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紅葉賀
すっかり源優華の話題でもちきりだったのが、5月になるとあっという間にべつの話題へと移行していく。あのアイドルが、あの子が、あの曲が、あの動画が。相変わらず下等連中がワアワア騒いでいるものに、愚か者らはワアワアと騒ぐ。騒いでいるものが違うだけで、本質は同じだ。
5月1日。わたしはいつものように図書室へと足を運んだ。馬鹿な連中らと同じように、次第に源優華への興味も、少しずつ薄れていくのが否めなかった。
「返します」
カウンターに本を置いて、バーコードを読み取ってもらう。安野中学校は、バーコードで貸出手続きが完了するタイプの学校だ。小学校のときの、貸出カードに書いていくという面倒くさい手続きがないのは快感だ。
ピッ、という音とともに、もといた場所へと本を返す。
「あ、清美」
「紫〜」
図書室と清美は不釣り合いな感じがした。染めていなくても色素が抜けて明るい癖っ毛と、しんとしている図書室。どちらかというと、黒が強い髪をボブにしているわたしのほうが似合っている。
「いるんだ」
「うん。前紫が勧めてくれたやつ、けっこう面白くてさ。だから読もうって」
「そう」
なんとなく嬉しかった。昼休みは、清美と好きな本について話している間に終わっていた。
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放課後のメンバーは図書委員と優華、それからわたしという構図が定着しつつあるのだろうか。借りた本がないことに気づき、落ち着かないので図書室へと足を運ぶ。といっても、玄関のすぐとなりにあるので、実質ついでだ。
「すみません」
鍵がかかっていなかった。奥の方に、優華がいた。
ガチャリ。開ける音が響く。
「あ、源さん…図書委員は?」
「阿部さん?ああ、図書委員の子は部活みたい。帰り際に言ってたから、今日は先生が戸締りするって」
「へぇ…あの、源さん、色々話題になってるじゃないですか」
本題に切り替える。
「ああ…なって《《た》》ね」
なってた。過去形だ。もう過ぎた話題、古いネタとしてカウントされている。
「どう思ってるんですか?あと、なんで…」
どう言えばいいんだろう。なんでいつの間にか消えちゃうの?なんで2年3組にいないの?なんとなくズレているような気がして、幾ら本を読んで語彙力をつけてるとはいえ、全然ピンとくる問いがかけられなかった。
「ああ…まぁ、普通かな。どうも思わないかな」
「そうですか…あ、本って借りれますかね」
「一応、前図書委員だから貸出手続きやろうか?」
まごついた仕草で、返すときと同じ音が響いた。ピッ、という音とともに、わたしは「ありがとうございます」と帰った。
そろそろ源氏物語ファンからキレられそうな気がする