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collaboration.13
仲間が傷つくところを、もう見たくない。
痛いのも、怖いのも、苦しいのだって嫌いだ。
でも、仲間を助ける為なら。
僕は喜んでこの命を差し出そう。
仲間を助ける為なら。
あの頃の僕の力だって──。
■□■□■
「英国出身の迷ヰ犬」の番外編(?)になります。
ののはなさんとのコラボです。
collection.1
https://tanpen.net/novel/67ced1c3-dad6-446e-83d1-522b3741e934/
ルイスside
苦しい。
気を抜けば、今すぐにでも意識を失ってしまいそうだ。
こんな状況になったのは、何時ぶりだろうか。
「ルイスさんが死んだら、私の事を殺せないよ?」
「──女医だけ解放する。怪しい真似をしたら……判っているな?」
「残りの人質の首をはねる、でしょ? 分かったから早く」
桜月ちゃんは、冷静だった。
作戦を全て話すことは出来なかったけど、彼女は理解してくれた。
ふと、桜月ちゃんと目が合う。
多分焦らないように、必死に自分を落ち着かせようとしているのかな。
それなら、僕は心配させないように笑うだけだ。
彼女の不安を、少しでも拭えるように。
「桜月! ルイスさん!」
今助けます、と与謝野さんの声が聞こえた。
もう、視界が暗くなってきている。
出血ヤバそうだな。
「与謝野先生……」
「あり、がと、ゴホッ」
「ルイスさん、話しては駄目です! 桜月も、軽症じゃ無いんだから早く|妾《アタシ》の所に来るンだ!」
「先ずルイスさんを先に」
「...…判ったよ」
--- 『|君死給勿《キミシニタモウコトナカレ》』 ---
目が見えなかったはず。
それなのに、蝶が見えたような気がした。
痛みは無くなり、体が自由な動く。
桜月ちゃんの傷も無くなっていて、少し安心した。
「本当にありがとう」
「ありがとうございます!」
「二人とも、また後で」
「……。」
僕は何も答えられなかった。
今だって僕を死なせないための交換条件で外に出してもらったようなものだ。
これをきっかけに何か状況が変わるとは、到底思えない。
「保証は出来ない。でも、必ずルイスさんを守り抜きます! だから、」
「時間だ。戻れ」
ボスがそう呟くと、与謝野さんの姿が消えた。
やっぱり、あの異能力をどうにかしないことには、何も始まらない。
「...…ルイスさん、私の事を殺すふりをして下さい。お願いします!」
「えっ」
殺すふりって、そんなのボスに通用するわけがない。
いや、でも彼女には考えがあるのだろう。
「...…判った」
「何コソコソ話してんだよ」
「べーつに。アンタは絶対に負けるって話」
「僕は誰もみすみす殺させる心算は無い」
「桜月、手前が殺される運命だ。でないと、」
「私が死んだ後の話。真坂、皆がそのまま黙ると思ってるの? 絶対━━皆が今迄の報いを誣いるからね」
僕は深呼吸をしてから話しかける。
「じゃあ、桜月ちゃん。覚悟は善い?」
「勿論です。あ、私が死ぬのはルイスさんの空間でも善いですか?」
「えっ? 僕は善いよ。ただ、彼奴は……?」
恐る恐る視線を向けると、返ってきたのは意外な答えだった。
「俺もその空間に入れろ。其れなら善い」
「わぁ! ありがとうございます! 最期くらい、好きな所で、ね」
「随分変わった趣味だ」
「趣味くらい好きな物で良いと僕は思う。じゃあ━━」
--- 『|不思議の国のアリス《Alice in wonderland》』 ---
僕達はぬいぐるみのエリアへとやってきた。
本来なら他のエリアの方がいいけど、桜月ちゃんが見慣れた場所の方がいい。
「さて、じゃあ殺って貰おうか」
異能空間を使う異能者。
