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#11 いつもの日常
あの騒動から1か月。
「もうお菓子は全面解禁します。ですが、また私が気になり始めたら再び禁止しますので、自主的に行動してください」
目の前にでてきたお菓子類。
狸と兎のキャラクターが描かれたきのこの山に、ピンクと茶色のアポロチョコ。ブルボンの黄色いコンソメ味の小さいのと、赤いうすしお味のポテトチップス。アーモンドを包んだチョコレート。ピンクや黄色や緑や紫の小さなグミ。
久しぶりに見たカラフルなパッケージは、やっぱり心が小躍りする。取り敢えずまずはアポロチョコを口に運んだ。甘いイチゴチョコレートとミルクチョコレートが、口の中ですうっと溶けていく。
「久しぶりですが、美味しいですか」
「うん、美味しい」
「そういえば、インターはきのこ派でしたね」
「うん、そうだよ〜」
あぁ、近頃味わえていなかった甘さ。ぎゅっと噛み締め、やっぱりいいなぁとふける。
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仕事が始まりました。
「えぇと、今日は文字化けが2件か、楽勝だね」
「そうですね」
そう返事をします。
「1件はわたしがやっておくから、もう1件はネットね」
「はい」
どす黒い紫色のモヤのところに近づき、注意しながらキーボードを叩きます。
「あ…」
そのパソコンを使う主は、どうやらクラック・キング家の誰からしいです。Crack・Kingという文字が見えます。
私の前の代、ラネットが所属するところです。ラネットはいま、どうしているのでしょうか。
そういえば、クラック・キング家は日本の人ではなさそうです。どの国なのでしょうか。この膨大な情報の海の中で、その問いは必要ないのかもしれません。
『あぁ、思い出してくれたんだ』
ふと、メッセージが頭をよぎります。それは間違いなく、ラネットのものです。私を強制シャットダウンに追い込ませたアンドロイドのものです。
『恨んでるよね』
当たり前です。
『…あんたを助けるプログラムを送りつけたのは、単なる人助け、アンドロイド助けじゃないよ。情けは人の為ならずでもない。惰性でそうプログラムされているのかもね。でも、善意ではないことは確か。きっと幸せにしてよ、できなかったんだから。失敗作ではできなかったんだから』
この前まで、悪戯と思っていました。けれど、それはラネットにとって悪戯でもなく、生きるためのものだったのかもしれません。
あの選択はどうだったのでしょう。
「ネット、直せた?」
「あぁ、直せました」
いえ、こんなことを考えている暇はありません。
「では、昼食にしましょう。今日はナポリタンかカルボナーラの予定です」
「わぁ、いいね。どっちがいいかな〜。ケチャップもいいけど、卵とチーズも捨てがたいなぁ」
私の役目は、この《《いつもの日常》》を守ることなのですから。