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奇病患者が送る一ヶ月 五日目
ちょっと期間空いてすまん!
さほど長くないから、読んでくれたらうれち
「今日は線香花火でもしようかなー。」
俺がふと、そんなことを言うと
「いや、あの…、仕事してほしいっす。」
菱沼はいつも通り、ジトっと睨んできた。
そんな目で俺を見るなよ…悲しくなるじゃん…。
「もう冬でしょ?何で今更…。」
心底どうでもよさそうな菱沼とは違い、シエルは少しだけ食いついた。
「昨日出かけた時に線香花火とか色々買ってみたんだよ。」
「そんなの買ってる暇があったら、さっさと帰ってきてほしかったんすけどね。」
菱沼がボソッと何か言うが、よく聞こえない。
「そうそう!ちなみに昨日の夕飯は奮発して焼肉にしましたー!」
シエルは昨日をなぞるように思い出して、幸せそうな笑顔を見せる。
「はぁ⁉待って、それ聞いてない‼お前らズルいぞ!」
俺は思わず立ち上がり二人に向けて指を指す。
「ズルくないもーん。ちゃんと私達医者組で夜な夜な焼肉しましたよー。」
「えーー、ズルいーー‼最近俺もう全然焼肉食えてねぇじゃんかぁ!」
「知らないっすよ。というか、この間に関しては灰山サンが体調崩すから悪いんすよ。」
半べそをかく俺にお構いなく菱沼は仕方ないと言わんばかりの口ぶりで言った。
「いや、ちょっとは遠慮ぐらいしろよ。」
病人の前で焼肉食うってどうなのよ。せめて俺が寝た後とかなら良いのに目の前でって。
あれは誰がどう見ても嫌がらせじゃんか。
「おや…?花火の入った袋なんて持ってどうしたんだい?」
俺達が雑談を続けていると黶伊が部屋に帰ってきた。
「お、おかえり。忘れ物か?」
俺は、自身の机に向かう黶伊を目で追うと、
「あぁ、少し手帳を置いてきてしまってね…。それでその花火はどうするんだい?」
黶伊は俺に笑顔を返してくる。
「今夜やろっかなって思ってさ。沢山買って来たから、黶伊にも分けようか?」
「へぇ…、いいのかい?じゃあありがたく頂くよ。
それじゃあ翠ちゃんが待ってるから、もう僕は行くよ。またね。」
黶伊はいくつかの線香花火を貰い、早々に部屋を出た。
あいつも忙しい奴だなぁ…。
「…まぁ確かに線香花火なんてやった事ない患者も多いので、今回は許すっすよ。」
ふいに菱沼がそう告げる。
「…?あぁー…、いや、ほぼ俺の好奇心。」
菱沼がそう言うことが珍しいと思うも、俺はつい口を滑らす。
あ…、やべ。これ言わない方が良かったんじゃ…。
「アハハ、院長ってば正直だねぇ~。」
内心焦る俺を、シエルは面白そうに言う。こいつ…。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…、なぁんで今更急に花火しようなんてなるんすか…?」
菱沼は大きなため息を吐き俺に問う。
いや、もう噓吐いても仕方がねぇ…、ここは正直に言おう!
「いやぁ…俺、こういうのやった事無くて。
いつか家族とやりたいって、昔思ってたの思いだしたから…。
その…、なんかすまん…。」
俺が噓偽りなく話すと、菱沼がいつも以上にだらしない顔を見せた。
何その顔。
「…じゃあ今から灰山サンの家族呼ぶんすか?」
「それは無理だよ…。だって…、ほら、向こうも忙しいし、遠いしさ。」
「じゃあ家族とは出来ないじゃないっすか。」
「え?俺らって家族みたいなもんじゃん。」
違うのか?…俺はいつも皆とは家族と思って接してるけど…。
その方が患者の身になったとしても良い。
何せ患者の中には家族のいない人だっているんだから。
「はぁーー……。マジでアナタと話してると疲れるっす…。」
心底面倒くさそうに、だるそうに菱沼が言う。
「ひどくね?」
そんなため息吐くなよ…。幸せ逃げるぞ?
