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心血解放の爪痕④
風野芽衣明
--- 燐side ---
怪人となった|凍矢《とうや》の操る睡眠作用のある香りを嗅いでしまい眠ってしまった|燐《りん》。穏やかに眠っているはずはなく 両手で頭を抱えるような姿勢で悪夢にうなされている。
燐:「私の心血解放で凍矢を壊しちゃった…… 私が凍矢をおかしくして壊してしまったんだ!! 私が、 私が、私がァァァァ!!! あぐっ…… だ だれか……!《《凍矢》》 たすけて……! __ッッッ!!__
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!! ハァ… ハァ…。い、今のは ? そうだ、私 変な香りを吸って意識が……」
悲鳴を上げながら目を覚ますと 左手で顔の半分を覆い 全身から汗が吹きでていた。
凍矢:「りんさま!!! りんさま 大丈夫!!!?」
燐:「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
突然凍矢が顔を覗き込み、燐はベッドから飛び降り、壁際まで後ずさると ズルズルと滑り落ちるようにして ハァハァと肩で息をしながら 座り込んでいる。チラッと掛け時計を見ると10時を回り、凍矢の姿を見ると また恐怖の感情に襲われ 身体が震え 涙を流していた。もしかしたら…… 眠っている間に奇跡が起きて いつもの凍矢に戻ってるかも……と信じていたが その希望は音を立てて砕け散る。
凍矢:「燐様 うなされていたようだけど大丈夫? 顔が真っ青だし すっごく震えてる……。燐様は なにが怖いの? 遠慮なんてしないで なんっっでも言ってよ、りんさま。りんさまが怖いものは全部……」
燐:「出てって」
凍矢:「え?」
燐:「この部屋から出てってーーーーーーーーー!!!」
悲鳴のような叫び声をあげると、それに呼応するように【壁や床、天井等 燐が触れていない場所からも】無数の鎖が凍矢目掛けて飛んでいき ぐるぐると拘束すると乱暴に部屋から追い出した。バンッ!!!と大きい音を立て扉が閉まり、ガチャッ!!!という無慈悲な音が響く。ウルグの〈|静寂《サイレント》〉がまだ効いていたため 他フロアや周辺のビルに響くことはなかったが なぜ追い出されたのか分からない凍矢は握り拳をつくり ドアをガンッガンッと叩いている。 燐は布団の中に潜り込み、耳を塞ぎ 目をぎゅっとつぶると ガタガタと怯えていた。
凍矢:「りんさま! りんさまぁ! 開けてよ!!(ガチャガチャ)鍵がかかってる!!? ねぇ ご主人様ぁ!!!」
???:「今は何をしても無駄だと思うけど?」
凍矢:「ッッッ!! 誰だ!!?」
声にバッと振り返ると 月光に照らされた白銀の髪と|琥珀色《アンバー》の瞳が見える。ソファに足を組み 頬杖をつきながら座っていたのは 完全獣化や認識阻害等 何も使っていないウルグだった。
ウルグ:「さっきぶり かな」
凍矢:「……ウルグだっけか? |獣風情《けもの ふぜい》が何の用だ」
ウルグ:「ハハハ 獣ねぇwww まーた随分な言い方だなぁ。せっかく【理由】を教えてあげようと思って こうして来たのに」
凍矢:「【理由】?」
ウルグ:「(ソファから降り 凍矢と向かい合うように 背もたれに腰かける) なーーーんで凍矢を拒絶し 部屋から追い出したのか ってことだよ。燐の悲鳴も聞こえたし、鎖でぐるぐる巻きにされた凍矢が追い出されたところも見えちゃったしねwww 狼の聴力じゃなくても 流石にあの声量は 只事じゃないって分かるよ」
凍矢:「チッ 見られたか。まぁいい。力ずくで聞き出し 口を封じてやれば……」
昼間のように花からツインダガーを作ろうとするも強く根を張ったように動かず、むしり取ることができない。月下美人は本来夜に咲き、朝しぼむ花だが テッセンも月下美人も 《《 全ての花が閉じきってしまってる 》》。
凍矢:「なぜだ…… なぜダガーが作れない!!」
ウルグ:「あのさぁ…… もう10時過ぎてんだよ? 昼間あんなに綺麗に咲いてたんだから 夜は休みたいに決まってんじゃん。 __フゥ__ しかたない」
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パチンっと指を鳴らすと突然眩い光に包まれ 凍矢は両腕でガードするように光を遮っている。眩しさが無くなり ゆっくり腕を下ろし目を開けると そこは昼間の時計台広場だった。青々とした芝生の上に2人が立っている。
凍矢:「こ、ここは…… さっきまで事務所にいたはず、一体俺に何をした!!!」
ウルグ:「|颯《そう》の|具現《マテリアライズ》を基に新しく作った魔法〈|空間生成《ディメンション》〉だよ。許可した人物しか入ることができないし、天候や時間帯 シチュエーションだって自由に変更可能! しかも何日過ごしたとしても現実は1秒と経たない! 面白いでしょ。……腕や頭を見てみて」
言われるがままに 腕を見たり頭を触ると 閉じきっていた蕾がパァーーっと開き 綺麗な花を咲かせている。むしり取れるようになりツインダガーに変えることもできた。
凍矢:「!!! 花が咲いた!?」
凍矢が驚いてる中 ウルグは何も言わずに完全獣化し 満面の笑みを浮かべ 尻尾をゆっくり振っている。
