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歓迎会 - ロプタン分校の子供達 -(2話)
未来の文明 - 装着 根っこらぼ-(1話)の続きです。
モノレールの建設現場を過ぎ
さらに森の小径をすすむ
木の周囲でなにやら作業している人がいる
しばらく歩くともう一人
よくみると幹に巻き付いた
蔓を触っている
指先の 根っこらぼ から
分泌されるなにかを
塗っているのだろうか
|「《kT》あれが俺らの農耕スタイルだ
おめぇーらの文明では
木を切り倒し
森を切り開き
農地を作った
焼き畑つうのも
あったようだな
それに対し
俺らの文明では
木は切らねぇし
火もつけねぇ
森を切り開いたりはしねぇ
森の中で
つる性植物やヤドリギの仲間から
品種改良を繰り返した
植物を利用している
それらの植物は大抵
ああやって手をかけてやらねーと
すぐ枯れてしまうので
手間はかかる
でも
森はそのままで
森に降り注ぐ太陽と雨を
少しだけ分けてもらうことができる
そのお礼に
森には
必要な栄養分や
有用な微生物を
お返しする
めったにねぇことだが
落雷や強風なんかで
山火事になったら
広がらねぇようにして
消火する」
|「《tD》あれは美味しいのですか?」
|「《kT》うーん
とってもいっぱい
種類があっからな
うめぇーもんもあれば
それほどでもないものもある
それほどでねぇもんも
料理人の手にかかれば
すんげぇうまくもなる
まぁ
おめぇーの歓迎会でも
でてくっから
食ってみんだな」
|「《Tn》そうですよ
とっても美味しいものがありますよ
トリディボウさんにも
気に入ってもられると
思いますよ
きっと
それに
森を森のままの農耕なんて
素敵でしょ
ミチさんの想いの中にもあった
ものなのですよ」
|「《tD》そうなんですね」
と僕は答えたが
その後はしばらく黙ってしまった
森を森のまま残せる文明
そんな文明への憧れが
僕の心のどこかにある
ミチとおしゃべりしたときに
教えてもらっただろうか
それとも
ミチとあの木の幹に触れて
偶然を装い
ミチの手にも触れて
しばらくじっとしていて
その時に
言葉ではないけど
伝わってきたもの
なのかもしれない
|「《kT》さあ
着いたぞ」
歩きながらの思いめぐらしは
カタリの突然の声で
中断された
僕達が到着したのは
傾斜地の地面に
透明の壁が水平に細長く続く場所
僕の歓迎会の会場らしい
その所々には半透明の壁で塞がれた
入り口らしい横穴がある
僕達が向かった入り口の横には
僕が普段使っている言語表記で
「ロプタン分校林間学校御一行様」
と書いた札がかかっているが
なんか
とってつけたような感じだ
出迎えに出てきたのはサギブ
未来に来るときに着ていた
落ち着いた感じの服装ではなく
派手な色彩の 根っこらぼ に
身を包んでいたが
その体形と身のこなしから
すぐにわかった
半透明の壁をすり抜けて
出てくる
まるで僕達が歩いてくる途中で
カタリかツナグと連絡を取り合っていた
ようなタイミング
|「《Sg》トリディボウ君
お待ちしていたのですのよ
根っこらぼ も着れたようですし
クラス分けを発表いたしますですのよ
トリディボウ君のクラスは
ロプタン分校になりますのよ
1年生から9年生までの
混合のクラスですのよ
全ての学年は揃っては
いないのですが」
|「《tD》はい
特に本校でやりたいような
部活動があるわけでもないので
わかりました」
部活どころではなく
さらに
本校に転校したはずなのに
分校にクラス分けなんて
聞いたことがない
なんていうのは
もう
どうでもよく
人類の滅亡とか
未来とか過去とか
とても大変なことに
巻き込まれているはずなのだが
そんな返事が自然と口から出た
|「《Sg》ありがとう
よかったですのよ
さぁ
みなさんがお待ちです
中へどうぞ
