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氷の君の陰謀 #1
リクエスト小説です。
「ここはー?」
とある古びた館で、一人の男が目を覚ました。
男の名前は|杉崎誠《すぎさきまこと》。
まだ二十代だというのに、老けて見えるのは気のせいだろうか。
杉崎はベッドから飛び起きると、辺りを入念に見回した。
小洒落た内装は英国の雰囲気を漂わせている。
小さな一人掛けソファと、小テーブル。壁際には本棚があり、洋書らしき分厚い本が所狭しと並んでいる。
杉崎はふと自分の体を見た。
ワイシャツにスラックス。枕元には黒のコートと腕時計が置かれている。
(ここはどこなんだ?)
杉崎はコートをはおり、腕時計をつける。
自分が使っているものに間違いはなさそうだ。
なぜこんなところにいるのか、杉崎には全くわからなかった。
ここ自分の足で来たのか、連れてこられたのかすらも思い出せない。スマホは無い。どこかで落としたか、それとも取られたのか。
杉崎は探偵として働いていた。
それもそこら辺の生半可なエセ探偵ではない。
警察からも度々依頼を受ける、本物の探偵だった。
彼はミステリーをこよなく愛し、崇拝している。もしかしたらなにかの事件巻き込まれたのではないだろうか。という非現実的な、それでいて魅力的な考えが頭をよぎる。
(ミステリーの読みすぎだ。)
杉崎は頭を振って理性を取り戻す。
まずはここがどこなのかを知る必要があった。
杉崎は部屋のドアをそっと開ける。警戒しつつも部屋を出た。
部屋を出ると、廊下が広がっていた。
洋風のカーペットが敷かれ、壁には絵画が掛けてある。
左右を見回すと、杉崎のいた部屋と同じようなドアが並んでいるのが見えた。客室か何かのか、どれも酷似している。
部屋数からして、この建物は大きな屋敷のようだ。
内装から言うと、田舎町にある洋館といったところか。
杉崎は悩んだ末、辺りを探索してみることにした。
どこも似たような風景が続いている。
窓は見当たらない。部屋にもなかった。窓のない家に住みたがる物好きでもいるのだろうか。杉崎は探偵の勘を頼りにして進んでいく。
しばらく歩くと、階段らしきものが見えた。階段は下の方へと伸びている。この階から登る階段は見当たらない。この階が最上階ということか。杉崎は慎重に階段を降りた。
階段を降りるとまず身に入ったのは、格子で封鎖された両開きの扉だった。おそらく正面玄関であろう。
(逃さない、ということか。)
杉崎はこの時点で、これは何者かの企みであると確信していた。
何者かが杉崎をここへ連れてきて、閉じ込めたのだろう。
あるいは複数人捕まっている可能性もあるし、犯人が近くに潜んでいる可能性もゼロではない。
杉崎が頭を悩ませていると、物音がした。
「だっ、誰だっ!」
怯えを含んだ声に肩を震わせ、杉崎は振り向く。
そこにはひどく狼狽している少年がいた。
「南?」
その少年の名は、|南零夜《みなみれいや》という。
まだ高校生だが、杉崎のもとで探偵の助手を務めている。
なかなか頭の切れる奴だった。
「す、杉崎さん!?」
南は狼狽えながらも杉崎に近寄る。
(俺と南が捕まっているのか…。だとすると他にも誰かいる可能性が高い!?)
杉崎はついてくるよう促し、階段を駆け上がり始めた。
長くなりそうなのでシリーズ化します。