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不思議な人だった。彼女視点
yu_yu
また痛いです。ごめんなさい。
彼は不思議な人だった。
いつも濡れていて、何も話せない私を優しく受け止めてくれた。
時には街にも連れて行ってくれて。
不器用で、でも何故か全てを知っていて、何も聞かないでくれて。
そんな彼を、愛していた。
確かに、愛していたのに。
私は、実験動物だった。
この世界にある一部の人間のみが持っている能力を、私は持って生まれた。
時間を渡る能力。
海を渡れば、好きな時間に行ける。
ちょっと前にも、すごく前にも、
ちょっと後にも、すごく後にも。
どうやら周りの大人は、この能力で私を生物兵器のようにしたいらしい。
薄暗い実験室と、狭くて小さい外。
それ以外、私は知らない。
生まれた頃から、実験室に居たから。
実験の調査でしか、外に出れなかったから。
訓練の間に、泳ぎは酷く上手くなった。
私を解放してくれて、私を縛る海。
何も怖くなかった。
溺れることも、死ぬことも。
こんなに汚い世界を、愛せるわけがなかった。
でも、夕日に染まって、オレンジ色に輝いている海は、少し綺麗だと思った。
いつしか私は、実験室から逃げ出した。
反抗したのは初めてだった。
でも、何故かどうしようもなくこの実験室から出たかった。
外を、知りたかった。
海を渡った。
適当な時間に設定して。
でも、誰も私のことを知らない時間軸に。
なんにも、縛られない時間に。
周りの人は、時間軸が違う私のことは、存在を認知できても、姿は見えない。
なのに、彼だけは見えた。
何故か、彼は私に何も聞かなかった。
きっと、疑問は沢山あったのに。
彼に初めて会った時、酷くかっこいい人だと思った。
それに対して、自分のみすぼらしい格好が恥ずかしくなった。
だから、次に会う時からは周りの大人に内緒でかった可愛いお洋服を着て、精一杯のオシャレをして彼に会いに行った。
彼は会うだけで喜んでくれた。
彼は、私の狭い世界を広げてくれた。
彼のいる世界は、いつもより何故か綺麗で、何故か美しくて。
初めて、世界を愛せた。
でも、元の時間軸に戻らなければ、世界は狂ってしまう。
滞在できて、1日。
でなければ、世界の法則に反してしまう。
だから、彼とはずっと一緒にはいられない。
私と彼は違う世界の人だから。
薄暗い実験室も、周りの大人の下衆な視線も、体に流れる電気の痛みも、彼を思えば耐えられた。
でも、一つだけ怖いものができた。
死んでしまうこと。
死んでしまえば、彼の中から私の存在は消える。
その事が、酷く怖かった。
でも、わかっていた。
私はきっと早くに死んでしまう。
いつしか実験が成功して、生物兵器となった時。
戦場に出た時。
私はどこまで行っても少女で、非力で、怪我を負えば治すことも出来ない。
攻撃力だってきっと劣る。
だから、私はもう長くない。
分かっている。
でも、彼に会うのはやめられなかった。
彼に会えなければ、私は壊れてしまうと思ったから。
彼の仕草が、視線が、声が。
全て愛おしくて、安心出来たんだ。
愛していた。きっと、お互いに。
初恋だった。いや、もしかしたら恋を超えていたのかもしれない。
でも、私は近々居なくなる。
実験がそろそろ成功しそうという話を聞いた。
お互いに気持ちは伝えなかった。
何故か、きっと彼は私に想いを伝えても意味が無いことをわかっていたのだと思う。
愛していたのに、伝えられない。
結ばれは、しない。
いつしか、私は彼に言った。
私は、あなたと違う世界にいて。
海を渡ってここまで来ていて、
あなたに会う為だけに来ているんだと。
そう、伝えた。
愛を伝える代わりに。
その事を伝えた数日後、ついに実験が成功した。
彼にはもう会えない。
私は、もう人間じゃなくて、兵器だから。
もう、長くないから。
彼の中に私という存在が残らないことが酷く悲しい。
何かを送ればよかったのかもしれない。
気持ちを伝えれば?
いや、きっとダメだ。
それでは、彼に呪いを残すだけだ。
彼を苦しめたい訳ではなかった。
彼を、愛していたから。
心の底から。
戦場にでて、私が言うほど強くないことを知った。
無数のナイフを操るもの、爆発を自由に起こせるもの。
無条件で時を止めたり、操ることが出来るもの。
戦場に出て、数日で私は致命傷を負った。
ナイフを避けられなくて、胸に刺さったのだ。
死ぬ間際に見えたのは、彼の優しくて、酷く悲しそうな笑顔。
彼に、最後まで気持ちを言えなかった。
そういえば、名前だって。
隣町にだって行きたかったし、もっと平和で普通の世界なら私の世界にも連れてきたかったし。
彼のそばは、すごく息がしやすくて。
愛していた。でも、きっと私と彼は結ばれない運命だ。
何故か知っていて、何故かわかった。
いつか、もし私が彼に会えたら。
彼は、私のことを思い出してくれるだろうか。
長くなりました。
書きながら大号泣です。
黒歴史量産機ですが、これからもよろしくお願いします。
ちなみに、この話書いてる途中で一度データがぶっ飛びました。
何とか書ききれて良かったです。