。真正面に座った
扇くんを見た。
「まぁ、いいけど。でも私、そのゲームの
ルール知らないんだよ」
「おや、そうでしたか。そう複雑でも
ありませんし、やりながらご説明しましょう」
扇くんはシャッシャッとトランプをシャッフルしながらそう言った。そして十分混ざった
トランプの山をテーブルの真ん中に乗せる。
勿論バックが表だ。
「このトランプの山札から一枚引いて下さい。
引いたら相手に見せないように注意して数字を確認してください」
扇くんが先に一枚引いて、私もそれに続く。
少しワクワクとしながら、手札を見てみた。
数字は10。スートはクラブだ。扇くんは自らの手札をさっと見た後、
「自分の手札が確認できましたら、せーので
場に出します。はい、せーの」
そう言って手札をテーブルに出した。
私も慌てて手札を出す。
勿論ここはフェイスが表。
扇くんの手札は、スペードの5。
「駿河先輩の手札の数字は10。
僕は5ですので、駿河先輩の勝ちですね」
扇くんは少し目を細めて、私に言った。
若干不気味な笑みに見える。
少々身構えていると、扇くんは説明を始めた。
「勝った方は、負けた方に『真実か挑戦か』と
尋ねます。真実、と答えた場合、何か一つ質問をして下さい。質問の内容は何でもいい
ですよ。逆に挑戦、と答えた場合、何か一つ
お題を出します。このお題も何でもありです」
「今回の場合は私が勝ったから、私が扇くんに
尋ねる…ってことか」
私はチラリと、テーブルに乗っている、
フェイスが表にされた2枚のトランプに目を
やった。すぐに扇くんの方に目をやると、
扇くんは手の甲を頬に当てて頬杖をついて、
私を見つめていた。
「えぇ、そうです」
扇くんはいつもよりほんの少し低い声で
答えた。そして頬杖をやめ、腕を下ろし
テーブルに乗せる。見透かされたような、
そんな感覚を受けたものの、平静を取り繕って言葉を発した。
「えーっと…。真実か、挑戦か」
「挑戦」
扇くんは間髪入れずに答えて、そして私が出題するお題を心待ちにしているかのような顔を
した。いや、違う。どう揶揄ってやろうか、
というような顔だった。結構、いやかなり
ムカつく笑みだ。さて、少々むかつきながら
でも何かお題を出さなければいけない。
何にしたものか…
「あー…何にしようかな…」
「なんでもいいですよ。たとえ駿河先輩が
どんな変態的なお題を出そうと、僕はちゃんと実行してあげますので」
「その場合は実行せずに諌めろ」
扇くんはまたにやにやとした笑みを浮かべて
いる。その真っ黒い目を少しばかり細めた。
顎に手を添えて、少し考える。数秒思考して、
思いついた事を言ってみた。
「んー…じゃあそうだな、無難にモノマネとかにしておくか」
「無難すぎて面白くないですね。
やりますけれど」
扇くんはこほんとわざとらしい咳払いをした。
誰のモノマネをするのだろう。というか
この子、モノマネとかできるのだろうか。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!」
「おいそれレイニーデヴィルのモノマネだろ!
