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底辺からの叛逆〜転生した世界で「呪術」を極め、神殺しの王座へ登り詰める』 第5話 不夜の檻、澱みの王
神殿の追手を撒き、レイスとイルミが辿り着いたのは、王都の華やかな光が一切届かない最底辺――地下スラム『グラウンド・ゼロ』だった。
頭上を走る巨大な排水管、立ち込める紫煙と生ゴミの悪臭。そこは、神の祝福から見捨てられた犯罪者、奴隷、異端者たちが身を寄せ合う、王国の巨大な膿(うみ)だった。
「ひどい場所ね。でも……あの息苦しい神殿よりはマシだわ」
イルミは大きなフードで傷だらけの羽を隠しながら、周囲を警戒する。
彼女の背後を歩くレイスは、漆黒の呪剣をボロ布で巻き、いつでも抜けるように手を添えていた。神殿の大聖堂を壊滅させた二人の身体には、今や並の戦士を凌駕する強大な呪力と生命力が満ちている。
「ここなら神殿の目も届かない。まずはここを俺たちの『陣地』にする」
レイスがそう呟いた瞬間、路地裏の影から十数人の男たちが現れ、進路を塞いだ。
誰もが錆びた斧やナイフを手にし、飢えた狼のような目をしている。このスラムを根城にするならず者たち――『黒犬傭兵団』の末端どもだ。
「おいおい、見ねえ顔だな。上(地上)から落ちてきたお坊ちゃんとお嬢ちゃんか?」
「そこの女、羽を隠してるな? 亜人の奴隷は高く売れるんだ。置いていきな」
下卑た笑いを浮かべ、距離を詰めてくる男たち。
イルミが不快そうに手を掲げ、黒炎を練ろうとするが、レイスがそれを手制した。
「イルミ、お前の炎は目立ちすぎる。ここは俺の新しい術の実験場にさせてもらう」
レイスは一歩前へ出ると、ボロ布に包まれた呪剣の柄にそっと触れた。
脳内の呪術アーカイブから、スラムという『負の感情が満ちた土地』に最適な呪いを引き出す。
【呪怨伝播・生体掌握(パペット・ワイヤー)】
レイスの足元から、影のようにドス黒い粘着質の『呪いの糸』が、蜘蛛の巣のように路地の床を這い回った。
「あん? 何だこの黒いのは……うわっ!?」
一人の男がそれに気づいた時には遅かった。
黒い糸が男たちの足首から衣服を伝い、瞬時にうなじへと潜り込む。
「が、あ……あ、ああ……!?」
先ほどまでニヤついていた男たちの目が、一瞬にして生気を失い、どんよりとした紫色に染まった。彼らは自分の意志とは無関係に、カチカチと歯を鳴らし、人形のようにギクシャクと動き出す。
「おい、お前らどうしたんだ!? しっかりしろ!」
リーダー格の男が狼狽するが、操られた仲間たちは一斉にそのリーダーへと武器を向けた。
「な、何を考えてやがる! やめろ、俺だ、ボスの……ぎゃあああああっ!?」
路地裏に短い悲鳴が響き渡る。
レイスが指先をわずかに動かすだけで、操られた男たちは一寸の狂いもなくリーダーをハサミ撃ちにし、その肉体を容赦なく切り刻んだ。
彼らが持っていた恐怖、怨念、そして死のエネルギーが、再び糸を伝ってレイスの元へと収束していく。
「お前たちの命は、これからは俺のために使ってもらう。死んでもな」
レイスが指をパチンと鳴らすと、操られた男たちは一斉にレイスの前に跪き、頭を垂れた。
完全に自我を奪われ、レイスに絶対服従する生ける屍(ドール)の完成だ。
「……恐ろしい力ね。でも、とても合理的だわ」
イルミが感心したように、凍てついた微笑を浮かべる。
「これからこのスラムの組織を一つずつ潰し、すべて俺の兵隊(コマ)にする。神の軍勢が俺たちを殺しにくる前に、この地下に『呪いの王国』を創り上げるぞ」
レイスの紫の瞳が、暗い地下世界を妖しく照らし出す。
神殺しの王座へ登り詰めるための、最初の軍勢がここに誕生した。
(つづく)