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140字小説まとめ #1
2023.10/9『星に』
捧げた心は、どこにも帰ってこなかった。星に果てたかどうかすら分からないが、月の傍で揺らめいているかもしれないと思うだけ。燃えていた火が消えたことを「どこかへ行った」と言わないように、移ろったのではないのかもしれない。それでも、湧き出る懐かしさには叶わずに。
2023.12/16『儀式』
煌めく。揺れる。何度も揺れる。息遣いに合わせて揺れる。雫形の赤い光が、闇の中を漂う。数個、端をちろちろと細かに揺らしながら、その場に鎮座した。微かな明かりを取り囲み、数人、儀式めいた唱歌を口ずさんでいる。それを終えた瞬間、静寂を飛ばす声がした。「お誕生日おめでとう!」
2023.12/17『いけないんだ、いけないんだ』
ずっと、ずっと、一緒だよ。大丈夫、怖くないよ。ここに居れば、温かいものが食べれるよ。お風呂もお布団だってあるよ。勉強だってしなくていい。お仕事だっていらない。それなのに、あの子はこう言ったんだ。「みんな、ここから出る方法が分かった」いけないんだ、いけないんだ。
2023.12/18『消える』
炎の中に、焼かれた鶏肉が吊るされている。脂が落ちて、炎がじゅわぁり燃え上がる。雪の降るような寒い夜でも、その灯りが美しい。仄かな心地が幸せで。漂う匂いを吸い込みながら、一口嚙り付こうとした。けれど、消える。だったら、もう一本。灯そうとしたのに。指先の震えが止まらない。
2024.2/3『オラクルカード』
「妖精よ、私の神聖なるスピリットを導いてください」海外の占いの道具。解説書を捲ると、こう唱えてくださいなんて書いてあった。正直こっぱずかしいので戸惑っている。もし日本でなじみ深い言葉にするなら、どうなるだろう。「お世話になっております……」私は考えるのをやめた。
2024.12/28『それはない』
才能がないと思う。ペンを置きため息をつき、天井を見上げた。私の世界はあまりにも狭い。それなのに少し目を下げれば世界中の才能が集まっている。それがどうしても許せなくて、腐った心が心臓にまで痛みを訴えた。泣きながら歪ながら、うんでいく。広がっていく。そして死んでいく。狭い世界の中で。
2025.1/6『止められない終わり』
死とは崩壊なのだと思います。永遠とは、壊れないものなのだと思います。ただ、続けてくうちに壊れる代わりに新しい芽が吹いて、緑を青々とさせているのだと思います。その壊れ方が壊死にならないように。新たなものが元あったものを壊さないように。私たちは、そう願うばかりです。