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【短編小説】世界が終わる日に
午前7時、私は外の物音で目を覚ました。
日曜日の朝、私は大きく背伸びをした。
まだ開き切らない瞼を擦りながら、私はカーテンを開ける。
目の前に広がる風景も、いつもと同じ。
見慣れた住宅街、何本かの電柱、そこに止まる雀、
そして、道路慌てふためき泣き叫ぶ人々。
そこら中に血痕や、ところどころには腕と思われるナニカが落ちている。
空には絵本によく出てくるような丸い円盤。
しかし、絵本のように可愛らしい宇宙人の姿はない、どこか禍々しいものだ。
--世界が滅びるまで、あと10時間--
---
私はいつも通りの朝食を食べて、ニュースをつける。
テレビは先程の円盤の話や混乱した人々の話で話題が埋まっていて、
数週間前まで当たり前のようにやっていた子供番組も、勿論放送していなかった。
今日は本当なら学校があったはずだが、こんな状況なら当然休みだろうな。
外では人々が争う声や悲鳴が絶えず聞こえてくる。
まあ、どうでもいいけど。世界が終わるなら、せいぜいする。
私にはもう家族はいない。友達もいない。
両親も祖父母も従兄弟も学校の友達も、全員死んだ。
正直、家族も友達も夢も希望もない人生なんて、ない方がいいとさえ思っていた。
7日ほど前だろうか。あのニュースが放送されたのは。
「空に未確認物体が目撃されています。皆様、建物内へ避難してください。」
その日から、世界は変わった。
「飛行物体に動きは見られません。しかし、建物内からは出ないでください。」
「混乱した人々が暴走し、◯◯市が壊滅しました。」
最初はそんなニュースばかりだった。正直バカだと思った。
進展がないのに報告して、余計に市民の神経を逆撫でするなんてバカだな、と。
しかし、ある日突然動きがでた。
「飛行物体から要求が提示されました。」
『政府に幾つかの『指輪』を渡す。そのリングを身につけている者だけは、
我らの星で育てよう。それ以外はこの星ごと消す。』
だそうだ。世界はその指輪を求めて争いが始まった。
権力者や大統領が、自分と家族を生き残らせようと戦争し、《《ソレ》》を奪い合った。
私の街にも、どうやら一つだけ、リングがあるらしい。
朝の騒動はそれが原因だ。
ああ、うるさい。
みんな自分勝手だ。
自分が助かるために簡単に他人を蹴落とす。
私の身の回りの人々も、指輪を奪おうとして返り討ちにあって死んだ。
今までどんなに優しかった人でも、死に際には本性が出る。
ああ、こんな世界、早く滅びればいいのに…
--世界が滅びるまで、あと9時間--
---
しばらくゴロゴロしていたら、時間がどんどん過ぎていった。
時間が経つにつれ、私に開放感と幸福感が舞い降りる。
不謹慎だが、私はこの世界が人の醜さで腐敗していくのが、とても愉快だった。
--もう少しで、こんな世界から解放されるんだ…--
そんな事を考えるたび、私の頬が緩んだ。
自分でも、自分自身を最低だと思った。
やはり、人は死を目の前にした時、自分の醜い部分を曝け出す。
ああ、《《彼女》》は今どうしているんだろうか。
こんな状況でも、変わらず優しいのだろうか。
もう直ぐ昼になる。私は最後の晩餐を作りに、台所に立つ。
--世界が滅びるまで、残り4時間--
---
大きな叫び声と共に、私は飛び起きた。
昼食の後、気付かぬうちに昼寝をしてしまっていたらしい。
何事かと思い二階に登りカーテンを開けると、
人々の争いが酷くなっていた。
ああ、またかと思っていたら、ある男の声が耳に届いた。
「近くに指輪を持ってる奴がいる!」
ああ、ここまで来ているのか。家から出なければいいのに。うるさいなぁ。
空を見上げると、朝よりも円盤が増えている。
なるほど、どうりで暗いと思った。
ああ、いやだなぁ。早くこんな世界なくな
**バンッ!**
突然の爆音に肩が上がる。
……一階から聞こえた…?
