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数週間後。
照「よっ、久しぶり」
蓮「え、…あ、…んーと、」
照「俺、岩本照。」
蓮「あ、岩本さ……すみません、名前覚えるの苦手で…」
照「いーよいーよ、俺も苦手だし」
少し開いた窓から、ほのかに潮風の香りが流れてくる。
現在、お店の前には『Sorry, we are closed』の文字があり、中には俺と目黒だけ。
蓮「えーっと………舘さんならもうすぐ帰ってくると…」
照「そっか」
蓮「…あ、でもチョコなら…」
照「え、マジ⁉︎食べたい‼︎」
蓮「ふっw…甘党なんですか?」
照「…意外だなとか思っただろ」
蓮「…まぁ、はい」
照「おい、否定くらいしろって」
蓮「ふははっw」
くしゃりと顔を綻ばせ、笑顔を浮かべる目黒。
その綺麗な笑顔に思わず目線が釘付けになり、どきりと心臓が音を立てた。
照「…っつ、////」
蓮「…岩本さん?」
照「あ、いや、なんでも……ていうか岩本さん呼びやめてって言っただろ」
蓮「あぁ、…たしかに。なんて呼べば…」
照「『岩本くん』とかでいいよ」
蓮「あ、じゃあ岩本くんで」
照「うん。勝手に目黒って呼んでるけどそれでいい?」
蓮「うん、大丈夫」
照「ん、」
蓮「…⁇」
なんだかきょとんとしていて可愛らしい目黒を見ると、母性が出てきて撫でたくなった。
そっと手を伸ばし、頭を撫でようとすると…
蓮「あっ、…やっ!」
さっと逃げ、チョコが並んでいたショーケースの裏に隠れてしまった。
照「え、あ、…ごめん」
蓮「…すみません、………人に触れられるの苦手で………」
照「ごめん、そうだよな」
薄々気が付いてはいた。
スーパーで手が触れた時も異常に怯えてたし。
蓮「あ、…えっと、チョコ、」
照「チョコ食べる!」
蓮「ショーケースから選んでください」
チョコの表面に、モダンな模様が入っているものだったり、綺麗な形をしているものだったり。
色々なチョコがあって、目移りする。
照「じゃあ、ナッツのやつにする」
蓮「はい」
ショーケースから目黒は一つ摘み、皿と共に俺の前に置いた。
蓮「どうぞ」
照「いただきます…あ、おいひい!」
チョコのなめらかな口溶けと、ざくっとしたナッツの食感が楽しい。
蓮「…よかったです」
涼太「ただいま、戻ったよ〜」
蓮「あ、…舘さん」
涼太「あ、照来てたの?待たせちゃってごめんね」
照「いや、そんなに待ってないし…むしろチョコいただいたし」
蓮「うん、岩本くんが半ば無理矢理店に入っ…」
照「無理矢理ではないだろ」
蓮「いや、あれは無理矢理だったって」
照「人聞き悪いだろ」
蓮「ふははははっw」
涼太「目黒も慣れてきたかな?」
「めめがこんな仲良くしてんの久しぶりに見たわ〜」
誰かがずかずかと店の中に入ってきた。
蓮「あ、ふっかさん!」
涼太「ふっか、久しぶり」
「よっ、めめちゃんは誰と仲良くしてんの?」
蓮「だからその『めめちゃん』やめてってば…!」
照「…え、ふっか?」
辰哉「え、照じゃん!!!!!……いつアメリカ来たのよ」
照「ちょっと待って、まずふっか|マイアミ《ここ》住んでたの⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」
辰哉「うん。…え、言わなかったっけ⁉︎」
照「聞いてないってそんなの‼︎マジかよ‼︎」
辰哉「ごめんごめん、で照はいつ来たの?」
照「つい半年前」
辰哉「えー、マジか!そっちの方こそ連絡寄越してよ」
照「それはごめん。ふっかがマイアミにいるとは思わなかったし、それに引越し手続きやらなんやらで忙しかったの」
辰哉「まー海外だもんな」
涼太「…ふっかと照は知り合い?」
辰哉「あー、うん」
照「幼稚園が同じだったんだよ。途中でふっかがアメリカ行っちゃってそれっきりだったけど」
辰哉「もう二十何年ぶりくらい」
蓮「…へー」
「あー!めめがふっかさんとあと誰かに取られとる〜〜〜!!!!!」
蓮「あ、こーじ!」
照「…こーじ?」
辰哉「康二も久しぶりじゃん」
康二「ふっかさ〜ん!」
蓮「こーじ、久しぶり。今日はフォンダンショコラあるけど食べる?」
康二「フォンダンショコラ!食べる食べる!」
蓮「ふふっ、おっけー。今から温めてくるね」
康二「楽しみやわー、めめのフォンダンショコラ!」
…え?
誰この人。
しかもあの目黒とだいぶ仲良いし。
…さっきまで二人きりだったのにな。
康二「なぁなぁ、名前なんて言うん?」
カウンター席に座った彼に、突然話しかけられる。
照「え、俺?…岩本照」
康二「照にぃやん!」
照「…え?」
康二「照っていう名前なんと、年上やろ?やから照にぃ!俺は向井康二!こーじって呼んでや!」
照「こーじ…?」
康二「せやせや!俺はプロのカメラマンやっとってな、世界中飛び回ってたんやけど、今はマイアミの写真撮りたいなー思うてな、ここいるんや。マイアミ綺麗やろ?」
照「うん、確かに」
康二「やろ?こんな写真撮ってんねん」
ずいっとスマホを押し付けられ、それを見れば、太陽に照らされたエメラルドグリーンの海がディスプレイに映し出されてた。
元々場所が綺麗なのもあるけど、撮る角度とか、向きとかが微妙に調整されていて、写真撮るの上手いんだなーって思う。
照「写真めっちゃ綺麗」
康二「ありがとな!」
蓮「こーじ、お待たせ。出来たよ」
康二「めめのフォンダンショコラや〜!!!」
蓮「久しぶりに作ったから味変わってるかもだけど…」
康二「美味しい!味全然変わってないで!」
きゃっきゃと騒ぐこーじと目黒をじっと眺める。
蓮「…あ、岩本くん…も食べます…?」
照「え?」
蓮「っあ、…フォンダンショコラ…」
照「いいの?」
蓮「…!食べて欲しいですっ」
照「じゃあ一つちょうだい」
蓮「はいっ!」
厨房に駆けていくその姿が可愛らしい、と少し思ってしまった。