「あっははは!家族かぁ、いいじゃん!おままごとみたいで!」
シエルは菱沼とは違い、ケラケラと笑いながら言う。
「ままごとなんすね…。…はぁ…、今回だけっすよ…。」
菱沼が静かにツッコむが、シエルは腹を抱えて笑うだけだった。
「お、おう…。今日は、ちゃんと休めよ。」
俺はそう言い、睡眠薬の入ったお茶を差し出した。
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今日は患者達に知らせたため、ある程度の患者は外にいた。
とは言え、流石に全員ではない。
興味があって、その上万が一の場合に危険がない患者のみが参加してくれた。
本当は全員でやりたいんだけど…、いつか、いつか皆の奇病が治ったら全員でしよう。
俺のグループにシエルのグループ…、あと黶伊と翠のグループの三つのグループに分かれた。
線香花火はもう渡しておいたし、他のグループは良い感じにやってるだろ。
ちなみに菱沼はぐっすりと眠っている。しっかりと薬が効いたようだ。
勝手に睡眠薬を入れたけど、まぁ多分バレてないだろ。
シエルが菱沼の顔に落書きをしていたが、止めれなかった。うん…、ごめん。
俺のグループではグミちゃんに晃と冬華の合計四人だ。
綝が少し不服そうな顔をしていたが、じゃんけんでそうなったから仕方がない。
綝に対して晃は冬華と一緒になれて嬉しそう。
「ほらこれ、三本ずつな。」
俺は彼らに線香花火をそれぞれに渡して、ろうそくにマッチの火をつける。
「ねぇ、どうやって使うの?」
グミちゃんがそう言い、俺が渡した三本の線香花火を不思議そうに見つめていた。
あぁー…グミはまだ小さいから俺と一緒でしたこと無いのか…。
「それじゃあ一緒にやろうk」
俺が言い終える前に、グミは線香花火を粉々にしてしまった。
「………うわぁぁぁん‼グミのがぁぁぁ‼」
彼女は顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙をいくつも流していた。
「大丈夫大丈夫、まだ沢山あるから。
ほらほらぁー、俺と一緒にしようぜー!」
「グスッ、うぅぅ………。」
泣きじゃくる彼女の頭を、彼女の奇病耐性の革手袋に付け替え撫でてやる。
彼女の奇病は|点器物有機物破壊症《てんきぶつゆうきぶつはかいしょう》。
この奇病名はシエルが付けたんだっけ………。
結論から言えば、正体不明で尚且つ危険すぎる奇病。
その名の通り有機物に触れると、さっきの線香花火のように壊れてしまう。
有機物ってなるとヒトも壊せる。当然有機物となれば、地球も例外ではない。
この子には悪いが、この奇病を患ったのが他でもないこの子で良かった。
純粋な子じゃなかったら、今頃どうなっていた事か…。
いや…、そもそも奇病が発症する理由は二つしかない。
一つは遺伝。奇妙な事に、遺伝する奇病は数多くある。
遺伝するには条件があって、それは親が治らないとされた奇病が突然治る事。
これは…、俺のモルモット達で調べて得た結果だから確かとは言いづらい…。
二つはその時の精神状態や気持ちによって発症する。
これは防ぎようがない。いくら努力しても嫌なものは嫌って思うもんだ。
だが稀に絶対に奇病にかからない体を持つ者もいるそうだ。
菱沼はそれ。正直言ってめっちゃ珍しい。天職だと思う。
一度だけ、本当にそうなのか試そうとしたが断られた。
まぁ、だから奇病にかかるってのは、精々運命としか言えない。
…そもそも誰がかかったからどう、なんて、俺が勝手に作った言い訳か。
運命に抗おうと思うほど、強い人間はそういない。
自分の運命が分かってたら、話は別だけど。
『花火、きれいだね😆』
「そうだねぇー!あ、落ちちゃった。」
『アキも落ちたー😭』
晃と冬華は交互にそんな事を話していた。
晃も器用だな…、線香花火持ちながら紙に文字書いて…。
それと仲良いな⁉距離ちかk…アッ………、うん、なるほど。
それ以上は何も思わないよう、俺は自分が持つ線香花火に視線を向ける。
「これ本当に最後まで落ちねぇのか…?」
「ねーえ、最後まで火がきたら、どうなっちゃうの?」
グミは純粋な目で俺に問う。
「んー…、確か最後まで落ちなければ願いが叶うとか言われてるかな。」
まぁ、それが本当かなんて俺が知ってる訳ないが…。
でも、線香花火を最後まで見れたら綺麗なのは確かだろう。
最後の散り菊って言われてるやつは、松葉よりも激しすぎず綺麗。
ちなみに線香花火は蕾、牡丹、松葉、柳、散り菊の順番で火が散るから、
飽きずに楽しめるのが線香花火の良さ。
「おねがい叶うの?」
「うん。何願う?」
「うーん…、皆を笑顔にしたい‼」
彼女は、ここには眩しすぎるぐらいの笑顔を見せて言った。
お、おう…、ここにいてこんなに純粋な子いなかったぞ…?
「院長は?」
「俺も皆が幸せになってくれたら、それでいいかな。」
「グミと一緒?」
「ああ、一緒。」
「えっへへへ…。」
俺が答えると、グミは嬉しそうにはにかんでいた。
…どうか純粋なまま育ちますように。
その時、天空に大きな花火が上がった。
お、もうそんな時間か。
「わーー!きれいー‼どうして大きい花火も咲いたの?」
「それはなぁー、今日が王様の誕生日だから、そのお祝いなんだ。」
「よくさ、花火みたいに死にたいって言うじゃん。」
「そうなの?」
俺の小さな呟きに、グミは意味も分かっていないように問う。
「…いや、やっぱいいや。」
…花火は最期の最期で、街を照らす花として綺麗に咲き、あっけなく散る。
確かに、最期には綺麗で派手で死ねるのは本望だ。
だってそれで名前も知らない何千人を照らす事が出来るのだから。
誰かを照らす犠牲の光となれるのならば、俺はそれで良いと思う。
でも俺は…ろうそくみたいに、たった数人を照らすだけの光で良かった。
ろうそくみたいに数時間もしつこく粘って、辺りを少しだけ照らす。
俺は聖人ではないから、名前も知らない誰かも照らそうとまでは思えない。
俺は優しくないから、知ってる人だけで良いから助けたい。
きっとどうでもいい事かもしれない。
誰かを照らせてるならそれだけで良いのかもしれない。
どちらも意味がないのかもしれない。
はたまた、どちらも意味が分からないかもしれない。
それでも…、
「あっ!また上がった!」
『すごい‼きれい‼✨』
「今の結構大きかったね!」
冬華は嬉しそうに花火を指差し、晃も幸せそうに笑顔を見せる。
二人の隣でグミは俺に向けて言った。
「そうだな!」
俺もグミに満面の笑みで返す。
今はまだ、幸せな時間に長く浸っていたかった。
████ま█、
あと25日。
花火したぁい