あなたの歓迎会ですのよ」
サギブに促され
半透明の壁を通り抜ける
まるで何もないかのように
通り抜けることができた
外からは部屋の装飾だと思っていた
カラフルな模様は
実は大勢の人達が
並んでできていた
ここに来てよくわかった
僕の 根っこらぼ の木のフォルムなんて
なにも気にすることなんてない
ということを
根っこらぼ の形態と模様は
本当に様々
普通の洋服から
様々な国の民族衣装のようなもの
裸にパンツだけのボディペイント
じゃないかと疑われるもの
可愛い動物から
得体のしれない動物まで
動物の着ぐるみみたいなもの
岩みたいなものに
僕と同じ植物系も
数人肩をくんで
お腹で
電光掲示板のように
文字を流しているもの
あれ
あの文字読める
僕にあわせてくれたんだ
「ようこそ
トリディボウ君
いらっしゃい
歓迎 歓迎 歓迎」
音楽も流れている
明るいけどどこか落ち着く音楽
最初は有線かなにかの
BGMかと思ったけど
どうやら違うらしい
音楽に合うような
口や身体の動きをしている人達や
身体の一部が楽器であるかのような
人達がいる
ボディパーカッション
なんて聞いたことがあるが
ここではそれだけではない
ボディストリング
ボディウインド
ボディピアノ
それらによる合奏だ
あまりの歓迎ぶりに
ほろっとくる
それはこんな雰囲気によるものなのか
それとも 根っこらぼ のおかげで
彼らの気持ちが
伝わりやすくなってきている
からなのだろうか
それにしても分校なのに
この多人数
大人も多いし
PTA?
|「《kT》彼らは
食事などで偶然居合わせた
この時代の人達
おめぇーから見れば未来人達だな
なかなかの歓迎ぶりだぜ
彼らも
俺達の
人類を絶滅から救うための活動を
応援しているんだ」
|「《tD》偶然居合わせただけなのに
あんな演奏までできるんですか」
|「《kT》ハハハ
やっぱ そう思うか
彼らはここで
しょちゅうジャムセッションやってっから
あんなの朝飯前だ」
|「《Sg》ロプタン分校の子供達は
こちらですのよ」
僕は歓迎した下さっている人々に
会釈をして
サギブの案内に従う
まわりを見回すと
結構広い屋内スペース
片側一面は全部窓
外から見た水平に並んでいた透明の壁だろう
ということはここは半地下の空間
窓の反対側の壁側には
たくさんのブースやカウンターが並んでる
半地下空間の中には
様々なタイプの机や椅子
それに寝っ転がりスペースや
小さい子供が遊ぶスペースまである
僕を歓迎してくれた人達は
それぞれの席に戻ったり
カウンターで食べ物を受け取ったり
している
巨大で多彩なフードコートとでも言おうか
サギブに案内されたのはその一角
円形の大きなテーブルのまわりに
子供達が座っている
10人くらいだろうか
子供達といっても小学校低学年から
僕と同じか少し上くらいまで様々
学年順に座っているよう
巨大フードコートの中で
このテーブルの子供達だけは
僕がいた時代と国の
一般的な小学生や中学生の
私服といった格好
僕達が近づいていくと
一番年上に見える男子が立ち上がる
|「《sN》ダメダメな時代の
ダメダメな街から
ようこそ
ロプタン分校へ
私はシンラツ
9年生です」
|「《tD》トリディボウです
8年生です
よろしくお願いします
先輩」
|「《sN》先輩、後輩という考え自体が
ダメダメですが
ダメダメな時代から来たばかりなので
仕方ないですね
そして…」
|「《Hk》あ
はいはい
私はヒカリ」
シンラツの隣の女子が
ちょっと慌てたように
手を挙げて立ち上がる
|「《Hk》もしかしたら知られているかも…
アイドルやってたけど
適応障害で
ここに逃げてきたって感じかな
9年生
よろしくね」
だれもが綺麗だと認めるであろう容姿
よろしくねの後の笑顔が
とても素敵
|「《tD》え
あ
て
適応障害
僕も一緒です
よろしくお願いします」
