公開中
#12
--- 翌日 ---
リビングはいつもより静かだった。テーブルには、ルドとエンジン、そしてなぜかぐてぇっとしたレイラが座っていた。いつもなら一番に起きて朝食の準備を始めているはずのザンカの姿がない。
「……珍しいな、ザンカが寝坊なんて」
ルドが焼き魚をつつきながら呟く。エンジンの「何かあったのか?」という視線が、頬杖をついてテーブルに突っ伏しているレイラに注がれる。
「さぁ? 昨日もいつも通りやったでしょ」
レイラは力なくそう応じたが、その顔はほんのり赤い。昨日まで「ザンカの声は子守唄」と言っていた本人が、今日は寝不足でぼんやりとしているのだから、一同は訝しんだ。
その時、階段を降りてくる足音がした。全員の視線がそちらに向かう。
「……はよ」
ザンカが、普段より少しだけ低い声でリビングに入ってきた。髪は少しだけ跳ねており、いつもの完璧に整えられた姿ではない。明らかに寝坊していた。
「ザンカ! お前が寝坊なんて、明日は槍が降るな!」
エンジンが面白そうに言う。
ザンカは皆の視線を受け流し、いつもの席レイラの隣に腰掛けた。そして、ぐてぇとしているレイラを一瞥する。
「お前こそ、ぶち顔色悪いじゃろ。人の話を子守唄にしとる奴が、寝不足なんか?」
ザンカの言葉に、レイラはびくりと肩を震わせた。その指摘は図星だった。昨晩、布団の中でザンカの言葉や昔の思い出を反芻しすぎて、結局あまり眠れなかったのだ。
「あー、うるさいわ! ザンカこそ寝坊したっしょや!」
「全くじゃ。人のこと言えんわな」
ザンカは呆れたように笑いながらも、どこか嬉しそうな表情を隠しきれていない。その表情に、レイラはまた顔を赤くして、慌てて残りの朝食を口に詰め込み始めた。
そんな二人の様子を、エンジン、ルド、そして遅れて起きてきたリヨウは、ニヤニヤしながら観察していた。
「おいおい、なんか今日の二人、空気感違わね?」
とエンジンが肘でルドを小突く。
「昨日、ザンカとレイラが二人でどっか行ってたのは知ってたけどさぁ」
とリヨウが妖しげな笑みを浮かべる。
「もしかして、ついに一線超えちゃった感じ〜?」
「なっ!?」
「はぁ!?」
ザンカとレイラは同時に声を上げ、顔を真っ赤にして三人の方を睨みつけた。
「アホなこと言うな! いつも通りじゃ!」
ザンカが怒鳴る。
「そうや!ただ髪とかしてもらっただけやもん!」
レイラも負けじと反論するが、「髪をとかす」という行為が、かえって二人の親密さを際立たせてしまった。
「うっわー、朝からイチャイチャじゃん!」
「青春だねぇ」
「ザンカ、やるじゃん!」
エンジン、リヨウ、ルドの三人は、面白がって囃し立てる。ザンカは「うるさい!」と怒鳴りながらも、どこか満更でもない表情をしていたし、レイラはもう恥ずかしさで布団に顔を埋めたい気分だった。
「ほら、さっさと食わねぇと今日の仕事に遅れるぞ!」
ザンカが無理やり話題を切り替えて急かすと、三人は笑いながら「へいへい」と朝食に戻った。
いつもの賑やかな朝の風景。けれど、その中心にいるザンカとレイラの関係は、昨日の夜から少しだけ、確実に変化していた。
🔚