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鋼鉄の騎士(火蓋を切って。)
実際にあった事件、歴史を参考にしていますが、伝記の類のものではございません。原作はアスミック社様のシュミレーションゲーム「鋼鉄の騎士」です。ご了承ください。
また、ナチスドイツの行なった行為は到底許せない行為であり、擁護するものではございません。
緊急徴集・・・・・何があったのだろうか。まさか、戦闘か?そのようなことを思いつつ私は第二装甲師団の隊舎までやってきた。そこでは、戦車兵が忙しく整備をしたり砲弾を積み込んでいる。
「点呼!!」
私がそう叫ぶと、
「第一、第二、第三小隊全員います!!」
とアルノルトが報告してきた。
「ったく、何が起きるって言うんだ?!」
その後、燃料を積んだ順に隊舎を出撃したのだった。
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「集合地点は・・・ドイツ・ポーランド国境地帯の南部・・・・・。」
「戦争・・・ですか?」
その声を聞いて振り向くとエルトマンの顔の血の気がやや引いている。
「情報が無いから分からん。アンシュルスみたいに戦争にならない可能性もあるだろうが。」
二つの情報の歯車が頭の中で嚙み合った気がした。さっきの新聞の記事・・・・・。緊急出動・・・。
「嘘だよな・・・。」
戦争において国家がまず始めることはマスコミを使った世論誘導だ。ナチスの今までの行動を見るにこの行動を行うのが相当上手い。あの、『ポーランドによるゲルマン系人種への排斥』の記事がそれに相当するとすれば・・・・・・・不味い気がしてくる。
「笑えんな。」
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鬱蒼とした針葉樹林の中に盛られた狭い砂利道(多分だが農道)を大量の戦車が、装甲車が、トラックが一列となって整然と走っていた。ここはドイツ南東部。アルプス山脈系列の山脈がここまで伸びてきており、美しい景色が広がっているためここはドイツ一の富豪の集まる別荘地となっている。因みにだが、ドイツ総統ヒトラーもここに別荘を建てているらしい。そこを三日三晩発動機の爆音を森に響かせながら我々の大行列は走り去るのだった。
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出発して何日が立ったのだろうか。狭い車内で揺れに揺れ、最早長距離移動と言っていいか分からないぐらいは知らされた気がする。だが、もうそろそろドイツ・ポーランド国境南部地域だろう。
「もう・・・・つくころ合いでしょう・・・・。」
ガラガラの疲れた声でアルノルトがこっちを向いた。一応、運転手を変えながら走っていたが、さすがにもう死にそうな顔だ。
「うわぁ・・・・・。」
アルノルトの右に座っているヒューゴもかなり痩せ細っているような気がするが、アルノルトの顔を見た瞬間、三日三晩車内にいたせいで白くなった顔が青ざめたように見えた。やべぇ・・・戦場へこのまま行ったら地獄まっしぐらだろう。何かドイツの製薬会社で「ペニシリン」っていう疲れが飛ぶ薬があるらしいが、絶対マズい物が入っているだろうな。まぁ、医学的な根拠は無いけど、飲んだだけで疲れが吹っ飛ぶなんておかしいだろ。・・・・という訳でうちの隊員には支給はしていない。だから余計疲れを気にしてしまう。疲れからくる判断力の低下は戦場において死を意味しているからだ。忘れもしないノモンハン。露助の連日の夜襲で眠れず、夜明けと共に反撃したが、敵の待ち伏せで何人か死んだな・・。目の前で死んだ敵味方問わず兵士の顔は両手の指では数え切れんが、全員の顔を今も覚えてる。そんな思い出に更けていたらいつの間にか目的地に付いていた。そこには森の中に不自然に空いた穴の様に木々が無く、砂利道が敷かれており、そこに先についていた車両が無造作に置かれている。私達は端の方に車両を止めた。来た道の方を見れば、まだ車列が続いていたが、日が沈むころ合いにはその車列の最後尾が見えた。これは、八月二十八日の出来事であった。
仮設テントで一夜過ごした翌日。やかましい起床ラッパと共に起きて、軍服に皆が一斉に着替えると、仮設置された朝礼台を前に整列した。朝礼だ。朝の体操が終わり、師団長からの訓示で伝えられたことは皆に衝撃を与えた。
「9月1日に我がドイツ第三帝国はポーランドに宣戦布告する。我が第二機甲師団は、ポーランド南部を制圧する任を承った。皆は死力を尽くして任務を全うするように。」
・・・・・・要はポーランドと戦争となるのだ。最悪の予感が的中した。
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ここはドイツ・ポーランド国境のポーランド側にある自由都市ダンツィヒ。ドイツとの国境になっている大きな水道には、ドイツ海軍の前弩級戦艦シュレスヴィヒ・ホルシュタインが静かに佇んでいた。慰霊祭目的で碇泊しているらしいが、その威容を一目見ようと市民が岸に集まっている。そんなわけでここではお祭り騒ぎだ。酒場には人が入り乱れているし、この町はいつもより活気があった。あの時までは・・・・
1939年9月1日午前4時45分、突如として雷のような砲火を奴は上げた。これが、第二次世界大戦の幕開けとは、誰も思っていなかった・・・・・。
ペニシリン・・・・・日本だと「ヒロポン」。アヘンから抽出した覚醒剤の一種だが、当時は眠気覚まし、疲労緩和、滋養強壮として普通に店頭で売っていた。