何で無駄に再現度高いんだ!」
数あるモノマネの選択肢の中で、わざわざ
レイニーデヴィルをチョイスしてくるあたり中々嫌らしいやつだ。(というかなんだか前も
この子、レイニーデヴィルのモノマネしてた
ような…)それこそ無難に、阿良々木先輩の
モノマネとかでもよかったのに。
「いやぁ、阿良々木先輩は無理ですよ。だって僕、あの人のダブルですし」
ダブル?何のことだろう。
「あぁ失礼。何でもありません」
何でもないらしい。
「まぁそれは置いておいたとしても、あの人の
モノマネなんて不可能に等しいですよ。あんな
ロリコンで報道規制の格好の的でいつテレビに
出られなくなるか分からないやつのモノマネ
とかしたくないです。確実に同類と見られる
じゃないですか」
否定はできなかった。
というか、納得してしまった。
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「あっははは!負けすぎでしょ、神原先輩」
珍しく扇くんが声を上げて笑ったかと思えば、
私の運の無さを馬鹿にし始めた。一発殴って
やりたい。しかし否定出来ないことなので、
なんとかぐっと堪えるしかないのがとても
悩ましい。そもそも私が一番最初の勝負で
珍しく勝つことができたのか謎だったのだ。
私は運の絡むものは基本負けるのに。そして
なぜ私は愚かにもこの勝負を引き受けて
しまったのだろう。ここまで来ると全てを
穿った目で見てしまい、この子は全て目論んでいたような気さえしてくる。最初、私にゲームをしようと言ったあの瞬間から全てを計画していたような。なんて私が勘ぐっている最中、
扇くんは肩を小さく振わせ、時折小さい笑い声を漏らしていた。多分、なんとか笑いを
抑えようとしている最中なんだろうけれど、
当事者である私からするとそれすらもイラッとくる。
「ふっ…あはっ…す、駿河先輩……こんなっ…
こんな運…無いんだっ…」
「笑い過ぎだろ…」
「はーっ…はーっ…ふふっ……はーっ」
扇くんは息を大きく吸っては吐いてを
繰り返し、なんとか抑えようとしていた。
5回目あたりでようやく落ち着いたらしく、
いつもの笑みでこちらを見つめていた。先ほどまでの大笑いはどこへやら、お澄まし顔だ。
「駿河先輩、ほんっとうに弱いですね。僕の
想定を大きく超えてきててびっくりです。今のところ、最初の勝負も含めると5回中4回負け
ですよ」
扇くんはそう言って、テーブルに置かれた
捨て札を突っついた。何も言えない。何か
言えることも無いのでこの際、負け続けている私としてはだいぶ屈辱的なことではあるが、
今までの内容を軽く振り返っておこう。
「真実」
「一番尊敬している人は?」
「阿良々木先輩」
「挑戦」
「僕をちゃんと心を込めて褒めてください」
「……あ。頭がよくてすごいね」
(この後扇くんから何度か抗議があったものの、この挑戦はこれで終わった)
「真実」
「誰かに好かれるために嘘をついたことは?」
「ある」
「挑戦」
「もしも次負けた場合は挑戦を選択して
ください」
最後の挑戦の内容だけなんだそれと言いたい
内容だったけれど、概ね変なものは無かった。扇くんのことだから、何か過激なことでも要求してくるのかと思ったけれどそんな事はなく、内心ホッとしている。
「僕のことそんな事を要求してくる奴だと
思ってたんですか?心外だなぁ」
「先輩に劣情を催してるやつが言っても説得力ないだろ」
扇くんはくすくすと笑って
「僕からすると、愛情も劣情も似たようなものだと思ってますから」
「余計に不安になったよ。その文言がない方がまだよかったレベルだ」
そう言うとまた扇くんは楽しげに目を細め、
にやにやとした笑みを浮かべた。
嫌な予感がする。
「そろそろいい時間にもなってきてますし、
次で最後にしましょうか」
「ん。あぁ、そうだな」
そう言いながら山札から一枚手に取る。
扇くんもその後に続いて一枚取った。ちらりと捲るようにしてカードを確認する。
ハートのクイーン。これは確実に勝った。
先ほどの4回で、キングが出たのは2回。
ここでキングが出てくる確率はとても低い。
つまりは殆ど私の勝ちが約束されているようなものだ。今日は本当に珍しい。基本的に一勝もできずに終わることも多いのに、二勝もできるとは。思わず口元が緩んで、にやりと笑って
しまいそうになるのを堪えながら、扇くんに
尋ねる。
「扇くん、準備はいいか?」
扇くんは何も言わず、こくりと頷いた。
その目はにやにやと細まっていて、
とてもとても楽しそうな笑みだった。
一回叩いてみたいな、その顔
「せーの」
2枚のトランプがフェイスを表にしてテーブルに出された。
勝ったのは
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久々に書いた。リドルストーリーにしたのは
作者の気力が尽きたから。それらしく考えて
くれてれば嬉しい