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4.魔物
「ライセンって強いの?」
「一応この村では一番だ。」
『村』という言葉に響の思考は一時停止する。
「村?」
「あぁ。この集落を僕たちは村と呼んでいる。」
(集落?私たちの村の近くにほかの村ってあった?いや、無かった。そして村というのは市町村を指すものだし、あの山は私たちの村の真ん中にあったんだもん、となると、私たちの村と同じということになるけど……。強いというなら、私たちのところにまで情報が着てもおかしくない。つまり、この人は頭がおかしくなっているんだ。あの生き物から助けってもらったことは感謝しているけど、頭がおかしくなっているのはなぁ……。)
響は勝手に絶望している。
「そうなんですね。」
そして、また話を合わせることにしたのだった。
「大変だがな、やりがいがあって毎日楽しいぞ。お前……ヒビキは何をしていたのだ?」
(どうしよう?なんて答えればいいの?この人は頭がおかしくなっているから、話を合わせるためにはそこらへんも考えなきゃいけないよね?)
そして、響は一生懸命考えた。
そして、一つの結論にたどり着いた。
「私は、かなり遠い村で、村長の娘でした。」
「え!?」
ライセンに驚かれてしまった。
「村長の子供なのか?だったら早く村に戻りなさい。あぁ違う、まず村の位置を教えてくれるか?いったん連絡してから……」
失敗した。
ライセンはとても大ごとだと受け取った。だが実際は響が口から出まかせで作った話である。大体村長の娘だからって次の村長になれるわけがないのだから、そんなに気にする必要はないと考えていた。
だから、それを本気でとられて響は焦った。
「そんな大ごとじゃないですよ!ちょっと冒険をしたいと思って、少しの間、自主的に他の村を見て回っているんです。」
(どうだ!)
響はドヤ顔である。
裕福だと言われたことはこれで説明できる。だって、村長というものは市長の劣化版。そして市長の立場はまあまあある。ならば村長の立場もまあまああるだろう。そう考えてのことだった。しかも、勉強のために自主的に……と言えば、親が子を手放してもおかしくはない。
何よりも、今の響の状態は、親の元を自主的に離れた状態であるから、嘘もあまりつかずに済んでラッキー。その程度の感覚だった。
そして、この理由なら、近くをうろうろしていても問題がない。家に早く戻ることができるだろう。そんな期待もあった。
「そうなのか?では、いったんこの村で休むといい。この村は村の中でもまとまっているほうだ。学べることがあるだろう。」
(頭は少しおかしいけど、この人は優しい人なんだな。)
そう思えた。
ただ、早く家に帰りたい。その要求はまだ達成できそうになかった。
「あ!」
響は気になっていたことを聞き忘れていたのに気づいた。
「なんだ?」
「あの生き物は何ですか?」
ポカンとされた。
(何かおかしなこと言ったかなぁ?)
響には理解ができなかった・
「あれは魔物だぞ?名前は……オーク。」
「オーク?」
「なんだ?お前、オークも知らないのか?それでどうやって遠い村からここまでやってきたんだよ。」
「えーっと……なんとなく?」
何も理由が思いつかなった。それよりも響は魔物という響きに魅せられていた。
「はぁぁ……本当にそうなら、お前は天才だな。」
「そう?」
せっかく褒められたのだから、と、響は喜ぶことにする。
「そうだな。」
それに比べて、ライセンはもう諦めモードだった。
「では、村長に会ってもらおうと思う。」
「え?」
(村長ってあの村長だよね?なんか偉そうで、白髭で、サンタクロースの服を着たらサンタさんになってしまいそうな?そんな簡単に会えるの?)
ちなみに、響はその見た目から、サンタクロースは村長さんじゃないか、とひそかに思っているのだけど、それはまだ誰にも言ったことはない。