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4話 僕には辛い
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「一人です。」
「一名様ですね、お好きな席へどうぞー。」
窓辺のカウンターに座って料理を待つ。ぼんやりと外を眺めていると、どんどん空が曇りだし、やがて雨が降り出す。小雨は雨に、雨は大雨になって、カフェの客は急いで帰っていき、ついに僕含めて2,3人になってしまった。こころなしか、先程届いたフレンチトーストもオレンジジュースも重苦しい雰囲気を漂わせてしまっている、気がする。ふわふわでしっとりとしていて美味しいフレンチトーストはどこへやら、染み込んだ卵が滲み出し、パンをベチャベチャにさせていて、トッピングとしてかけられたはちみつはベタベタしている。オレンジジュースも先程までは甘酸っぱく、乾いた喉を潤すオアシスそのもののようだったのに、今では重く僕の胃に負荷をかけている。オレンジジュース改オモンジジュースを片手にフレンチトースト改ベチャベチャトーストを咀嚼。そして、もう一度外を見た。また、しばらくぼーっと外を眺めていたら、見覚えのあるチェリーレッドの傘をさした見覚えのある女性。目があっては大変、とは思いつつも目が離せない。……本当に妹にそっくりだ。成人前までの姿しか見れなかったので、大人になった姿は彼女とは違っていたかもしれない。でも、顔の作りや色の好み、声が瓜二つなのだ。今にも『お兄ちゃん!』といってこちらにかけてきそうなほどに。心の何処かではまだ、彼女が妹であってくれたら、妹がまだ生きていてくれたら、そう思っている。だからこそ、彼女が妹でないのがこんなにも辛い。
「――――あ。」
長く見つめすぎたのかもしれない。彼女はこちらに気づき手を振って、カフェに入ってきた。……やってしまった。こういう日を、厄日というのだろうか。