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エイナ 〜馬鹿な親には格の違いを見せましょう〜
私はマリー。
優しい姉と、あまり関わらない兄と、かわいがってくれる両親のもとで育った。
私が2歳のとき、姉がいなくなった。
その前の日に私が魔術を使ったのがいけなかったのかな?
だけど、それからは両親が二人とも私にかかりきりでいてくれるようになったから、そんなことはあまり気にならなかった。
そんなように育っていき、ついこの間、私は10歳になった。
私の周りの人達は、みんな私の言うことを聞いてくれる。
なのに…その日、私は捨てられた。少しのお金を持たせられて。
ー なんで!
理解が出来なかった。
あの両親め。なぜ私の言うことを聞いてくれない!
「お前!」
「え?え?一体…」
近くにいた奴に声を掛けた。
「このお金で働かない?」
ちょっとだけ、1枚だけで聞いた。
どの硬貨がどんな価値があるのかなんてわからない。だけど、どれも同じ硬貨だったから、それを1枚だけあげた。
「え!?どんな仕事ですか?」
「私の役に立つ仕事。」
「時間は?」
「そうね…とりあえず3日くらい?」
「働きます!」
何だかわからないけれど、良かった。これで、この子には何をしても許される。
「汚いね。早く洗ってきてくれない?水はあげるから。」
「え?どこに?」
「ウォーターシャワー! ほらね。」
「凄いです!」
「ほら早く!」
しばらくしてその少年がやってきた。
「遅い!」
「すみません、丁寧に汚れをとっていたらこんな時間に…」
「これを着なさい」
「ありがとうございます!」
わざわざ大げさな子供だ。これくらい普通なのに。
「仕事内容はあなたの役に立つ…でしたよね?内容は?」
「そうね…今、住む場所に困っているの。探してきてくれる?」
「はい!いい場所を知っています!ついてきてください!」
役に立つ少年ね。
「ここです。」
「狭いし汚い!もっと綺麗な部屋はないの!?」
「すみません。じゃあこっちに!」
そして次に連れてきてもらった家は…さっきよりも大きかった。
「ここでいい。入っていいの?」
「少し待っていてください。」
「はやくしてよね。」
「あの…」
「何?」
「お金を…この家は借りるのにお金がかかるんですよ。」
「はぁ…これくらいでいい?」
硬貨を10枚ほどあげる。
「ではとりあえず3日分借りてきます!」
そして、少年が帰ってきた。
「借りれました!」
「遅い!」
「すみません!」
「まあいいや。入っていいの?」
「はい!あと、これが余りのお金です。」
「余ったの?じゃあもらっておくわ。」
変なの。そんなに安かったの?
まあいいか。
「あの…」
「何?」
「お金は…稼がなくていいんですか?」
「お金?稼いだほうがいいの?」
「もちろん!」
「ではやるわ。あなたに任せていいの?」
「ええと…水を魔術でくれませんか?」
「水?それだけでいいの?」
「はい!十分です!」
次の日、その少年は、私に水を請求し、そして、出かけていった。
「水ください!」
「水ください!」
「水ください!」
何回も戻ってきた。そして、その合間に、昼食を作って、おいていってくれた。
質素な食事だった。だけれど、その気持ちが嬉しかった。
まぁ…
「まずい!」
と、声を荒げてしまったけど。
そして、夕方、帰ってきた。
大量の何かを持って帰ってきて。
「これは何なの!?」
「銅貨…ですけど。」
「これが銅?銅はこんなにみすぼらしくないわ!」
「いえ、これが銅です。」
この少年は、本気で私が何を言っているのか分からない、というような表情をしていた。
おかしいな?
そう思った。
「本当にこれが銅貨?」
「はい、そしてこっちが銀貨、さっきあなたが持っていたのは金貨です。」
あれが金貨?
へぇ〜。驚いた。
「そう、じゃあいいわ。」
「では、夕食を作るので少し待っていてください。」
平民の子にしてはしっかりしている。
そして私のために行動していること、それが信頼できた。
「できるだけ美味しくしてよ。」
「気をつけます!」
そしてしばらく後…
「ええと…出来ましたが…」
「いただくわ。」
そして…
「まずい!」
やはりそんな言葉が出てきた。
「すみませんっ!」
「だけど、さっきよりは美味しくなっているわ。もっとこれから頑張りなさい。」
「はい!」
そして、1年弱がたった。
「エイナ、今度魔術師になれる試験があるそうだよ。」
あの少年…ユタは今も働いてくれている。
しかも給料としてあげているのを毎回少なくしてくる。
そんなので大丈夫なのかしら?
