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うたう、よむ
学校の授業で、詩を作った。
終盤、先生に指名されて一人一人発表することになった。
うちの先生はテキトーなので、その日にちの出席番号の子が当てられる。今日もそうだった。
その子はガタッと席を立って、自作の詩の朗読を始めた。
「ひめさま、ひめさま、おつれください。……」
その瞬間、ぐるんと視界が回る感覚を覚えた。
その子が何か読んでいる。しかし最初のその文以外は聞き取れなかった。
渦を巻く、渦を巻く。視界も、聴覚も、何もかも———。
気がついたら、その授業は終わっていた。
どう終わったのか、覚えていない。
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まず、朗読した子が休み出した。理由は聞かされなかった。
次に、先生が急遽休職した。同じく理由は聞かされなかった。
そして、朗読した子の周囲の子、仲の良かった子が一人、一人、と休んでいった。
町で見かけることもなかった。
町中で、行方不明の張り紙がなされるようになった。
どこかで、誰かの泣き叫ぶ声がする。
事態は悪化の一途を辿っていった。
一日、一日。
ぽつり、ぽつり、と人が消えていく。
ある日、おつかいに行ったスーパーで、目に隈の濃い主婦を見た。
休んで消えた子の母親だった。
「あの子はどうしているんですか」
母親はゆるく首を振るばかりだった。
「急に、『ひめさま』と言って部屋に閉じこもってしまったの。」
それ以外、彼女は何も言わなかった。
翌日、彼女も消えた。
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夢を見た。
少女がいた。
長い前髪に隠れて、俯いていて、顔は分からなかった。
美しく煌びやかな着物を着ている。高貴な身分なのだろう。
口元が動いた。
何かを言おうとしている。
何かを話している。
ああ。
あれは。
あれは———
「ひめ、さま」
ふ、とどこかで空気が動いた。
白で塗りつぶされていく。
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それは、いつの話だったか。
一つの町が合併して消えた。
住民のほとんどが、蒸発して消えたという———。