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ep.15 鎧に身支度
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--- 【現在時刻 10:43:55】 ---
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side 祀酒 みき(まつさか みき) 現在地 6F
あぁ、どうしよう。酷いことを言ってしまった。
左手と頭の温度も底につき始めて、やっと正気が帰ってきた。
いくら床に危ないものが潜んでいるからって、ぬるい命の色に気が狂いそうになっていたからって、あんな大声ではね退ける必要はさらさらなかったはず。
現にあの青年は、自分で自分を押しつぶしそうな顔で俯いている。
今すぐに謝らなきゃ。あの人から奪ってしまった正気を、一刻でも早く返さなきゃ。
踏み出した足は震えているはずなのに、何故か前より遥かに軽くなっていた。
「あの、、、ごめんなさい」
私の声に、あの青年が顔を上げる。
目が合った瞬間、頭上に彼のものであろう文字が見えた。
<赤星 キラ(せきぼし きら)>
年齢:18
健康状態:良好
特異症状:Null
「さっきはあんなこと言ってしまってごめんなさい、あの、突然のことで脳の理解が追い付かないというか、びっくりしちゃって、なにせ、ねぇ」
信じられないくらいにするすると言葉が出てくる。中身のない言葉が。
「あ、、、ぇと、、、」
やっぱり困らせてる。よくない。
「だ、大丈夫か!?!?」
少年が急に表情を明るくさせ、今度の今度こそ、といった感じで走り寄ってくる。いや危ない、、、むしろ怖い。
「ずいぶん多めに掛かっちゃったみたいだけど、大丈夫? 気持ち悪かったりする? あ、ケガはしてない!? タイルにスイッチがある感じか、ムズいな、、、そうだ、怖かったよな。水いる?」
何というか、陽の気を真正面から浴びせかけられているみたいで、判断が追い付かない。流せ流せ、さっきまでやけに饒舌だっただろ、私。そう叱っても、パニックでうまく話せないことに変わりはなかった。
「あぁ、ごめんね、、、こんなこと言われるのもなんだろうけど、怖かったよな、きっと。、、一回下がろう、座ってもいいよ」
彼も落ち着きを取り戻して、私は背中を優しく支えてもらって。
そのまま赤星さんも私も何も言わず、ゆっくり、慎重にさっきの階段の方へ戻った。
「す、すいません、ありがとうございました。それと、ごめんなさい!」
人の少ない所に来るや否や、私はありったけの力を込めて赤星さんにお辞儀した。謝罪と感謝を込めて。振りかぶった横髪が、目に入りかけて痛い。
「いいよ、謝らないでも。顔、あげて。オレもびっくりさせちゃったな、、、」
ホッとするような、太陽のように暖かい声。なんで私、この人にあんな失礼な事しちゃったんだろう。
「ぃ、、ぃやっそんな゛っことは無いの゛で」
声がおかしい、鼻で息ができない。目頭が熱い、喉が苦しい。泣いてる。さっきの横髪のせい、、、じゃない。嘘でしょ、なんでこんな急に。視界がどんどん流れてゆく。ちゃんと前見て、進まなきゃいけないのに。強くなきゃいけないのに。恥ずかしいよ、こんな初対面の人の前で。
でも、私にはどうにも止められなかった。
「あぁ、ぅううあぁぁ、、!怖いよ、ずっと訳分がんない、、!! 契さん、契さぁん、、、!!」
赤星さんはもう、何も言わなかった。
私はいつもの癖かそれに甘えて、とりあえずそれっぽく泣かせてもらった。
それから少しして、赤星さんは前へと進んでいった。
去り際、下を向いていた私の肩に「もう大丈夫だな」とでも言うように優しく触れて。
私は、人に甘えてばっかりだ。
契さんに先に進めてもらって、赤星さんに励ましてもらって。
とりあえず生きながらえてる。
とりあえず。
契さんのような夢も、赤星さんのような明るさもない。
でも、何でか分からないけど、それでも生きたい。
死にたくない。
涙をぬぐい切れないまま、前を向く。視界全部が、夕立の後のように濡れている。
さっきまで感じてきた劣等感とか怖さとか焦りとか馬鹿馬鹿しさが、少なからずどっかへ流れてくれているような気がした。
生きたいなら何が何でも。
早々くたばるぐらいなら、甘えてでも。
前に、進まなきゃ。
約束、したんだから、、、。
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side 鷹樹 蓮(たかぎ れん) 現在地 6F
さっきからずっと、頭が痛い。
人混みの薄い空気、慣れない環境、さっきから鼻をついている赤い匂い。それに不似合いな、雲一つない青空。
色々ありすぎて気持ち悪い。胃もたれまでしてきそうだ。朝ご飯、食べてないのになぁ。
ただこの階に下ってから、ちょっとだけ頭痛がましになっている気がする。前のフロアが狭苦しかったからか、ここはやけに開放的だ。窓も枠を挟んではいるものの、壁一面に天井からカーペットまでつま先をそろえるように並んでいる。
その向こうに広がる、雲一つない青々とした空。何故か気味悪くすら感じるのは、頭痛のせいだろうか。
、、、いや、こんな暢気にしている場合じゃない。時間は刻一刻と過ぎる。人混みの真ん中にいて進めも下がれもしないから、どうにか、どうにかして前に進んでもらわないと。
「ねーねー、おにーちゃん、ねーねー。」
いつの間にか隣には小さな小さな少女が居て、自分のズボンの裾は彼女に引っ張られていた。声を掛けられているのだろうか、、、? いや、そもそも怖い。滅茶苦茶怖い!
