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演じて、演じて。
日替わりお題 一人称
今回、私に渡されたのは、一人称が|某《それがし》の、不思議な役だった。人では無い物の役。
ぬいぐるみの役。
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「まもなく開演でございます。お席を離れていらっしゃるお客様は、お早めにお席へお着きくださいますよう、お願い申し上げます。」
1ベルが鳴った後、アナウンスが入った。
これから、私にとって心躍る時間が始まる。
千秋楽だからこの劇でこの感覚を味わうのら最後になってしまうのだが…。
「|某《それがし》、今日も頑張ろうな!」
今回の役の一人称が|某《それがし》…で、それが独特だ!と稽古の時に話題になってからずっと演者の間で私のことを|某《それがし》、|某《それがし》!と読んでいる。
「…そうだね。」私は頷きながら応えた。
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私は、演じながらずっと考えていた。
私の今回の役の一人称、『|某《それがし》』は大体、武家の自称に用いる言葉なのに、役は武家ではないのだ。ということを。
私はぬいぐるみの役だ。うさぎのぬいぐるみ。かわいいかわいい、とある女の子のところに住んでいるぬいぐるみ。
「ミミティ、君はずっとここに居るのかい?」
「…あぁ。|某《それがし》はずっとここに居ようと思ってるよ。」
「へぇ…。」
「へぇ…とは何だ!へぇは…!!」
「いや、君はご主人様のことを1番大事に思っているのだなと思っただけだが。」
「そっか、ありがとう。他のみんなは他所の家に行ってしまうんだね。どうか元気で。」
「そっちこそ。」
劇中での他の役との最後の会話が終わる。
武家…将軍に支える人。私の演じるミミティは、将軍の代わりに女の子に支えているのかな。なんて、セリフを言いながら考える。
「ご主人様、どうか私とずっと一緒に居てくれますように。」
……これにて閉幕。