私は早足で一階へ駆け降りた。
すると、裏口が開け放たれていて、
その側に、《《彼女》》が肩で息をしながら立っていた。
「久しぶり、麗香。中学以来かな。」
「……綾乃ちゃん…?」
--- 目の前の女…「綾乃」は、私が誰よりも嫌った存在。 ---
--- ……そして、私の大親友だ。 ---
--世界が滅びるまで、あと30分--
---
綾「…ふぅー、ごめんね、急に押しかけて。もう今しかないと思って。」
麗「…そっか。」
綾「…どう?元気してた?」
麗「そう見えるの?」
綾「…まったく。今にも消えそうな顔してる。」
麗「どうせ消えるじゃん。私も、綾乃ちゃんも。」
綾「…そうかー。」
麗「………」
綾「………」
麗「………………ねぇ。」
綾「なに?」
麗「……まだ怒ってる?」
綾「なににー?」
麗「…《《あのこと》》。」
---
私と綾乃は中学で出会った。
初対面なのにも関わらず、二人とも運命を感じていた。
私たちはすぐに仲良くなり、いつも一緒にいた。
綾乃はみんなに愛されるような優しくて明るい性格だった。
それに比べて私は根暗で、あまり目立たない性格だった。
そんなだから、私はいじめの標的にされた。
最初は陰口や上履き隠し、文房具を隠したりだった。
そのうちにエスカレートし、ついに机に暴言を書かれるようになった。
私は別に良かったのだが、綾乃がそれを許さなかった。
いじめっ子たちに怒って、先生に報告してくれ、私に寄り添ってくれた。
ただ、それによって、綾乃もいじめの標的となった。
それが、どうしても耐えられなかった。
自分のせいで誰かが傷つくのが、つらくて苦しかった。
麗「ねぇ、綾乃。もう私に関わらないで。」
綾「…え?なんで?急にどうしたの?」
麗「ずっと私にまとわりついて鬱陶しいし気持ち悪い。だから来ないで。」
綾「え、う、嘘で
麗「いいから!!もうしつこい!!!」
綾「……そっか…」
麗「もう二度と、私に関わらないでね。」
家に帰ってから、自分の行動を悔いた。
なんて酷い事をしたんだ。なんて事を言ってしまったんだ。
綾乃のあんな悲しい目、見たことがなかった。
私が、親友を傷つけたんだ。
全部私のせいだ。
でも、もう引き返せない。
どうしようもないんだ。
私はどうしようもない罪悪感を、一人悔い続けた。
---
綾「……あー、あれか。ううん、全然。絶対嘘だと思ってたから。」
麗「……え?え、ど、どういうこと?」
綾「いや、多分演技だろうなって思ってた。だから演技し返したの。」
麗「で、でも!あんなに悲しそうな顔して…!!」
綾「麗香、私が演劇部だってこと忘れた?」
麗「あ……あ……うそだ…………………」
綾「……麗香はさ。」
麗「……?」
綾「私たちの絆が、あれっぽっちの言葉で切れるようなものだと思ってたの?」
麗「!」
綾「麗香がどれだけ演技しても、私は騙されないよ。」
麗「…………………あ…あぁぁ……!!」
綾「……麗香。正直になっていいんだよ。演技しないで、本当の声を聞かせて。」
麗「…………っっ!!!!」
**バッ**
麗「………ごめんね…ごめんね綾乃ちゃん…!!」
綾「うん。いいよ。」
麗「私、ずっと怖かったの…綾乃ちゃんが私のせいで傷つくのが怖かったの…!!」
綾「そうなんだ。守ろうとしてくれたんだね。ありがとう。」
麗「でも…!!家に帰ってから、酷いこと言っちゃったって怖くなって……!」
「でももう引き返せなくて…謝れなかったの!!ごめんなさい!ごめんなさい…」
綾「怒ってないよ。大丈夫。」
--- 「私たちは、いつまでも親友だからね。」 ---
麗「…!!あぁ…ごめんね…ごめんね…」
綾「………ねぇ、《《これ》》、何か知ってる?」
涙と汗で前が見えない。
それでも見ないといけない。
そんな思いで顔を上げて、綾乃の手を見た。
麗「!!それって…!!!」
私はその手に光る指輪から、目が離せなかった。
--世界が滅びるまで、あと5分--
---
麗「それってまさか…!!」
綾「そう。これをつけてたら生き残れる、あの指輪だよ。」
麗「じゃあこの騒ぎが起きた理由ってあや
綾「しっ、あんまり声出さないで。外の人に聞こえたら大変だから。」
私は思わず口を覆う。
綾「そこで、麗香に聞きたいことがあるの。」
麗「……なに?」
綾「…………この指輪、欲しい?」
麗「………………え?」
時が止まる。いや、止まったような気がした。
綾「これで生き残れるのは、一つにつき一人。二人は無理。
麗「…………」
綾「麗香が生き残りたいなら、私はこれを麗香に譲る。」
麗「……え!?」
綾「言ったでしょ?私と麗香は二人で一人。だから私の権利も麗香のもの。」
私は唾を飲んだ。
綾「………ごめんね、こんなこと聞いて。でも、麗香に答えて欲しい。」
私は覚悟を決める。
私はもう傷つけたくない。
麗「……ううん、いらない。綾乃ちゃんがつけて。」
綾「え!?……なんで?」
麗「私は、もうあなたを傷つけたくないの。」
綾「…………そっか…」
「……麗香がそうくるなら、私はこうするね。」
そう言って、綾乃は指輪を地面に置いた。
そして、近くにあったトンカチを手に取った。
麗「……なにしてるの?早くつけ
綾「私も、もう麗香と離れたくない。だからこうするの。」
その瞬間、綾乃はトンカチを持っている手を指輪に振り翳した。
**ガンッッ!!!!**
そんな音が鳴って、生きるための道は美しい欠片となった。
--世界が滅びるまで、あと2分--
---
麗「………え…?」
綾「…私は確かに、あなたの言葉が嘘だってわかってた。」
「………でも、あなたに無視されて、寂しかった。」
麗「……!」
綾「だから、もう離れたくない。」
麗「……っっ!!」 ポロポロ
--- 綾「…麗香が死ぬなら、私も一緒に死ぬよ。」 ---
麗「あ…あぁ…綾乃ちゃん……」
綾「麗香…死ぬの、怖い?」
ああ、こんなときに、もうどうでも良かったのに。
わたし…わたし…
麗「………どうしよう…怖いよ…死にたくないよ…」
綾「…私もだよ。…でもね?麗香。」
麗「……!」
--- 綾「もう、寂しくないよ。」 ---
私は頷くことしかできなかった。
もう、この温もりを、優しさを、手放すことはない。
やっぱり彼女は、心から優しい人だった。
麗「……ありがとう…綾乃ちゃん……!!」
綾「………またあっちで会おうね… 麗香!!」
その瞬間、空が眩しく光った。
光が、私と親友を包み込む。
私と親友は、つよく、つよく手を握り合った。
--世界が滅びるまで、あと0分--
こんにちは、「読書が好き🍵」です。
今回は、本当に思いついた話を美化に美化を重ねて作りました。
そしたら思ったよりもいい作品ができたので投稿しました。
ただ、本当に適当なので、多分どこか間違ってると思います。
アドバイス等があれば、是非意見を聞かせてくださいね。
それでは、またどこかでお会いしましょう。