公開中
十二
「ん……?」
くぐもったような声にハッと我に返った。
「セナ……?」
ベッドに寝かせられている彼女の顔をバッと覗き込む。
セナが薄く目を開いた。全てを呑み込んで沈めてしまいそうな、何も映さぬ漆黒の瞳だった。
「私は……?」
動こうとして、顔を歪める。怪我したところが痛むようだった。布団の外に出た彼女の手を、両手でぎゅっと握りしめる。
「私は……生きてるの……」
カタ、と音がした。その方向に目を向けると、アランが部屋に入ってきたところだった。
「セナちゃん……。目、覚めたのか。」
音一つ立てず、アランは俺の隣まで歩く。
セナは、ぼうっとアランの顔を見ていた。その瞳からは、何も感情を感じない。
「一週間、眠っていたんだよ。……レオがどれだけ心配していたか」
哀しそうな、真剣な顔。冗談を言っている、いつものアランとは別人のようだった。
セナは何も言わない。は、とも、ふ、とも判別がつかぬ浅い呼吸をしている。
「……私は。」
真っ黒な瞳から、つう、と一筋だけ涙が|溢《こぼ》れた。
「私は……死んだんじゃなかったの?」
---
「———本気で言っているのか。」
静かな声。それでも隠しきれぬ怒気がひしひしと伝わってくる。
「本気だ。冗談でもなんでもない。」
瞬間、胸元を掴み上げられた。普段とは全然違う、アランの顔を至近距離に臨む。眉根はひどく寄せられ、目は大きく見開かれ、突き刺すような視線でレオの顔を見据えていた。
逸らさず、アランの顔を見据え返す。
「———自分が何を言っているのか、分かっているのか。」
「分かっている。———」
ゆっくりと口を開く。自分を、目の前のアランを、落ち着かせるために。
「魔力を、セナに与える。」
---
「———セナ。」
部屋に入ると、ベッドの上から窓の外をぼんやりと見ているセナの姿があった。微動だにせず、振り向くこともしない。
別れを決めた以上、この名前を呼ぶのも、もう数えるほどしかないだろう。
「セナ。」
もう一度名前を呼んで、ようやく彼女はゆっくりと振り返った。|虚《うつろ》な顔だった。
「———記憶と引き換えに、魔力の色が変わるなら、そうしたいか?」
漆黒の瞳は、ただゆらゆらと揺れているだけだった。