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えんい
エロくないけど、フェチに全振り。
1400文字
胸の鼓動を調べる検査がある。
別段、特別な検査ではない。
全国どこでも、あるいは年齢問わず。
法律で決まっているからという真っ当な理由で、大人は普通に受け入れるべき出来事。
単に聴診器を当てて胸の音を聞く内科検診である。心臓の音を聴き、ちゃんと動いているか調べるだけ。
それは年に二回、春と秋に訪れる。
どうしてなのか、子供たちにはよく分からない。
昼休みの後、幼稚園の先生の声に呼ばれて列を作る。
人数は30人。対象年齢は5歳。
来年春になれば小学校に入学する、背の小さな集団だった。
男女混合の列。
背の順でもなんでもない並び方だった。
だが、列の前の方はおとなしく、後ろにいくにしたがって私語をする子供たちが多い。
列の十人くらいは、私語をしても先生たちには気づかれない、という量の笑い声が聞こえている。
内科検診について、特に説明する様子はなかった、とその子は思った。
その子は列の後方にいて、先生の声が聞こえなかったのだ。一部の話し声で潰されたというのもある。
全体的に列はぞろぞろと遅めに歩き、みんなで順番待ちをする。内科検診の目的は知らない。
先頭から順に、何かをしている。
何をするのかな。と列の先頭が気になるように、その子は小さなかかとを上げて背伸びをするようにした。
しかし、ほんの数センチくらい高くなるだけで全然見えない。
一人ずつ、知らない大人の前に立たされていた。「えんい」と呼ばれる知らない人だ。
「えんい」にはいつも、そばに女性の看護師がいた。残念ながら、歳は食っている。
それにメガネ越しの目も笑っているようで笑っていない。目の奥は笑っていない。本当は子どもなんて好きじゃないのだろう。
その子の名前が呼ばれて、顔を見られ、本人確認される。
「じゃあ、めくって~」
と「えんい」に言われ、その子は戸惑った。
いつもはやさしい幼稚園の先生は、後ろに回ってその子の両手首を固定していたからだった。
誰がめくるのだろう。どこをめくるのだろう。そのままなのか。言い間違いなのか。
子供の表情。戸惑いと微かな目の動き。
言葉にできるほどの年齢は残念賞、持ち合わせていない。
助手の看護師が、許可なくその子のシャツの裾へ手を伸ばし、上へ持ち上げた。
シャツの下はまだ誰にも見慣れていない白い肌があった。休日もゲームばかりするものだから、日焼けもしたことがない。太陽の光の浴び方すらよく知らない。
まだ幼稚園児だから、男女の身体を区別する特徴のような凹凸感は見当たらなかった。
色の薄い小さな乳首があって、呼吸をするごとに少し肋骨が見え隠れしている。
その子自身も、それで上半身を見られた、という被害妄想的感覚には、まだ芽生えていない。
「じっとしててね〜」
服をめくり上げ、他人の手によって鎖骨が見えるほど持ち上げられた。
それで素肌に判を押すように、園医は子どもにはよくわからない円盤型の銀色の道具で、胸の中央に当てられた。
十秒も満たない時間。
布のない、|直当《じかあ》ての感覚。
その子の年齢では、なぜ当てられているのか、目的も何もわからない。
そうしてその変な恰好で、おなか側と背中側を看られた。
「はい、いいよ〜」
の声とともに、その子は解放。
ありがとうございます、と前の人が言っていた言葉を言って、次のこどもにバトンタッチ。
今度の子は自分からシャツをめくり上げ、上半身を裸にした。
大人たちは各々の仕事の役割を理解した連携を見せた。
分け隔てなく子供を拘束し、心臓の音を効率よく聴いていた。子供たちの鼓動のスピードは皆ほどよく速かった。