「ひぇ、、、!! あ、どうもスミマセン。」
反射的に体が彼女を引き離し、そのまま滑稽な姿勢で、前にいる人に思いっきりぶつかってしまった。
「ねね、おにーちゃん!」
彼女はさっきまで掴んでいた裾をまた持ち直そうと追いかけてくる。こちらもまた自動的に距離を取る。怖い。
この一連の流れ、磁石そっくりなんじゃ、、、
到底終わりそうにないので、何とか話を聞くことにした。早々に切り上げられる話だといいが。目線は合わせられそうにないので、とりあえずそれとなーく胴体を向ける。
「なんっ、なな、、、なんっでしょう?」
噛み噛みで、しかもどもりが酷い。相手だけでなく、自分にも参ってしまうくらいだ。
「あ、よかったぁ!ねーおにーちゃん、ニジカねー、お母さん、いなくなったの。探してたの。お母さん、どこー?」
「ひぇ、、?」
な、何を言っているんだろう、、、?
ええと、兎に角答えなきゃ。
「わ、ワタクシには、ちょっとあなたの、お、お母さまのコトは、分かっ、りません、、、」
彼女は澄み切った色の大きな目をさらに大きくする。どうか責めないでくれ。
「そっかぁ~、、、おにーちゃん、ありがと!!」
責められることはなく、彼女はさっきまで特大だった目を三日月のように変えて、花の咲くような雰囲気を残しどこかへと駆けていった。
綺麗な笑顔だ。
怖い。
体も口も、まだうまく動かせない。女性とはいえ、小さく純真な子供相手に何を固まってびくびくしているんだ、自分は。怖がられたら、変な人だと思われたらどうする? 嗚呼、動けよ。なんか言えよ。いったいこの38年間、自分は何をしてきた? 今まで必死に支障などない振りをしていたけれど、こんな場所じゃ隠せる筈もない。
得体の知れない何かへの恐怖が、もともとほんの少しだった女性への緊張にまとわりついて、皮を内側から剥いで着込んで、そのままぶくぶく、とんでもないスピードで膨らんでいる。変な色がついてゆく。
自分の中のものじゃないみたいだ。いや、自分の中の物じゃない。怖い。
気づけば。自分が動けなくなっているのは、人混みのせいでも、さっき駆けていった少女のせいでもなくなっていた。
--- 【生存人数 238/300人】 ---
--- 【現在時刻 10:55:32 タイムオーバーまであと 13:03:28】 ---
<自主企画にて参加いただいた初登場キャラ>
・颯星 虹翔(りゅうせい にじか) 猫宮めめ様
ありがとうございます!!これからも活躍しますので、読んでいただけると嬉しいです。
他のキャラクターも順次登場予定です、お楽しみに。
<お知らせとお詫び>
現在、自主企画に参加してくださったざらざら様の「花咲 未来」、海音様の「桜木 優斗」のページが閲覧できなくなっており、かつざらざら様、海音様と連絡が取れない状態となっております。こちら側としては応募内容のコピーが取れておらず、メインキャラクターとして必要な情報が著しく欠けている状態です。この状況を踏まえまして、大変申し訳ないのですが「花咲 未来」さん、「桜木 優斗」さんのメインキャラクターとしての参加を取り消させていただき、今後はメインキャラクター外での登場(キャラクターリストに詳細が掲載されません)とさせていただきます。こちら側の大きな不備によりこのような事態を招いてしまい、本当に申し訳ございません。
最大限の対処をして参ります。
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