公開中
【ミルクティ様】煙草の残り香
ミルクティ 様
★作品名
怪物カフェ 神宮寺 朧さん
マーダラたちのアセンブリー マーファ・ルシファー(マーラ)さん
ご参加頂きありがとうございます!
特に理由は無い……わけではなかった。それは、嫌悪。
不快だと感じてナイフを振るったのが契機で。
「クソが」
被害者、と呼ぶのが相応しいのか。今、踏みつけているクズに向かって声を投げる。
するとその内に、肉を割く度、血の紅が舞う度に、高揚感と愉悦を混ぜてぐちゃぐちゃにしたような快楽に囚われた。|殺人鬼《マーダラ》 、他称も自称も変わらない。
マーファは今、先日男児に暴行を加えて殺害したあと、街角の灰色のゴミ箱に遺体を棄てたクズを殺した。誰も、そのクズを疑ってはいなかったが、マーダラ側の情報網を駆使した先達が素性を教えてくれた。クズは善良な顔をした教師だったが、もう六人も男児ばかりを棄てていた。皆、物言わぬ遺体だ。
依頼者がいなかったわけではない。男児の親が誰かに泣きついて。
ただマーファ本人が自分で手にかけた理由は何かと聞かれれば、意識的には『不快』というよりは、『殺したいという快楽欲求・衝動』みたいなものがあったのかもしれない。
いずれにせよ、アスファルトの上で事切れたクズは、もう動くことはない以上、男児を金製のゴミ箱に棄てることもない。この街の各地にある灰色をした金製のゴミ箱は、そもそも近々撤去される予定のようだったが。
ジャリ、と。
その時、近くの路地裏で、誰かが砂利を踏む音がした。それにマーファは気づいたが、見られたとしても対処が可能だと判断し、この日は帰ることにした。
---
「――そうなんです。息子を殺されたんです。犯人に復讐したい。息子は善良な教師で……お願いします! 犯人を殺して下さい!」
その日来たのは、人間の客だった。
どうやって見つけ出したのか、迷い込んだわけではないその客は、殺し屋としての朧に用があるようで、人前でわめき立てようとしたので、朧は慌ててカフェの別室へと連れていった。話を聞けば、森から買い物に出る時に、ちらほらと話を聞いた、猟奇殺人の件だった。
ある善良な教師の首と胴が、アスファルトの上で離れていた話しだ。
右頬が地面についていて、視神経がついたままの右目が地面に落ちていたらしい。
後頭部は陥没。踏みつけられたかのようだった、というのは、ただの噂なのだろうか。
「犯人は分かっているんです」
「ん。それなら話は早いな。何処の誰だよ?」
「な、名前はわからなくて。ただ、いつもこの角の商店街の、一番外れにある酒屋に閉店近くに入っていって、葡萄酒を買って出てくるのを見ました! 三回も!」
「……」
その後依頼人は、事細かに外見を語った。脳裏でそれをメモしつつ、殺し屋――JOKERの顔をした朧は、低い冷酷な声音で問う。
「それで、報酬は? いくら用意できる?」
「息子の復讐です。七十万用意しました」
「そうか。じゃ、引き受けてやるよ。本当に息子は善良だったんだろうな?」
「はい!」
自信に満ちた顔で、強い復讐に燃える目をし、その客は頷いた。
「この目で、犯人の遺体を見るまでは、私は死ねません!」
---
――その日は、しとしとと雨が降る夜だった。
商店街の外れの酒店、その斜め前の煙草屋の軒先で、紙巻き煙草を銜えた朧は、左手で風よけをし、右手に持ったオイルライターで火を点けた。最初から深く吸い込めば、肺の輪郭が際立つようで、ゆっくりと煙を吐けば僅かな緊張感もともに出ていくかのようだった。だが、気を抜いている場合ではない。
相手は傘を差していたから顔自体は見えなかったが、それ以外は依頼者の述べた特徴にぴったり合致する男が一人、閉店五分前に酒店の中へと入っていった。そして今、利き手の二本の指に煙草を挟んで、何気ない風を装いそちらを見ていた朧の前に、傘を差した男が、葡萄酒の瓶の蓋が覗く紙袋を片手に出てきて歩きはじめた。朧は煙草を吸い終えると、相手の後をつけることにした。
相手は住宅街への近道ではあるが、間に墓地がある坂道を進んでいく。