|「《Sg》あらあら
自己紹介
もう始まりましたですのね
でもまずトリディボウ君に
座ってもらうのですのよ
席は… 」
すかさずサチが片手を挙げ
反対の手で自分の隣の席を
指さす
|「《sc》ここや
ここ」
|「《Sg》では
トリディボウ君は
サチさんの隣の席に
お願いしますですのよ
学年の順番は狂ってしまいますが
よしとしますのですのよ」
僕は頷き
サチの横の席に座る
席に座って見回すと
いつの間にか
カタリとツナグはいなくなっている
僕の時代の学校の生徒では
ないということか
どこか寂しい感じがするのは
挨拶ができなかったこと
だけなのだろうか
|「《Sg》ではでは
自己紹介を続けますのよ
自己紹介する人は
立つのですのよ
ミズナ君お願いですのよ」
|「《mZ》はい」
ミズナは元気な返事をして立ち上がる
|「《mZ》僕はミズナ
7年生です
年も近いのでよろしくお願いします
隣のブウナは妹です」
隣の女の子も立ち上がる
|「《bu》ブウナ
5年生です
よろしくです
都会の生活のことも
いろいろ教えてです」
兄と妹は一緒に軽く頭を下げて
着席
|「《Sg》次は
ウアエン君
お願いですのよ」
|「《we》はーい
ウアエンです
5年生
僕はうんちゃら酵素欠損とかなんかで
僕の時代では
治療薬を開発する技術はあるけど
開発しても採算が取れないとかなんとかで
もう死んじゃうかと思ったけど
ここで助けてもらったんだ
だからお兄ちゃんの
適適障害も大丈夫だよ
ヒカリちゃんも元気にしているし」
|「《sc》次はうちの番やな
もうご存じ
サチ
4年生やで
よろしゅーな
トデボに早速質問や
好きな人はおりまっか?」
|「《tD》え
はい
い
います」
改めて聞かれると
やはり真っ先に思い浮かぶのは
ミチのこと
ミチはもうこの世にはいない
でも 根っこらぼ とか 根っとわーく で
なにか意志の疎通ができるのだろうか
|「《sc》お
なんか考え込みおるな
好きな人って
もしかしたら
うち ちゃあうやろうな
一目惚れちゅうやつや」
|「《tdm》そうなの」|「《akm》ホント?」
|「《tD》え
それは
… 」
|「《sc》ま
それは
興味のある人は
各自自分で確かめて
ってことやな」
|「《tdm》だって」|「《akm》だそうね」
|「《tdm》後で確かめちゃお」
|「《akm》覗いちゃいましょうか」
|「《Sg》はいはい
では次にいきますですのよ
ノテオ君
お願いですのよ」
|「《nt》 … 」
|「《Sg》ノテオ君
自己紹介
お願いしますですのよ」
|「《nt》 … 」
|「《Sg》ノ…」
|「《nt》 僕ノテオ 」
ノテオは座ったままで話し出す
|「《nt》お兄ちゃん
言葉に頼りすぎちゃあだめだよ
言葉で表せないものは沢山ある
言葉で伝えられないものも沢山ある
言葉に頼りすぎると
言葉で表せないものを
見失ってしまうよ」
どこかちょっと
不思議な沈黙の時間が
少し流れる
|「《Sg》ノテオ君
ありがとうですのよ
ノテオ君は3年生ですのよ
では…」
|「《tdm+akm》次は私達の番ね」
次に二人同時に
元気よく立ち上がったのは
二人よく似た女の子
|「《tdm》私トドマ」
|「《akm》私はアカマ」
|「《tdm》私達似てるでしょ」
|「《akm》ちょっと違うでしょ」
|「《tdm》双子なの」
|「《akm》弟もいるのよ
まだ赤ちゃん」
|「《tdm》赤ちゃんがいるから
ママもパパも忙しいの」
|「《akm》だから
私達まだ
お兄ちゃんやお姉ちゃんみたいに
大きくないけど
二人だけでがんばって
お泊り林間学校にきたのよ」
|「《tdm》1年生だけど
がんばってきたのよ」
|「《Sg》そうですのよ
トドマさんとアカマさんは
今回の林間学校は欠席かもとも
考えていたのですが
来てくれて嬉しいですのよ
そしてみなさん
