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ツンデレ男子2人恋は... 「下」
こちらの小説にはキスシーンを含みます。
苦手な方は読むのをおやめください。
沈黙のなかで、西日はさらに深く教室へとはみ出していた。
重苦しい空気のなか、最初に堪忍袋の緒を切ったのは龍弥だった。
彼は耐えかねたように春夜の方を向き、その顔を覗き込んだ。
「……なあ、春夜。お前さ、俺のことなんてどう思ってんだよ」
その声は震えていた。
いつもの軽薄な仮面が剥れ落ち、内側にある切実な問いが漏れ出している。
「(……っ)……質問の意図を正確に把握できませんね。私はただ、あなたの身勝手な振る舞いに呆れているだけです」
春夜は必死に冷静さを保とうとしたが、視線は龍弥と合わさったまま動かない。
彼の指先は白く強張っている。
「嘘つけよ! そんな顔して……お前だって気づいてんだろ? 俺の隣にいなきゃいけない理由なんて、そんなの『幼馴染だから』じゃねえことくらい」
龍弥は一歩踏み出し、春夜との距離をさらに詰めた。
強引に奪うような視線が、春夜の瞳を射抜く。
「……っ! 誰が気づいたなどと言いましたか!」
叫ぶように言った瞬間、春夜の理性が弾けた。
彼は龍弥の手首を掴み、自分の方へ引き寄せた。
その力は驚くほど強く、そして切実だった。
「私は……あなたが私の平穏を乱す存在であることを認めざるを得ないと言っているのです! それ以上の感情など、あってはならないはずです!」
しかし、彼自身の声が裏切っていた。
震えと熱を帯びたその響きは、「恋」という名の真実を雄弁に語り出していた。
「……あー、クソッ。気づいてるよ。俺もだよ……っ」
龍弥は頭を抱えるように顔を覆ったが、春夜の腕から逃れることはしなかった。
彼自身の胸の内でも、「ただの幼馴染」という便利な言い訳はとうに崩壊していたのだ。
「お前といるとイライラするし、ムカつく……けど、それ以上に他の奴と一緒にるのが耐えられねえんだよ。俺のこと、好きだろ?」
直球すぎる言葉が放たれた。
それは挑発であり、同時に降伏の宣言でもあった。
「(…………っ!!)」
春夜は絶句した。
顔面を真っ赤に染め、視線を泳がせる。
しかし、彼の手首を掴む力は緩まることはなかった。
「……馬鹿なことを言わないでください。そんなこと、認めれば……あなたのせいになるじゃないですか」
その言葉の裏には、「私があなたを好きなせいで、私の平穏が壊れたのだ」という自責と、それ以上の執着が含まれていた。
「いいよ、全部お前のせいにしてやるよ。俺がお前に惚れてるのも、お前が変なこと言うからだ。……責任取れよ、春夜」
龍弥は顔を上げ、挑発的な笑みを浮かべた。
しかしその瞳の奥には、確かな熱情と独占欲が宿っている。
「…………勝手なことを言わないでください。……ですが、逃げるつもりはありませんよ」
春夜は眼鏡を外し、わずかに潤んだ瞳で龍弥を見つめ返した。
それは彼にとって最大の譲歩であり、最も純粋な告白であった。
窓の外では風が止み、夕闇が教室を包み込んでいた。
二人の間に流れるのは、もはや幼馴染という名の安全圏ではない。
互いの存在に囚われ、共依存に近い熱を持って結ばれた「恋」の始まりだった。
「……あー、もういいよ。わかったからさ」
龍弥は春夜を抱き寄せた。
その腕の力強さは、二度とこの場所から逃さないという誓いのように感じられた。
「……離してくださいと言っているでしょう。……でも、少しだけなら、許します」
顔を赤くしたまま呟いた春夜の声には、もはや拒絶の色はなかった。
西日が消え、影が二人を一つに溶け込ませるなか、二人の心臓の鼓動だけが重なり合っていた。
「……はっ、やっと認めたかよ。お前って本当に、しつこいんだな」
龍弥の腕の中に閉じ込められたまま、春夜は顔を伏せた。
しかし、その体は拒絶するどころか、まるで熱を求めるように龍弥の胸元へと預けられている。
西日の残滓が消えゆく教室で、二人の吐息だけが重なり合っていた。
「……あなたが強引なだけです。私が認めたわけではありません。ただ、あなたの理不尽な要求に付き合っているだけだと、自分に言い聞かせているだけです」
「あー、はいはい。そう言ってんならいいけどさ。お前のその『言い訳』、もう聞き飽きたんだよ」
龍弥は低く笑い、春夜の顎を指先でくいと持ち上げた。
強制的に視線を合わせさせられた春夜の瞳には、潤んだ熱が宿っている。それは冷静な秀才としての仮面が完全に剥落した証だった。
「……いい加減、自分に嘘つくんじゃねえよ」
その言葉を最後に、龍弥は唇を重ねた。
唐突で、しかしこれまでの葛藤のすべてを凝縮したような熱い接吻。
春夜は驚愕に目を見開き、一瞬だけ身を硬くしたが、すぐに龍弥の背中に手を回し、彼を引き寄せた。
「……っ、ん……」
唇と唇が触れ合うたび、これまでの「幼馴染」という安全な境界線が音を立てて崩れていく。
それは単なる情熱ではなく、長年積み重ねてきた執着と、独占欲と、そして隠し通せなかった恋心が一気に溢れ出した奔流だった。
龍弥は春夜の唇を奪うように深く吸い込み、彼を自分だけのものへと刻印する。
春夜の眼鏡が床に落ち、カランと乾いた音を立てた。
視界から遮るものがなくなったことで、二人の距離はさらに密接になった。
しばらくして、龍弥が唇を離したとき、そこには銀色の糸が細く引かれていた。
「……はぁ、……クソ、マジで心臓に悪いわ」
龍弥は荒い息をつきながら、春夜の額に自分の額を預けた。
彼の顔はいつもの余裕など微塵も残っておらず、ただ一人の男としての切実な情動が溢れ出していた。
「……最悪です。私の心拍数をここまで乱すなんて、本当に……あなたは異常だ」
そう言いながらも、春夜の唇は赤く腫れ、その表情には敗北感と、それ以上の充足感が混ざり合っていた。
彼は龍弥のシャツを掴み、縋るように呟いた。
「……責任を取れと言ったのは、あなたです。……逃げないでください」
「……当たり前だろ。どこにも行かねえよ」
龍弥は再び彼を抱き寄せた。
窓の外では完全に日が落ち、教室は深い闇に包まれていたが、二人の間に灯る熱情だけは消えることなく、静かに燃え続けていた。
「ただの幼馴染」という名のシェルターはもう必要ない。
そこにあるのは、互いの存在なしには生きられないと自覚した、共依存にも似た純粋な恋だった。
これから先2人は「恋人」として日々過ごして行く事になった。