その内に雨が上がったのが幸いで、朧は濡れなかったが、相手は気づいていないのか傘を差したままだ。
「ん?」
途中で朧は足を止めた。相手が墓地に入ったからだ。まさか肝試しでもないだろう。
「……」
不審には思わなかった。すぐに悟った。相手に、自分が着けていると気づかれたのだろうと。相手は相当な腕前だ。少し気を抜いていたのは事実だが、朧の腕も確かである。
はぁ、と、息を吐いてから、朧は真っ直ぐに、堂々と墓地の中へと進んだ。
下ろした手には、黒光りする拳銃がある。
中に入ると、正面の墓標の横に、相手が立っていた。白い百合の花が手向けられている墓石の横で、傘を下ろした相手は、傘の代わりにナイフを持っている。酒の入る紙袋は抱えたままだ。随分と余裕が見える。ナイフはクルクルと回されている。
先に地を蹴ったのは、相手だった。運動能力に自信のある朧が躱す。
そして拳銃を相手の肩口に突きつけた時、一歩早く相手のナイフが己の頬を掠め――……と、その瞬間、二人の視線がぶつかった。
「あ」
「……JOKERか」
「マーラ」
お互いの、本名では無い名を呼んだ二人は、顔見知りだ。それも、相手のことを信用している部類の顔見知りだった。
「マーラ、一応聞く。善良な教師を|殺《や》ったか?」
「最近はクズを踏み殺したくらいだ。そいつの職業は、教師だったが。男児をゴミ箱に棄ててたのを見てたら、キメェって思って――殺ってる内に楽しくなったんだったな」
「なるほど。善良じゃなかったわけか。しかし弱ったな。俺の客――そのダメな教師の親はそれを信じないだろうし、人間の普通の警察も信じないだろ? 俺の客は、犯人の遺体を見るまで死なないと言ってる。弱ったな」
「JOKER、テメェ、俺と殺るか?」
「まさか。裏商店街でいくつか仕入れをしてくる。明日の朝には片がつくだろ。気になるならその頃また見に来ればいい」
朧の言葉に頷き、マーファは帰って酒を飲むことにした。
---
裏商店街にて、ギザ歯の新鮮な遺体を入手した朧は、瞳の色は誤魔化せないのでくりぬいた。舌にはピアスをさす。それからよくマーファが来ている灰色のハイネックや、それらしいマフラーを身につけさせて、朧はその新鮮な遺体を運んだ。
それを墓地の芝の上に置き、依頼主に電話をかけた。
「――ああ。明日の朝には、発見されるだろうさ。もしくはお前が発見者になって遺体を確認して、自分で通報してくれ」
そう告げて、朧は電話を切った。
---
翌朝。
墓地へ行くついでに商店街でチョコレートを購入したマーファは、ついでに珈琲も購入し、それらを紙袋へと入れて墓地へと向かった。黄色い立ち入り禁止のテープが貼られている。見れば、そこには遺体がまだ転がっていた。
――自分とよくにた服と髪型。
「なァんだ」
アフターケアまでばっちりの朧について考えて、ふっと薄く笑ってから、マーファは踵を返す。そして歩いて行き、墓地が遠ざかってから、木の前にあるベンチに座って珈琲を飲もうとした。すると、煙草の残り香がしたので、振り返る。昨日朧から薫ってきた煙草のものと同じ匂いだった。
「不思議だな。アイツには、不快さを感じねェ」
――ヒトゴロシ、なのに。
そんな言葉を思い浮かべながら、マーファは静かに目を伏せ、珈琲の味を楽しんだ。
<END>
【頂いた内容】
殺人鬼のマーファ(マーラ)に身内を殺されたモブが、殺し屋の朧に「アイツを殺してくれ」とマーファ本人の名前は出さず依頼してほしい。
朧はそれを了承して殺しに行く。一線交えるが、顔をお互い見てみたら知り合い(マーファ、朧)だったんで、朧は遺体などを偽装して死んだことにしてあげてマーファは「なァんだ」ってなる、みたいな……(ここまで考えてるなら自分で書けという話なのですが…)
***
書いていて楽しかったです! 殺人鬼感出せなかったことが悔やまれます⋯⋯
あとR15要素が薄い⋯⋯
小説拝読したのですが、一番心に残ってるのは、お兄様に名前を呼ばれ、またこちらも兄と呼びな(ネタバレになるのでこれ以上は⋯⋯)とても面白かったです。オススメです!