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冬桜
大雪が降った町外れ、私は行く当てもなく歩いていた。
家族と喧嘩して、家出して大分経った。幸いお金には困ってないけれど、泊まる先が見つからない。バスやタクシーで移動しても良いけど、無駄な痕跡は残したくない。
吐いた溜息が白く、上空へ消えていく。つられて上空を見上げると、信じられないものを見た。
蝶。モンシロチョウ。
消えていった息と灰色の空に隠れるように、モンシロチョウが飛んでいた。
モンシロチョウは、私の進行方向に進んでいる。
私は、モンシロチョウを追いかけた。追いかけないといけない気がするから。
モンシロチョウは、どんどん前へと進んでいく。気がつくと、私は走っていた。
人にぶつかったり、躓いたら、蝶は私を待つようにゆっくりとスピードを落とす。そして、私に追いつかれそうになったら、スピードを上げる。
私が疲れて立ち止まると、蝶は先に進もうとする。白い息が、モンシロチョウを霞ませた。
周りに全く意識がなくて、気がつくと雪景色の中にいた。一面真っ白の中、モンシロチョウは、そびえ立つ大木に止まった。
足元をよく見ると、雪に埋もれて草が広がっている。
……懐かしいな。
昔、家族と、よくこんな場所に出掛けていた。春、一本だけそびえ立つ満開の桜を、草に紛れる四つ葉のクローバーを、菜の花畑を、チューリップの蕾を、見つけてははしゃいでいた。
それを愛しそうに見るお母さん、ひとつひとつ写真を撮るお父さん、呆れながらも四つ葉のクローバーを探すお姉ちゃん、桜の枝を折ろうとして怒られる弟……。記憶の底から、全てが蘇る。
……あ。
…………蝶が。
モンシロチョウは、木の枝をそっと離れる。
モンシロチョウが離れたところから、木に蕾が付いていく。それは広がっていって、辺り一面の雪は溶けていった。
やがて、蕾が開いた。
ゆっくりと花弁を広げるのは、桜の花。
一輪、二輪。どんどん咲いていって、満開の桜が木を鮮やかに染める。
私は、感嘆の息を吐いた。白くない息が、景色をよく見せてくれる。
……あの頃に……。もう一度、あの頃みたいな雰囲気で、家族と会いたい。
怒られても、また喧嘩してもいい。それでも、また家族と、こんな景色を共有したい。
私は、元来た道へと駆け出した。
モンシロチョウは、晴れた空へと羽ばたいていった。