公開中
家出 短編
家出をした。
アテは無い。
ただ、歩き続ける。
思いが向くまま。
風が吹いて雑草の匂いが鼻をくすぐる。そんな気がした。
人の声はしない。ただ、葉と葉が擦れる音だけ。
どうしてここにいるんだっけ。
私は、誰だっけ。
どこかで、誰かが笑っていた。
その日、火の粉が、舞っていた。人が叫ぶ声。血が沸騰するほどの温度。
熱い。
そう感じていた。たった、それだけ。視界が悪い。目の前が赤いのか黒いのか白いのかわからない。目を瞑っているかすらわからない。
__「まだ人が残っているぞー」「水属性の魔術師様はまだ来ないの?」「助けてくれぇ」「熱い、熱いぃぃ」__
喧騒が遠くに聞こえる。不快な暑さが体を蝕んだ。
視界が晴れる。
青い空が目に飛び込んだ。ここは近所の防災公園兼集いの場だろう。
気付けば、火は消えていた。
賢者様が救ってくれたのか、火傷もしていない。
周りにはたくさんの負傷者や、顔に白い布をかけられた人がブルーシートの上に寝かされていた。
湿度と温度が高い。
今の季節は、夏のようだった。
とりあえず家に向かった。
父、母、姉。家族全員、家と共に全焼していた。助かったのは自分だけのようだった。
__ ~~*罰だ*~~ __
焼け跡となって、骨組みが剥き出しとなった“元”家は、限界を保てていなかった。中に入ると、家具や生活に必要なものは、所々残っているが、ほぼ使えない状態。
生臭い匂いがした。
良いとはお世辞にも言えない悪臭を追ってみると、人であった骨が、屑となり、焦げていた。
収穫はなかった(強いて言うなら、火事でいい感じに熱消毒された木の実ならあった)。ただ、太陽が熱かった。眩しかった。
少し、散歩に出ていた。人気は少ない。
火事の原因が、公民館に貼られていた。
「**隣国の急襲!?今後の政府の動きとはー**」
続きなんてどうでもよかった。急襲という単語だけで理解するのに十分だった。
隣の国。かつて友好関係を結んだ地。今は確か輸入品の話でピリピリとした雰囲気だったはず。
どうでもいいや。
やることがなくなった。
失った。
家族も、財産と呼べるものも、すべて。
全てからの解放。
しかし。
--- 暇。 ---
何かがしたいわけでも無い。
目標もやる気もない。
アテもなく、ただ歩いてみた。
何かをしていれば、見つかると思った。
そんなの、ただの願望でしかないけど。
---
いろんな表情の太陽が顔を出して、いろんな形や向きの月が昇った。数回、桜が散って、雪が降った。
今、何をしているかというと。
---
雪。
季節は、2回目の冬だった。
今年は寒くて、雪もたくさん降った。
でも、ふわふわの雪だからか、さくさく、という雪の踏む音がしなかった。
何かを忘れている気がした。
でも、思い出すのに時間がかかりそうで、諦めた。
気づけば、隣の国まで歩いていた。
--- また、時間が過ぎた。時間の無駄使いみたいに、歩きまくってた。 ---
ただ、歩いていた。
不思議と、疲れなかった。
変。
*ざらり*
胸の奥の違和感。でも、知ったら全部終わっちゃう気がして、知らないふりをした。
でも、無視できない形で、やっぱりあった。
足が疲れていない。
裸足のはずなのに、痛くない。
お腹が空いていない。
無視されている。みんなに。
おかしい。
なんで。
もしかして。
そこまで辿り着いて、思考が現実に戻った。
気づいちゃいけない。
だめだ。
終わってしまう。
*なにが?*
わからない。
ぜんぶ。
いやだ。
わからない。
むり。
ぐるぐるとあたまがまわる。
たちくらみ?
そんなことはない。かもしれない。
みえない。
ぜんぶ。
あつい。
わからない。
みえない。
めがひらいてるかすらわからない。
あつい。
あついあつい。
なに?
ここはどこ?
---
フラッシュバックする記憶。記憶じゃないかもしれない。
頭の隅にある違和感を突きつけられている。
公民館の近くには町の墓がある。
そういえば、視界の隅で、祖父母が入った墓が、開いていた。
4人分の骨を入れていた。
4人分?
私の血縁は、父、母、私だけ。あと、あいつ。姉のことね。
え?
気づいた時、走馬灯とやらに、亀裂が入って、広がって、音もなく、崩れ落ちた。
おわっちゃった。
私の、昔からの夢だった、いろんな場所を回るという、叶わない方の、夢。
最後に、神は、夢を見せてくれた。
~~いらないお世話~~
違和感はあった。火事の後、身軽で無傷だったのは、賢者様が救ったんじゃなくて、不自由な体から解放されたからかもしれない。
雪の足音が鳴らないのも、実体がないから。
死んじゃった。死んじゃったんだ。目の前に突きつけられる現実。頭の隅で感じてた違和感を、真っ直ぐに実感した。さびしさなんてない。
あは。
よかった。
~~あの人達がいない世界なら。どこへでも。~~
ねぇ、読んだ君たち。
気づいてたか心配だから、教えてあげるよ。
私も、憶測を言うけどさ。
私の旅。多分、歩き続けた理由。
多分。
逃げるためだと思ってる。
本能に逆らわなかっただけ。
でも、そのせいで気づくのに遅れた。
遅れた方がいいのか。早い方がよかったのか。
そんなの。
わかるわけないじゃない。
私の家の状況なんて知らない人にはわからないでしょう?
他にも、思ったこと。憶測でも予想でもいい。
知りたい。
声を。
聞かせて?
教えて?