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鋼鉄の墓標(アイアン・モニュメント)
暇人
その男は、街の少し外れたクズ鉄置き場で、一輌の戦車と暮らしていた。
かつての戦争で大破し、男がジャンクパーツをかき集めて執念で直した、退役済みの古い主力戦車。男にとっては相棒であり、自分の半身のような存在。街の人々は「物好きな頑固親父の骨コツ品」と笑っていたが、男と戦車は静かに、平和な日々を過ごしていた。
だが、その平和は唐突に破られる。
地響きと共に山を越えて現れたのは、現代兵器が通用しない、圧倒的な質量を持つ「未知の巨大な『脅威』」だった。
正規軍の防衛線は一瞬で瓦解し、怪物は男たちの住む街へと進路を向ける。逃げ惑う人々。避難が間に合わない。このままでは、街が踏みつぶされる。
男はクズ鉄置き場で、静かに戦車のハッチを叩いた。
「……おい。退役した老兵の出る幕じゃねえが、街が泣いてる。行くぞ」
キュルルル、ドォン!と、錆びついたディーゼルエンジンが爆音を上げる。戦車はまるで、その言葉を待っていたかのように激しく咆哮した。
街の防衛線に滑り込んだ戦車は、怪物と正面から激突する。
ドゴォォォン!! と大口径の主砲が火を噴き、怪物の肉体を抉る。しかし、怒り狂った怪物の反撃は凄まじかった。
最初の突撃で、戦車の命とも言える履帯(キャタピラ)が片方吹き飛んだ。
並の戦車ならここで終わりだ。だが、男はレバーをへし折らんばかりに引き絞る。
「まだだ! まだ動ける!」
千切れた履帯を引きずり、火花を散らしながら、戦車は地を這うようにして怪物の前に立ちはだかり、二発目を叩き込む。
怪物の巨大な爪が、戦車の側面を容赦なく引き裂いた。
サイドスカートが剥ぎ取られ、車体後部のエンジンフードが吹き飛ぶ。
むき出しになったエンジンから黒煙と炎が噴き出すが、戦車は止まらない。油圧が抜け、警告灯が真っ赤に染まる車内で、男は狂ったように笑った。
「そうだ、お前もまだ死んじゃいねえ! 街には指一本触れさせねえぞ!」
至近距離での殴り合い。
怪物の猛攻を受けるたび、装甲板が剥がれ落ち、副武装の機銃がへし折れ、戦車の身体はみるみるうちに削ぎ落とされていく。
それでも、砲塔だけは、主砲だけは、真っ直ぐに怪物の急核を睨み続けていた。
そして、怪物が街へ踏み込もうとしたその瞬間。
戦車は残った最後のパワーを振り絞り、怪物の足元へ潜り込むように突撃した。
ガキィィィン!!!
鋭い爪が戦車の砲塔に突き刺さると、主砲の砲身が真ん中からへし折れる。
防盾は砕け、装甲は文字通り「紙クズ」のようにもぎ取られた。もはや戦車の形すら留めていない。誰もが、万策尽きたと思った。
だが、男と戦車には、最初から退路などなかった。
「これで、最後だ……っ!!」
砲身を失い、断ち切られた砲口。男は怪物の胸元にそれを完全に押し当てると、全弾薬庫を連動させた「零距離射撃」の引き金を引いた。
――カツン。
一瞬の静寂。直後、街全体を揺るがす大爆発が巻き起こった。
怪物は、内側から肉体を木っ端微塵に打ち砕かれ、その場に崩れ落ちて沈黙した。
街は、守られたのだ。
硝煙がゆっくりと晴れていく。
人々が恐る恐る近づいた中心部。そこに残されていたのは――。
すべての装甲を剥ぎ取られ、キャタピラもなく、砲身すら失った、ただの「赤黒く焼けた鉄の塊」だった。
原型を残していないその姿は、まるで街の盾となって戦い抜いた、鋼鉄の騎士の遺体のようだった。
ハッチは高熱で歪み、完全に溶接されたように閉じたまま、二度と開くことはなかった。
男が中に残されたのか、それとも戦車そのものが男の魂を飲み込んで眠りについたのか、確かめる術はない。
ただ、その鉄の塊は、怪物の死骸を踏みつけたまま、どこまでも気高く、大地に深く突き刺さっていた。
数十年が経ち、復興した街の中央広場には、今もその「鉄の塊」がそのままの姿で鎮座している。
着飾ったブロンズ像なんかじゃない。
傷つき、ボロボロになり、すべてを失いながらも街を守り抜いた、世界で一番美しい「鋼鉄の墓標」として。
【完】
どうでしたでしょうか。感動していただければ幸いです。それでは・・・パンツァー・フォー!