公開中
鏡の国の王
かつて、世界の果てに「鏡の国」と呼ばれる場所があった。そこでは、すべてが反転して映る鏡の中に、本物の世界が閉じ込められていると言われていた。
少年・ノアは、失踪した兄を探して旅をしていた。兄は「鏡の国の王になる」と言い残し、姿を消したのだ。
ノアは伝説の鏡の門を見つけ、恐る恐るその中へと足を踏み入れる。そこには、現実とは逆さまの世界が広がっていた。空は黒く、太陽は冷たい。人々は笑顔で泣き、涙を流して笑っていた。
そして、玉座に座る“王”がいた。
それは兄だった。
「ノア、ようこそ。ここでは願いがすべて叶う。君も王になれるよ。」
ノアは迷った。兄は確かに幸せそうだった。しかし、何かが違う。彼の瞳は空っぽだった。
ノアは鏡の国を後にしようとしたが、出口が消えていた。
玉座の鏡が揺れ、ノアの姿が映った。
「次の王が決まりました」と、鏡の国の民が一斉に跪いた。
兄は微笑みながら、静かに消えた。
鏡の国では、王位は“次に来た者”に自動的に継承される。
ノアは知らなかった。兄が「王になる」と言ったのは、“囚われる”という意味だったのだ──。