ウルグ:「さ・て・と♡ 【1回 死ぬ覚悟】はよろしくて?」
凍矢:「へっ? その姿は・・・!!? 尻尾に耳、その牙…… お、狼か!!!?」
ウルグ:「ああ、そうか 変異の影響で記憶喪失なんだっけか。まぁ記憶喪失だからって容赦する気ないけど」
ニイッと口角が上がり 舌なめずりをすると、回答猶予を与えることなく ヒュっと姿が消える。次の瞬間 背中を攻撃され ツインダガーを振った時には脚や腕を 鋭い爪が襲いかかっていた。再生能力があるとはいえ、どこかしらから青い血が流れ 月下美人やテッセンの花を青く染めている。
ウルグ:「__ドクン__ __ドクン__ほらほらァ!! どうしたの!!? 反撃しないと 怪人態の凍矢と言えど ホントに死んじゃうよっ♬ 私はクローンを基に造られた最っ強のキメラ、完全獣化態のスピードについてこられるかなッッッ!!!(ここまで話しながら十撃は与えている) ・・・・・・防戦一方だけど まさか1回死なないと本気出せないとか!!? それともなに?
女の子に対して|本気《マジ》になんてなれないとか!!? そんなヌルいこと言ってたら ほんっっとうに死んじゃうよ!!!? あはははははははははっ!!!!!」
凍矢:「んな事…… がぁっ!!!」
爪を舐めるなんて全くしないはずが 突然そんな事をしたため、目は爛々と輝き 瞳孔は完全獣化態の時よりさらに細く 牙は鋭く研ぎ澄まされ、時おり|狼歩《ろうほ》状態(ヘイルがいないため|戦狼《せんろう》の弱体化版=狼歩状態とウルグが決めた。スピードアタッカーになる)で攻撃をしかけている。今のウルグは《《誰よりも凶暴で 血を追い求める獣》》になっていた。
180cm越えの体躯とは思えないくらいの超高速攻撃に凍矢は手も足も出ず だんだん【壁際】へ追い詰められ 気づいた時には透明な壁が背中にガンッと当たってしまった。いくら青々とした芝生の景色が見えているとはいえ 【あくまでも空間に投影された景色、空間そのものの広さは決まっている】。普段の凍矢なら 完全獣化態のウルグであっても遅れをとることはない、しかし 今の凍矢にはウルグと戦う力など これっぽっちもなかった。
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ウルグ:「1度も反撃しないなんて面白くないなぁ、いじめてるみたいだし。それに |戦狼《せんろう》状態になりたいけど ヘイルがいないとなれないしなぁ……。 まぁいっか、完全獣化態や狼歩状態で《《これ》》なんだし 戦狼状態になったら《《遊べない》》か。
死んじゃえ♡♡♡ (右手の爪が凍矢めがけて振り下ろされる)」
凍矢:「(殺される…… 獣の尻尾や耳が生え 目がギラギラしてて 両手から生えた爪をペロリと舐めている人に殺される……!!)」
不敵な笑みを浮かべ 再び血を舐めとり ゆっくり近づいてくるウルグに対し恐怖の感情を抱いた凍矢は青ざめた顔をし ぎゅっと目をつぶり ズルズルと滑り落ちるようにして座り込むと頭を抱えて 縮こまって震えている。そして|狼人間《ウルグ》に対しボロボロと泣きながら命乞いをしている。爪を振り下ろされた瞬間 生まれて初めて命乞いの言葉を述べられ 爪は目のスレッスレで止まった。
凍矢:「殺さないでください……。 お願い……します、死にたく……ないよぉ……。 ごしゅじんさまぁ、たすけて……。《《こわい》》、《《こわいよ》》……」
ウルグ:「《《燐の気持ち》》、わかった?」
凍矢:「ふぇ……? りんさまの気持ち?」
ウルグ:「なんで 燐が凍矢に命令したりしないのか、なんでずっと泣いているのか、なんでずっと怖がっているのか……。理由は1つ」
不完全獣化で強化した右手で胸ぐらをつかみ立たせると そのままガンッと《《壁》》にぶつける。
ウルグ:「燐が1番怖がっているのは 《《今の凍矢》》なんだよ!!! だってそうでしょ!!!? 自分の相棒が急にそんな姿になって 無理矢理手の甲や足の甲にキスしたり、身体をベタベタ触られて!!! そんなの気持ち悪い以外の何物でもないでしょ!!! しつこい男は嫌われるって言うけどさぁ、もうそのレベルを超えすぎてる。自分が燐の目にどう映ってるのか、自分を見た燐がどう思うか、燐様って ご主人様って敬意を表すのなら……。少しは考えて行動しろよ
**この頭の中お花畑の最低野郎が**!!!!!」
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クローンとして造られ キメラに改造されて15年、喉を枯らしてやるという勢いで凍矢を怒鳴る。ここまで声を荒げるのは初めてだった。
凍矢:「り、燐様が怖がってたのは…… 俺? 俺が ご主人様を追い詰めてしまったの……?」
メイア:「__フンッ__ この先どうするかは|凍矢《アンタ》が《《自分で決めて》》。 いつでも出られるようにしてるし 念じれば 欲しいものはなんでも|出現す《でてく》るようにしてるから。
じゃ、私はこれで♡♡」
中に取り残された凍矢は 一歩も動くことができず 青ざめた顔のままガクガクと震えていた。
凍矢:「燐様が1番怖がってたのは俺……? 俺はただ 燐様のことを愛し しもべとしてそばにいたいだけなのに それが気持ち悪い……?