大抵の場合は発動させた異能力者が、その空間内で優位になる。
僕も、例外ではなかった。
「反省の時間だよ」
「この糞キモ男っ!」
「は?」
気がついた頃には、もう遅い。
僕はとっくにボスを拘束していた。
「お、おい! 人質は━━」
「もう無駄だよ。太宰さんが自分の異能の特異点を利用して、貴方の牢獄を、このルイスさんの世界に繋げたらしいから」
「えっ待って僕そんな事聞いて無いよ?」
「すいません! 声に出したらバレるんで!」
与謝野さんのきっかけに何か状況が変わらないかと思っていた。
だとしても、これは予想外すぎるって。
「でもまぁ、これで全部解決……?」
「いや、まだ残ってます」
その時、背後から声が聞こえてきた。
「皆だ!」
広い空間の中で、よく僕達を見つけられたな。
まぁ、余計なものを見られていなければなんでもいいか。
「皆、生きてる……」
「済まねェ。心配かけたな」
「ほんと、大変だったんだから...…。無事で良かった」
おぉ感動の再会だ、と思っていると太宰君が話しかけてくる。
「でもルイスさん、問題はまだ残って居ますよ」
「そうだ。最後の問題解きましょ!」
最後の問題。
桜月ちゃんの言葉を聞いた瞬間、理解してしまった。
否、もっと前から気づいていた。
でも目を背けたままでいたかった。
「...…ぃゃだ」
「ルイスさん、最後の問題が何か、判って居ますよね」
「嫌だ!!」
年甲斐もなく、声を荒げてしまった。
彼女はまだ子供だ。
なのに僕より冷静で、少し恥ずかしくなる。
でも、それでも僕は━━。
「ルイスさんっ!」
桜月ちゃんが、僕に泣きつく。
「桜月ちゃ、」
「聞いて下さい」
涙が溢れそうになるのを、必死に堪える。
僕は絶対、彼女の言葉を聞かないといけない。
「...…分かった」
「この世界には、確かに過去がありません。あの罪も、この世界にはありません」
もしかしたらこの子は、僕の過去について知っているのかもしれない。
だから《《あの罪》》だなんて言い方をしている。
「あの世界に帰って未来を生きてください!」
「でも、戻り方がわからな━━」
「私に、任せてください。その前に、一つ渡したいものがあるんです」
彼女の掌には、腕時計があった。
紳士用の、とてもカッコいいデザインだ。
「腕時計の贈り物の意味、貴方と同じ時間を刻みたい」
「その通りです。私は、世界が違うだけで存在するんですよ。其れを、忘れないで」
満面の、心残りなど一つも無いような笑顔。
そんなこと、絶対あり得ないのに。
「僕からも、プレゼント」
中也君の前で渡すのはどうかと思っていた。
でも、そんなの考えている余裕があるわけがない。
「ペンダントだよ」
意味は幸せや飛躍。
どうか君の世界の彼らと幸せになってほしい。
そして、今よりもずっと飛躍してほしい。
因みに色は若葉のような鮮やかな、僕の瞳と同じ緑。
僕のことを忘れないでほしい、なんて流石に子供っぽいだろうか。
「綺麗……凄く嬉しいです! 大事にします!」
「喜んで貰えて善かった。頑張って選んだ甲斐があったよ。困ったときは、此れをよく見てみて」
「はい! 本当に嬉しい……大事にします。ルイスさんも時計、大事にしてくださいね!」
あぁ、と僕は笑みを浮かべる。
「桜月っ!? さっきから何言って、」
鏡花ちゃんを始めとした全員、僕らの会話の意味を理解していなかった。
当然だろう。
これは《《別れの挨拶》》なのだから。
元の世界に戻ったら決して会えることのない|僕《ルイス》と|君《桜月》の、最後の言葉。
その時、ふと思った。
彼女は元の世界への帰り方を知っているのに、何故僕に教えてくれないのだろうか。
気がついた頃には桜月ちゃんは、隅に落ちていた銃を拾っている。
|安全装置《セーフティー》を外し、銃口が頭へと突きつけられた。
僕は手を伸ばす。
「桜月ちゃん!」
そんな、僕は君を守りた━━。
続く。