自己紹介ありがとうですのよ
次は
私ですのよ
年齢の順番が狂いましたですわね
私はサギブ
ダブル教師ですのよ
ダブルというのは
小学校と中学校の
両方の先生ができますのよ
それもあって
1~9年生ひとクラスの
分校担当ですのよ
よろしくですのよ
ダブル教師にはもう一つ意味があって
体重も二人分
…
というのは
…
内緒ですのよ」
サギブは自分でニヤリ
|「《Sg》でも一目見たら
わかりますですのね」
サギブは自虐ネタで
受けを狙ったようだが
生徒達の反応は今ひとつ
|「《Sg》(ゴホン)
それでは最後に
改めて
トリディボウ君
自己紹介お願いですのよ」
|「《tD》はい
トリディボウ
8年生です
ヒトダラトから来ました」
|「《sc》トデボでいいやろ」
|「《tD》ええ
トデボと呼んでください」
今まで僕をトデボと呼んだのは
ミチだけだった
そんな思い出もあるから
他の人にトデボとは
呼ばれたくない気持ちも
いままではあったが
ここの人達になら
トデボと呼ばれるのも
嬉しいと感じた
|「《sc》はいはぁーい
もう一つ質問や
特技はなんでっか?」
|「《tD》趣味と言えば
音楽かな
楽器は鍵盤、木管、金管、打楽器
いろいろやったけど
特技と言えるほどのものは
ないかな
強いて特技といえば
すぐ飽きること」
|「《sc》いや
それは
まだホントにやりたいことが
見つかってないだけちゃぁうか」
|「《Sg》サチさん
いいこと言うのですね」
|「《sc》そっか
あたりまえのことや」
|「《Sg》そうですのね
さあ
では
そろそろご飯にいたしますですのよ
みなさんここでの作法を
トリディボウ君に教えてあげて
くださいね」
|「《Hk+mZ+bu+we+sc+tdm+akm》はぁーい」
皆一斉に立ち上がったので
僕もつられて立ち上がる
|「《sc》ほないくか
まずは
おんぶや
荷物背負っとらんから
今度はおんぶできるな
モモンガの木登り!」
サチの方をみると
まさに僕に飛びかかろうとしているが
いつの間にかモモンガの着ぐるみ
姿になっている
|「《tD》え
いつの間に着替えたの!?」
サチは僕に飛びつき
よじ登りながら答える
|「《sc》着替えたんとちゃう
動物の姿にも
ささっと変身できんのは
うちの 根っこらぼ のオプションや
ええやろ
さっきまでは
うちらの時代の普通の服らしく
変身していただけや
それよりトデボ
うちらの時代に帰る前に
根っこらぼ の姿変える
オプション
手に入れんとな
木のカッコじゃ
帰られへん」
そうだった
皆があまりにも自然に接してくれるので
自分が木の姿をしてたのを
忘れていた
|「《tD》それじゃあ
皆も
根っこらぼ で
普通の服のカッコしているの?」
|「《sc》それは人それぞれや
根っこらぼ を全身薄く透明にして
その上に普通に服を着ている子もおる
あ
どちらか試そうとして
ヒカルちゃん
脱がしたらあかんで
うちなら
裸んぼスタイルになっても
ええけどな
大人っぽい姿にも
なれるで
身長は
変わらへんけどな」
|「《tD》え
あ
で
そ…
」
|「《sc》ハハハ
冗談や
まずは めし や
あっちへ
レッツゴー」
僕はサチをおぶったまま
サチの指さす方向へと歩き出す
僕を取り囲みつつあった
他の子供達も
同じ方向へと歩き出す
ちょっとお堅く感じたシンラツが
双子に優しい表情をして
仲良さそうに会話しながら歩いているのが
印象的
ウアエンとノテオは
会話こそしていなが
なにか通じるものがあるように
一緒に歩いている
ヒカリ、ミズナ、ブウナは
僕がいつでも声をかけられるように
気にかけてくれてるようで
僕達に近く歩いている
食事を提供している
ブースやカウンターは
ぱっとみただけでは
何個あるのかわからない程
沢山ある
奥の方がどこまでつづいているのかも
わからない
|「《sc》うちは
あそこで
