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終焉の鐘 第四話
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
中国裏社会の帝王
【闇雲】
彼の率いる|組織犯罪集団《マフィア》
【|终焉的钟《終焉の鐘》】
彼らもまた、
嘘を信じ
嘘を愛し
そして
闇を愛すものだった
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第四話 ~朱色に染まる~
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(もはや闇雲は存在しないと考える方が合理的では?)
とある場所で、孌朱はそう考えていた。特別共同任務当日、目の前には幹部が3人揃っている。なのに、紫雲と闇雲がいない。孌朱は微かに苛立ちを隠せていなかった。
孌朱は、闇雲を知らない──
それが彼を焦られる原因の一つだった。なぜか闇雲は姿を見せない。それが突然の共同任務となると、話は変わってくる。
「Last────何か面白い話ない?」
「なんで俺なんだよ──」
「任務中だよ。言葉遣いに気をつけろ」
いくら仲がいいとは言え、いくら昔から関わりがあるとはいえ、今終焉の鐘として行動をしている限り上下関係は守る必要がある。孌朱は退屈凌ぎにLastに話しかけ、心では闇雲のことについて考えていた。そしてふと顔を上げる。
「いつから──そこに隠れてたんだ」
上にある人影を見てそう呟く。紫の髪の青年──紫雲がそこにはいた。
「別に──隠れてなんていないよ?孌朱。僕はただ紫雲の到着を待っているだけ。彼、今日も忙しそうだし」
そして、その言葉を聞いた瞬間ゾッとした。彼は、紫雲じゃない。他の3人も呆然と彼を見つめていた。
「失礼いたしました──闇雲様」
孌朱はそう言うとにっこり笑う。その様子を見て、3人も慌てたように頭を下げる。
「「「在也为终────────」」」
「長ったるい挨拶は嫌いなんだ。口を閉ざせ」
そして挨拶をしようとした瞬間に青年──闇雲に静止される。3人は気まずそうに笑顔を貼り付けた。動揺してない者などいない。全員がマジマジと闇雲を見つめている。紫雲と全く同じ容姿と、全く同じ声の彼を──
「さて、紫雲も来たことだし適当に片付けるか───」
闇雲が笑顔を向ける先には闇雲と全く同じ容姿の紫雲が立っている。
「どっちがどっちかわからないな────」
ぼそっと呟いた孌朱の独り言に、闇雲は反応する。
「そんな物、どちらでも良いだろう?」
「良くないですよ⁉︎」
楽しそうにはにかむ闇雲に、孌朱は速攻で言い返す。「冗談だよ」と楽しそうに笑う闇雲を見て、幹部の3人は思う。
(案外、無邪気に笑うんだな──)
冷酷に人を切り捨てると噂だったため、闇雲の笑顔は予想外の物だったのだ。
「さぁ────じゃあ作戦通りに行こうか。孌朱、任せたよ?」
「御意」
【任務情報】
终焉的钟と敵対している集団【阳炎集团】を全滅させる
彼らが今日取り組む任務はこれだった。孌朱は堂々と中に入っていき、そして発砲する。
「全員殺す」
孌朱が不気味に微笑んで発したその言葉を合図に、戦いは始まった。
「なんだおまえら⁉︎」
阳炎集团のメンバーは動揺しながらも着々と攻撃を仕掛ける。
「Code name【Last Project】──最後の仕上げの時間だ」
Lastはそう言うと、どこからか取り出した爆薬で屋敷を崩壊させる。中から聞こえる沢山のうめき声──中には孌朱もいる。下手したら彼も爆発に巻き込まれて死ぬだろう。ただLastは躊躇いもしなかった。
「さて、紫雲。僕は孌朱の様子を見てくるから君はLast達と一緒に計画を進めててくれ」
闇雲はそう言うとにっこり微笑み炎に包まれた屋敷に入っていく。これは計画には入っていなかった。
「や、闇雲様‼︎流石に炎に包まれてる時に中に入るのは」
「てこ、僕をなめないでほしいな」