「そうなの? それで?」
「出てみたらどう?」
「なんで?」
「だってエイナの親は宮廷魔術師なんでしょ?そしてその親が目をかけるほどの才能があるんだから、受かるんじゃない?」
「うん、良さそうね。試してみましょう。」
「分かった。お金がいるんだけど持っていっていい?」
「いいわよ。」
そして、受けてみることにした。
ユタの助言で髪の色と目の色と名前を変えた。
「エイナ、合格だってよ!」
「本当?」
「あぁ。」
「では、私は魔術師となるのね。」
「そうだよ!名誉なことだよ!1週間後に入団式があるらしい。」
「そう、それに参加すればいいのね。」
「そうだよ。国王陛下も現れるんだって。」
それなら結構凄いことなんだ。
「分かった。準備物は?」
「特に無い」
「楽しみね。」
「うん。見に行けないのが残念だ。」
「ふふ、ありがとう。」
それからはいつものように過ごした。
ユタは今日も物を売りに行ってくれている。
ー なんで私のもとで働いているの?
時々聞きたくなる。
だってどんどん減る給料。そして結局働いているだけ。それにプラスして食事とかも。
休暇はない。時々、昼食を置いて、どこかに出かけていることもあるけど、それでもまったく仕事をしていない日はない。
こんな肉体労働ばっかりの仕事、普通は嫌だと思う。
「エイナ。」
待ちに待った入団式。最初に呼ばれ、立ち上がる。
他のものもどんどん立ち上がっていっていった。
今年の合格者は、12人。
サナという人物がいた代に次ぐ少なさであった。
そして、それより小さいとは言え話題を呼んだ。
ー サナ様と同じ11歳で、それより弱いとは言え十分な実力をもった少女が合格した。期待できそうだ。
そんな感じの話題だったそうだ。
「以上の12名を魔術師に任命し、魔術団への入団を許可する。」
へぇ〜この人が国王陛下かぁ。
そして、演習機関に入った。
最近は、王宮魔術師団団長が見に来るようになったそうだ。
そして、一人だけ違う雰囲気をまとった人がいた。きっとあの人が今の団長だろう。
ユタからの助言を受けて、私は一生懸命頑張った。
私の周りにいる人みんなが私の言うことを聞かないことは分かっている。だから、努力をすることに対しても、演習に対しても文句は言わない。
その方がいいとユタに言われた。
そして1ヶ月が過ぎた。
「第一魔術師団、エイナ、ヒスイ」
「「はい!」」
ヒスイは中のいい友達だ。新しく出来た。
今回、一緒に第1魔術師団になれて嬉しい。
そして、紋章を取りに向かう。
「頑張ってください。」
「「はい!」」
二人で顔を見合わせて笑う。それほどまでに楽しかったし、嬉しかった。
「やったね!」
「嬉しい!」
二人で発表が終わった後、喜び合う。
第1魔術師団は宮廷魔術師団の次に仕事がよく来る団だ。
「頑張ろうね。」
「うん。」
そして、怒涛の日々に突入した。
今日は、王宮魔術師団のサルナーンという魔物を討伐について行っている。
王宮魔術師団のサナという人の噂はよく聞き、天性の天才だとか、その兄も凄いとか聞いたのだが…
その兄が私の記憶の中の兄と同じなのだ。
もしかして、サナは私の姉だったの?