下ろしてな」
僕はサチが指さしたブースの前で
サチをおろす
|「《sc》うちは
林間学校の最中の食事は
ここに決めとるんや」
そこで提供されているものは
僕の知っている食べ物で例えると
お好み焼きの上に
たこ焼きがいくつか乗っている
感じ
|「《bu》栄養のバランスは
考えられているからといって
見た目は少し寂しくなくって
茶色の上に黒いソース
緑のパラパラがちょっぴり
それだけ
もっと彩りがあったほうが
よろしくなくって」
|「《sc》うちは
これでええんや
これが最高の彩りや
ごっつう うまそうや」
|「《Hk》まぁ
好みは人それぞれでOKね
それで林間学校中の
食事スタイルも
こんな感じなのよね」
|「《mZ》サギブ先生が
好きのものを
好きなだけ
食べたいだけかもしれませんよ」
|「《Hk》フフフ
確かにね
そうかもね」
|「《sc》ところでトデボは
なに食べるんや?」
|「《tD》こんなに沢山あったら
選べないよ
それに…
どこでなにを選んでもいいの
どのお店でも
お金のやり取りは
していないように見えるし」
|「《mZ》ええ
どこのブースでも行って
なにを選んでも大丈夫です
ここでは
お腹を空かせた人間が
ここにいる
それだけが
食べ物を受け取るための
唯一の条件なのです」
|「《Hk》そうなの
素敵でしょ
でも種類が多すぎるのよね
私達もまだ慣れてないし
でも今日はトデボさんの
歓迎会
トデボさんの好みにあって
とても美味しいと
思ってもらえるのを
食べてほしいですよね
とはいえ
私達の時代の食べ物とは
違うものもがほとんどで
私達の時代の食べ物の種類を
聞いても
合わせるのが難しいの
食べ物全体に対して持っている
イメージみたいなものが
わかったら嬉しのだけど
私達の言葉で表現するのも
難しくって…
背中に手をあてて
トデボさんの
食べ物についてのイメージを
覗いてみてもいいですか?
私では
わからないかもしれないけど
ちょっと試しに」
|「《tD》え
あ
はい
お願いします」
|「《Hk》では
ちょっと失礼します」
ヒカリは僕の背中を
掌で触れる
僕の根っこらぼの表面から
なにか情報を吸い取ろうと
している
ヒカリは下を向き
考え込んでいるような表情
そんな沈黙の状態が
しばらく続いたが
|「《Hk》うーむ
やっぱり私では
無理のようです
ごめんなさい
お役に立てなくって」
|「《tdm》やっぱり
手だけじゃ
無理なんじゃない
もっと
こう
ぎゅぅーっと
抱き合わないと」
いつのまにか双子も
傍に来ていた
|「《akm》そうね
キスなんかもいいんじゃない
なんか
こう
あつぅ~いやつ」
|「《sc》ちゃう
ちゃう
トデボはまだ 根っこらぼ と
十分に馴染んでないから
難しいんや
抱き合っても
キスしても
いかんわ」
|「《sN》では
私が試してみても
よいですか」
予想していなかった
突然のシンラツの声に
ちょっと驚き
僕は
|「《tD》はい」
としか返事できなかった
シンラツは
僕の背中に掌をあてる
なんか心の中を
覗かれているような
感覚になるが
不思議と
不快ではない
少しの時間の後
僕から手を離した
シンラツは
右手で
左肩の服の表面をつまむと
服の表面がメモ用紙のように
剥がれた
そしてそのメモ用紙には
既に文字が書かれていた
シンラツの服は
根っこらぼ の一部のようだ
|「《sN》では
こんな感じで」
メモ用紙は六枚あって
シンラツは
ヒカリ、ミズナ、ブウナ、トドマ、アカマ
に一枚ずつ渡し
残りの一枚は自分で持っている
|「《sN》私達は
主賓のお食事を
準備しますから
サチさんは
主賓をお席にご案内して下さい」
|「《sc》了解や」
僕は
粉もん盛り合わせのような食事を
嬉しそうに持っているサチと
先ほどいたテーブルへと
戻る
テーブルには
順に子供達が戻ってくる
僕の前には