てこの静止をあっさりと流し、炎の中に入っていく。
「諦めろ。何を言っても無駄だ」
紫雲のその言葉に、てこは仕方がなさそうに頷くと、紫雲達と一緒に計画を進めに行った。
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「俺の屋敷に、堂々と侵入してくる馬鹿がいるみたいだな」
屋敷が炎に包まれてる中、焦る様子もなく堂々と立っている男に孌朱は銃を向ける。
「まぁなんだ。折角なんだし昔みたいに仲良くしようぜ?孌朱」
「久しぶりだねぇ【煤煙】君のお気に入りのらすとくんは、君の元にいた時よりもずっと楽しそうだよ?」
男の名前は煤煙といった。彼こそが、阳炎集团のボスであった。
「ん~あの闘うことしか脳にない馬鹿弟子が、か?それはそれは楽しいみたいで良かったよ」
煤煙はなにかを思い出すようにそう言った。
「いやぁ、それにしても、孌朱も出世したなぁ。阳炎集团では若頭だったのに、今はコンシリエーレなんだって?馬鹿弟子は相変わらず幹部やってるみたいだな」
煤煙はそう言うと、のんびり立ち上がり、銃を取り出す。
「ま、俺も簡単に負けてやれねぇわけだわ。申し訳ねぇが、お前殺すわ」
煤煙はそう言うと、突然孌朱に攻撃を仕掛けた。咄嗟のことに反応が少し遅れた孌朱に、綺麗に鉛が命中する。
「相変わらず──動きが早いね。ただ、弱い」
「あ?」
苦しそうにそう言う孌朱は不気味な笑みを浮かべていた。
「Code name【孌朱】──真っ赤に染めて殺し尽くす」
「っ──────」
孌朱が、煤煙との距離を一気に詰めた。そして、孌朱が発砲した鉛が足に命中する。ただ、煤煙は平然と立っていた。負傷した足で、倒れもせずに──
「驚いたか?んまぁ、かなりいてぇなこれ。まぁただの擦り傷だ」
煤煙はそう言うと、少し片足を引きずりながら孌朱に近づく。
「お前の負けだ孌朱。降参しろ。昔みたいに良くしてやる」
こめかみにぐいっと銃口を押しつけられた孌朱は微かに微笑んだ。
(自分は、ここまで弱いんだな)
自分の次のコンシリエーレはらすとくんかな?紫雲にまた迷惑をかけるな
そんなことを考えながら、孌朱はニコニコ笑っていた。ただ、降参とは言わない。
「お前も面倒だな。ま、それなら死ねよ────」
カンっと、何かの金属音が鳴り響いた。
「あぁ────うーん。少し遅かったかなぁ──。もう少し角度を計算できた。後0.05mm北北西に向けてナイフを出してたら完璧に煤煙の心臓に命中したはずなのに──。なんでだろ──なんでズレたんだろ──ねぇ、なんでだと思う?孌朱」
孌朱は目の前に立っている綺麗な笑顔を浮かべた闇雲を見て、今までよりも深い笑顔を浮かべる。何かにホッとしたような、そんな笑顔だった。
「あ、はじめまして。煤煙さん。【终焉的钟】の首領の──────」
笑顔で話し出す闇雲に、煤煙は容赦なく発砲した。
「ちょっとさぁ──自己紹介中に攻撃仕掛けるとかマナーがなってないね」
つまらなそうにそう言った闇雲からは、先程までの人懐っこいキラキラの笑顔は消えており、完全に殺意をむき出しにしている冷たい笑顔を浮かべていた。
「マジで僕、君みたいな人が本当に嫌い」
孌朱は、何が起きたか分からなかった。ただ、煤煙が血を吐き出してその場に倒れたのだけが見えた。何をしたのかは何もわからない。ただただそれを呆然と見つめていた。
「良くも煤煙兄さんをっ──────」
突然聞こえてきた誰かの声に、ハッと振り返ると、銃を持った、紫雲と闇雲と同じくらいの年齢の青年がいた。
「君、名前は?」
「【月照】──孤児だった僕を育ててくれたのは、拾ってくれたのは、全部煤煙兄さんだったのに──‼︎兄さんがいないと僕は1人なのに────‼︎」
闇雲は困ったような顔をしてからその場に銃を捨てる。それに習って、孌朱も武器を全て捨てた。
「君、|終焉の鐘《うち》に来ない?」
「ハ───────?」
彼は終焉の鐘に招かれた──────
狂人王者
孌朱
朱色に染まる