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公開中

夏のフキノトウを探して

(いまごろトウヤたち、どうしてるかなー。) 多くの人でにぎわっているデパートの中で、オレはふとそう思った。 おととい、オレはトウヤとナツといっしょに遊んだ。 明日も遊ぼうという話になったが、オレは親父が帰ってくることになったので、遊べなかったのだ。 つりとかしてんのかなぁ。いいなぁ、楽しそうだなぁ。 「アキー!こっちにウルトラマンの人形売ってるぞー!」 おもちゃ屋のテナントの前で、親父が手をふっている。 「それは親父のシュミだろー?」 「はははっ、まぁなー。」 親父は大人のくせして、ウルトラマンのグッズを集めている。 家の中の親父の部屋も、ウルトラマンだらけだ。 かーちゃんは、掃除が大変だから、少しへらしてほしいとぐちをはいてたが、 親父は軍人のえらい人で、たくさんお金をもらっているから、 仕方なくゆるしているらしい。 「そうだ、テレビを買わないか?」 いきなりの言葉に、かーちゃんが言った。 「テレビって…あんた、そんなお金あるの?」 「あるとも。今回は長い遠征だったからな。それなりにはもらってるさ。」 そういい、かーちゃんもそれならいいけどと、テレビ売り場にむかった。 だけどオレは、ふとしたひょうしにかーちゃんから手をはなしてしまい、人ごみに まぎれてしまった。 オレよりうんとせのたかい人たちの足が、あっちこっち行くもんだから、 オレはあわててしまって、デパートのげんかん口まで走ってしまった。 「やっ…やばいっ…ここどこや…。」 ひっしになって走っていたら、町の中に出てしまっていた。 そこそこある人通りは、デパートよりはマシだった。 「とにかくもどらなきゃ…!」 覚えているかぎりの道をたどって、オレはデパートへとむかった。 だけど、建物が大きすぎて、デパートがどこかわからない。 ああ…もう少しひくけりゃいいのに…! (どんっ) いきなり、だれかとぶつかってしまった。 「いってぇー…おい!よそみすんじゃねーぞ!」 オレより年上ぐらいの男の子が、オレとぶつかったようだった。 男の子は地べたにすわったまま、オレの方をまっすぐみている。 気づけば、オレもしりもちをついていた。 すかさず、オレはあやまった。 「ごっ…ごめんなさい…!」 男の子はそう聞くと、よろしいと言って、立ち上がり オレに手を差し出してきた。 オレは手をとり、立ち上がった。 「けがないか?」 「うん…ごめんなさい。」 「もうあやまらなくていーよ。」 へらっと男の子は笑い、立ちさろうとした。 が、なぜかふりかえって、オレの方に来た。 「てかおめぇ、よく見たら違うとこから来たガキじゃねぇか。なんか目もあけぇし、大丈夫か?」 「へぇっ…?」 マヌケな返事をしたオレはたしかに言われて気づいた。 目頭がいたい。かるくパニクって、自分でも泣いたかわからなかった。 男の子の目は、さっきと違って、優しく、やわらかい目に変わっていた。 だけどそれがこわくって、またあわててしまった。 「あっ、えと、大丈夫だけど、あの、あの、あの…。」 「おい、落ち着けって、こっちは急かしてねぇから。ゆっくり言え。」 「…オレ、まいごになっちゃって…デパート、わからなくなっちゃって…。」 ふるえた情けない声で、オレはその男の子に言った。 すると、男の子は言った。 「迷子か。デパートっつったら…あそこしかねぇし、連れてってやるよ。」 とくいげな声でオレの手をまたつかみ、男の子はズイズイ進んでゆく。 人ごみを、たきのげきりゅうにさかのぼるコイのようにすすんでゆく…。 「ほら、ここか?」 ついたさきは、オレが飛び出したデパートだった。 「…!ここです!ありがとうございます!」 「いいってことよぉ。また迷子になったら送ってってやるよ。」 男の子はうれしそうになって、後ろをむいて、歩き出そうとした。 だけど、オレは、 「ちょっと待って。」 少し気になったことがあって、よびとめた。 男の子はくるっとこっちをむいた。 「ん?」 「あの、名前ってなんですか?」 男の子は答えた。 「お前が言ってくれたら教えてやんよ。」
「それじゃあな、アキ。」 朝、親父はそう言って家から出て行った。 オレは親父を止めもせず、ただかーちゃんといっしょに見送った。 だけどそれじゃあさびしい気がしたので、ビシッと敬礼を親父にした。 すると親父はそれよりも力強く、ズバッと敬礼を返してくれた。 目の中はうるんでいた。 また、会えるかな。