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籠の中のカナリアは何を見る
神無月
僕は忘れない。あの日までの空白を。
勉強は普通。
運動はそこそこ。
コミュニケーションも苦手ではない。
家族仲は悪くない。
家計が苦しい訳でもない。
友達が居る、家族が居る。
皆はいつも、僕は「恵まれている」と言う。
何故?
僕の心はぽっかり穴が空いたようで、満たされないのに
本当に僕は恵まれている?
僕の代わりは、いくらでも居るのに?
ヒーローが嫌いだった。
なりたかった。憧れた。焦がれた。
でもそんな結末、僕には用意されていない。
何でも持っている。故に満たされない僕の欲。
いつだって、僕の世界は色褪せている。
こんな世界、僕は…
「嗚呼、丁度いい。」
「恨んでくれるなよ、少年。」
ヒーローに憧れ、慈善活動を初めて5年。
中学から始めたこの活動も、大分慣れてきた。
オレ1人では、まだ全員を助けることはできない。…けれど
いつか、なってみせる。
世界一のヒーローに!
__『からっぽのくせに。』__
---
高校を卒業して、本格的に事務所を立ち上げようとしていたある日。
いつもの公園、いつもの風景。
その中に、1人。ベンチにぐったりと座っている人が目に入る。
「どーしたの、大丈夫?」
顔を上げた彼女と、目が合う。
新緑か、それともエメラルドか。
言葉では表現し難い程、美しい瞳が椎名を射抜く。
「…えっと、私…」
彼女が言葉を紡ぐと同時に、きゅう、と腹の虫が鳴く。
「お腹減ったの?」
「…はい、1週間なにも食べてなくて…」
「えっ1週間!?死んじゃうよ!あ、オレ菓子パン持ってるからこれ食べなよ!」
彼女は初めは申し訳なさそうにしていたが、椎名の圧に負け、パンを頬張る。
「……おいしい」
一言、そう呟いた彼女は、ふっと笑みを浮かべる。
それに釣られてか、椎名も自然と笑みを浮かべる。
「…そうだ、もし行く宛てがないならさ!」
「オレと一緒に、ヒーローになろうよ!」
そこから、彼女と共にヒーロー活動をすることになった。
彼女は面倒見も良く、何より賢い。
今まで以上に助けられる人が増え、次第に町内では有名になっていった。
からっぽだった心が、満たされる。
世界が彼女を中心に色付いていく。
嗚呼、自分に足りなかったのは彼女だったんだ。
自分を覆っていた鳥籠は、彼女にいとも簡単に壊されてしまった。
…けれど、飛び方を知らない鳥は大空に焦がれても、それに届くことは無い。
彼女はそんな鳥に飛び方を教える。
籠のない空を、自由に、優雅に飛んでゆく。
「小鳥ちゃん」
「なぁに、しーちゃん」
鳥は、自由に飛んでいる時が1番美しい。
…だから。
君が、鳥籠に閉じ込められることがないように。
僕は君を護るから。
……だって、
1度でも閉じ込められてしまえば。
その鳥は、もう羽ばたくことは無いのだから。
『仮初の正義だとしても、この出会いだけは。嘘じゃない。』
オレは忘れない。あの日生きる意味をくれた君を。