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恋
僕は、孤独で存在感が無い人だった。
元々あまり人との対話が苦手で、一人クラスの端で小説を読んでいた。
一方、彼女は真逆ともいえる人だった。
美しい顔つきとその独特な雰囲気で、学校内でも男女共に人気というか、別格。
とても人目を引く存在だった。
ある休日、僕は彼女と街で会った。
お互いが気づき、彼女の方が私に声をかけた。
意外で、衝撃的なことだった。
どうやら目的地が一緒らしく、二人は一緒にそこへ向かった。
彼女は僕の一歩前を進んだが、置いていかれることはなかった。
僕は緊張していた。
目の前にいる、その白い肌やまるで造り物のような美しい顔つきに、僅かな恐怖さえ抱いていた。
途中、交差点での信号待ちの際、彼女は振り向き訊いてきた。
「何の本借りるの。」
僕は緊張を抑え、平静を装い、最低限の言葉で返事をした。
次に彼女が口を開こうとした時、暴走した車がこちらに向かって来た。
僕は、一人で倒れ込むように避けてしまった。
結果、車はギリギリ彼女の服を掠って、そのままどこかへ行ってしまった。
少し遅れて来た風で、彼女の髪がなびいていた。
僕は倒れたまま彼女を見上げた。
自分のことを優先して、彼女を見捨てるに近い行動をしてしまったことを後悔し、嫌われたのではないか、怒らせてしまったのではないかと不安だった。
しかし、彼女の顔は落ち着いていた。
それが安心でもあり、恐怖でもあった。
今までは、なんとなく美しい人という認識だったが、実際に彼女という人間の洗礼を受けて、彼女に対する認識が塗り替えされていった。
その認識は美しく、汚かった。
それは彼女という存在に安心し、共感し、憧れていた。
しかし、それだけでなく執着や色欲、彼女の周りの人に対する嫉妬も同時にあった。
それは“恋”だった。