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キミの名前を描きたい。4
昔の―ように。
―「っへ⁉」
俺の体に誰かのぬくもりが触れていた。俺は気付かないうちに穂希を抱きしめていた。二人の身体の間には、空気の分子すら入れたくない気持ちで俺は穂希を強く抱きしめた。俺はの気持ちを穂希に受け取ってほしい。君を守りたい。君が―大好きだから。
―「ちょ、っと、いぶ…きくん」
俺の胸のあたりから彼女の苦しそうな声が聞こえ、俺はとっさに穂希の体から距離を置く。ちょ、待ってこの後どうしたらいいんだ⁉そ、そうだ、勝手に抱きしめたこと、謝らないと。
「あ、ご、ごめん。」
その声はぎこちなくて、正直言うととてもダサかった。恥ずかしすぎて穂希の顔を見ることができない。
「…」
それからずっと気まずい雰囲気の中、しばらくしても穂希の声が聞こえなくて俺はゆっくり顔を上げた。すると穂希は―。
「え」
俺の口からぽろっと言葉が出る。―穂希は心の染み入るような優しい笑顔で俺のことを見ていた。
「あ…」
いつまで経っても穂希は口元に笑みを刻んでいた。その顔は吸い込まれてしまうほど可愛かった。―そして、聞いていると思わず笑みが浮ぶほどかわいらしい声で俺の名前を呼んだのだ。
「一颯君。」
その声は小鳥のさえずりみたいに聞こえた。俺はそんな穂希に瞬き一つせずに、見惚れていた。あぁ、なんて穂希は可愛いのだろう。―あの頃の記憶が穂希の心の中にあったらいいのにな。
「私もね」
穂希は頬の辺りを紅潮させながら何かをゆっくりと告げようとする。穂希の手がぎゅっと握られた。
「え」
俺の体に再び誰かのぬくもりが伝わる。
「私も」
俺の顔の横で穂希の声が聞こえた。おそらく、今の状況を把握するのに5秒くらいはかかっただろう。俺は今―穂希に抱きしめられている。俺は耳まで熱湯をかけられたみたいに顔が熱くなった。でも穂希の体が震えていて俺もすかさず穂希の背中に手を回す。
「俺も」
穂希の言葉に重ねるように言葉を発する。
「一颯君が」
「穂希が」
お互いの名前を呼び合う。穂希…。いい、名前だな。彼女が俺を抱きしめる力がグン、と強くなる。
「私は…」
その今にも消えてしまいそうな声が微かに震えていた。あぁ、やっぱり君を守りたい。そばにいたい。俺は穂希の頭を優しくなでた。穂希の肩がビクッと上がる。穂希は俺から少しだけ離れ俺を―見た。至近距離で目が合って俺は穂希の可愛さに耐えきれず俺は少し目をそらした。
「あのね、」
穂希がゆっくりと告げる。俺ももう一度穂希を見た。長く黒いまつげが上下に動き、穂希の目が俺の心の的の中心を射抜いた。
その途端、俺の目に何かの細工がかかったように、俺の目には穂希しか見えなくなった。俺を見つめている綺麗で美しい目、天使のような微笑み。あぁ、なんて素敵な世界に俺は生まれてきたんだろう。宇宙で一番かわいい天使がいるようなこの世界に。そして、その天使に触れられる距離に俺がいること。これが、これこそが、キセキというやつだ。でも、一つだけ。足りないことが―ある。
「ねぇ、」
穂希が口を開き、鈴のなるような声で俺に語りかける。そして、頬をバラ色に染めながら俺の待ち望んでいた言葉を口にした。
「私は一颯君が、好き、だよ。」
俺の体の頭から足のつま先まで一気に熱が広がった。そしてもう一度優しく穂希を抱きしめる。―9年間、ずっと君に片思いしていた。ずっと、好きだった。君の―が欠けていて、君が俺を覚えていなかったのは正直言って辛かった、苦しかった。でも、俺は君を守り続けるよ。―昔の、ように。―深呼吸をしてから大好きな君にこう告げた。
「うん俺も。世界一好きだよ、君のこと。」
これからも続きます!次は瞬月視点!