・・・・・・自分が燐様の目にどう映るか かぁ。えっと 心の中で念じたら 何でも出せるんだっけ」
凍矢は【大きい姿見】を出現させると 鏡に手をつき 改めて《《自分の姿》》をまじまじと観察したり、鏡を見ながら身体を触っていた。全て青い血に染まっているものの 頭部にはクリスタルでできたような大きな月下美人の花が、腕には 両袖を突き破って 月下美人やテッセンの花が咲き乱れ、全身に青黒い鎖の紋様が浮かんでいる。瞳は満月のような金色で 【鎖がぐるぐる巻きついている濃いピンク色のハートマーク】が浮かんでいる。あの場にいた全員 身体に花なんて咲いていない、 自分しか咲いていない。 もしもヘイル達と同じような身体で、燐様だけがこんな異様な姿をして うっとりとした表情で自分に詰め寄って覆いかぶさり ベタベタと身体に触ってきたら……? 凍矢による想像 いや妄想タイムが始まった。
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(bgm ナウシカレクイエム)
凍矢:「り、燐? 一体どうしたんだよ、その姿は!!」
妄想上の怪人態 燐:「(ソファの上で凍矢を押し倒し 覆いかぶさっている) ふふふ、凍矢様は とても美しいわ♡♡♡ 紅く輝く瞳に 黒く艶やかな髪、首元でキラリと光っているシルバーのネックレスにアメジストの指輪……。 私は凍矢様だけを見て 凍矢様だけを愛し しもべとして凍矢様をお守りし 凍矢様の敵は全て滅ぼす。そのために私はこうして生まれ変わったんですもの♡♡♡♡♡ 凍矢様のことを考えるだけで幸せですわ♡♡♡♡♡(髪に指を通したり頬に 冷たい手を添える。時おり舌なめずりもしている)」
凍矢:「やめてくれ…… 俺の知っている燐はそんなことをしない!! 目を覚ましてくれ!!!」
燐:「目なら しっかり覚めてますわ♡♡♡ これが本当の私なんですもの♡♡♡」(強制終了)
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妄想してみると凍矢はゾワゾワっと身震いする。あんな燐様は 俺が大好きな燐様じゃない。ただの《《痴女》》だ。自分の姿を映し出している姿見をチラッと見ると バリィィィンと砕き割った。
凍矢:「ウルグに教えられて 自分に置き換えて考えることで やっと分かった。何も言わずに|身体を触りまくったりキスされたりする《あんなことをされる》のは誰だって怖い、燐様や周りにいた奴らにとって【敵でしかなかった】んだ。 頭をよぎった 《《あの記憶》》……花なんて咲いていない俺と 同じ顔をした男、あいつが 《《燐様が大好きな凍矢》》、《《本当の俺》》なんだ。 こんな花が咲いた俺ではなく……。
ヘイルの治療を受ければ 皆と同じ姿に戻り、香りや植物を操ることはできなくなる、でも 燐様は笑ってくれるかな……。また凍矢!って笑顔で・明るい声で呼んでくれるかな……。決めた、治療を受けて元に戻る。 そして燐様の笑顔を取り戻さないと、俺が奪ってしまった笑顔を」
異空間から戻るとウルグの言う通り 時間は全く進んでいなかった。燐に会おうかと考えるが またこの姿を見たら怖がらせてしまう…… 朝になったら自分の口から話そう…… そう考えた凍矢はソファに 膝を抱えるようにして座り 目を閉じる。そして重力に引かれるように ドサッとソファの上に倒れてしまった。