そう思うことも何度かあり、今日は始めて王宮魔術師団との共同討伐だから、聞けるタイミングを狙っているのだ。
「あなた、変装しているのね。」
そんなとき、突然後ろから声をかけられた。サナと呼ばれる少女がいた。
「え?」
「ごめんなさい、知られたくないことだった?」
「それはそうですけど…なんで?」
「魔力を使っている人は分かるのよ。私も変装しているしね。ほら。」
サナさんは変装を解いた。
そこから見えた姿は、記憶の中の姉にそっくりだった。
「お姉ちゃん…?」
私も変装を解く。
「え?マリー?」
マリーという名を知っている…
「やっぱり!お姉ちゃんだ!」
「あなた‥傲慢になったって噂で聞いていたのだけど…」
「あのときはね。親に捨てられて改めた。親切な人にも出会ったしね。」
「え、何それ!今度見せて」
「いいよ。」
「え?いいの?デアメンもじゃあ行こうよ。」
「ああ、興味がある。」
「決定だぁ!」
あれ?何かヤバいことになっちゃった?まあいいか。
「じゃあマリー…じゃなくてエイナだっけ?私たちのタッグをよく見るといいよ!新人中の新人だけど、私たちは強いんだから!」
「うん!」
今まで感じていたことが解消されて、気持ちよく過ごせた。
お兄ちゃんもお姉ちゃんもすごい活躍だった。
2人だけで全体の魔物の半数を倒していた。
すごいなぁ。私も頑張らないと。
終わったころ…
「あなた…マリーなの?」
誰だ?って母親か。
「誰のこと?私はエイナよ。」
急いで変装し直す。
「あんたも…私を裏切ったのね。」
裏切った?私を裏切ったのはあんただろう。
「あんなに目をかけて育ててやったというのに。」
「あら?落ちた者は何をほざいているのかな?」
「デアメン…あんたなんか私たちよりも弱いくせに。」
「だったら私は?ぜったいあんたらより強い。だいたい今の私は宮廷魔術師。あんたらはただの魔術師。違いは明白だよ。」
「くっ…」
うわっ、その表情気持ちいい。
「ともかく、2度と私達3人の親を名乗らないで。私たちはあなたたちに捨てられ、私たちもあんたたちを捨てた、それだけだから。」
サナ…お姉ちゃんが言ってくれた。流石だ。
兄と姉をみて奮起され、親の憎しみでさらなるやる気が出た。
そこからはさらに頑張った。
2年後、私は宮廷魔術師団に配属された。
姉であるサナに次ぐ快挙である。
「やったよ!お兄ちゃん、お姉ちゃん!」
「思ったより早く来たな。」
「こんなに早く来るとは思ってなかったよ、正直。」
姉はかなり正直だった。
「それにしても…俺が何年も魔術団で地道に頑張ったやつを簡単に潰してくれるな。」
「あはは…仕方ないでしょ。」
認めるしかない。
「そう言えば面白いよね、王宮魔術師団に3連続に入ったんだよ、この兄弟。」
姉がそういった。
「確かに。順番はおかしいし、俺が一番地味だが。」
「まあ一般的にはすごいことだよ。」
「そうそう。」
姉に同意した。
「無理に慰めなくてもいいよ。」
そしたら、苦い顔をされた。
「「あはは…」」
正直、ちょっと無理があるかなとは思っていた。
「お前らって兄弟?」
「そうですよ、カイン団長。デアメン、私、エイナで3兄弟です。」
「そうなのか。ってことはエイナもあの二人の子か?」
「はい、そうです。このように変装しています。」
「お前もか…」
なぜか呆れられた。
「あ、そうだ。エイナもとうとう王宮魔術師になったことだし、今度会いに行くね。」
何のこと?と思ったが、ユタのことだと思い出す。
「3日後に休暇があるしそこで来ていいよ。」
「やったー!」
そして、その日はやってきた。
「いよいよ初対面だ。」
「楽しみだね。」
「ただいまーユタ。」
「あ、おかえり、エイナ。この人たちが兄と姉?」
「そう。」
「はじめまして。ユタです。」
「こちらこそはじめまして、姉のサナです。」
「はじめまして、兄のデアメンだ。」
「本物?」
「そうだよ。」
なぜか嘘のように思えたらしい。もしかして私、信じられていなかったの?
「すごい!感激しました!」
なんだ、感慨にふけっていただけか。
「良さそうな子ね。」
「あぁ、信頼はできそうだ。」
「あのさ、始めのころエイナがあたり散らかしていたという噂があったのだけど、あれって本当なの?」
少し考えた様子の姉が発言した。
私はというと、そんな噂はまったく聞いたことがなくて驚いた。
「違います。まぁあれは…エイナの前では話せませんね。また今度お会いしましょう。」
「そう。では今回は諦めましょう、また今度ね。」
「仕方ないか…」
今回は二人とも出ていってくれた。
あの両親は、無理に王宮魔術師団に戻ろうとして、今度は魔術師をやめられたそう。
いい気味だ。
あの両親に偶然とはいえ少しはいい気味に合わせられて、本当に良かった。
そう思った。
後から聞いた話によると、サナの方がいい気味に合わせていて、残念だという気持ちと同時に、嬉しい気持ちもあった。
ただ、サナがいい気味に合わせたから私は捨てられ、今の状態になっている。
だとしたら、あの両親から離れられて本当に良かったと思う。
姉と兄…サナとデアメンは今は団長、副団長になって、この魔術師団をより良くしようと努力している。
マリーという人物はいないことにされている。それはカエミナも同じだ。
私はエイナとしてふたりの妹で、王宮魔術師団を支えている。
そうして、魔術師団のトップの兄弟姉妹として君臨している。
その両親については…だれも触れないそうだ。