フルコースじゃないかと思うような
料理が並んでいく
子供達も
自分の好みのものを
持ってきている
みんな嬉しそう
言葉が通じないながらも
子供達が食べ物を運ぶのを手伝い
笑顔という表情で挨拶をして
戻っていく
未来人も何人かいる
子供達は
全員そろったが…
あとは
サギブ
遅い
せんせぇ~
と心の中で叫ぶ
しばらくすると
三段の棚に食べ物満載の
台車を押して
サギブが戻ってくる
|「《Sg》みなさん
お待たせいたしたですのよ
それでは」
|「《Sg+Hk+sN+mZ+bu+we+sc+tD+nt+tdm+akm》
いただきまぁ~す」
食事はあまりにも美味しい
それもガツガツ食べたい美味しさではなく
ゆっくり味わいたい感じ
皆もそうだのだろう
黙って
味わいながら
食べている
どんな材料から作っているのか
想像もつかないものも多いが
とにかく美味しい
会話は弾まないが
一緒に食べていると
不思議と親しみが湧いてくる
食事も終盤になり
デザートといえるようになると
少しずつ会話も出てくる
サチのたこ焼きのようなものの
一つは
どうもデザートのようだ
どれも同じにみえるのだが
|「《sc》トデボ
うまかったか」
|「《tD》はい
とても
選んでくださった
シンラツさんも
運んでくれた
皆さんも
ありがとうございます」
|「《sN》それでしたら
よかったです」
|「《tD》ところで
サチちゃん
そのたこ焼きみたいなやつ
全部味が違うの?」
|「《sc》そおや
前菜用、副菜用、デザート用
全部
別々や
味だけじゃのおて
栄養素的にも
食感的にも
後味的にも
食べる順番が
決まっとる」
|「《tD》全部同じに見えるけど
見分けられるの」
|「《sc》そこは
根っこらぼ と
根っとわーく の
力を借りてやな
その気になれば
ひとつひとつの料理の
料理人の想い
材料の取れた場所
材料を育てたり収穫した人の想い
全部わかるで」
|「《tD》そうなんだぁー
…
ところで
根っとわーく って
何?
そういえば
カタリも
言ってたな」
|「《sc》それはやな
なんか
こう
そう
知りたいと思うと
その情報が流れ込んでくるというか
なんか
そんな感じ」
|「《tD》どうやって
そんなことができるの?」
|「《sc》それは
うちにもわからへん」
|「《mZ》根っとわーく は
植物や微生物に人間も加わっての
情報や意志を共有できるもののようです
情報の蓄積や近距離での通信には
情報を分子構造に載せているようですが
遠距離の通信には
星々からの素粒子の流れや波を
利用しているなんて聞いたことがあります
でも
僕もよくわからないです」
|「《sN》まぁ
ダメダメな歴史を持ち
ダメダメな育てられ方をして
ダメダメな教育を受けた
私達には理解できないものですね」
シンラツの言葉に
ノテオは言葉にはしないものの
大きく頷いている
|「《sN》それでも
根っこらぼ にも慣れてきたら
根っとわーく も
ある程度は使いこなせるようにはなります
それにトデボ君は
これから
カタリ君やツナグさんに
色々教えてもらったら
よいと思います」
|「《tD》え
ツ…
カタリ達に
また会えるのですか?」
|「《Sg》そうですのよ
トデボ君の今の姿だと
すぐ私達の時代に戻るわけには
いかないのですのよ
しばらくこの時代で
根っこらぼ の形態を変化させる
トデボ君にも適合するオプションを探して
装着しないといけないのですのよ
この時代で私達の言葉を自由に話せるのは
カタリ君とツナグさんだけのようです
なので
お二人のどちらかと
この時代で
しばらくオプション探しの
旅をしていただかないと
いけないですのよ」
(つづく)
つづき は 8月3日に投稿の予定です。
予約投稿日を設定して、少しずつ書き進めています。
なので、作者になにかあった場合は、未完成の状態で投稿される可能性もあります。