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はんぶんこ
「慎ちゃ~ん!降りてきてちょうだい!」
外出したはずの母が階段下から僕を呼んでいる。
階段を降りて要件を行くのは面倒くさいので3段降りて
「何~」
と声を出した。
「お夕飯、一緒に買いに行かない?」
「買ってこなかったの?」
「えぇ。行きましょうか。」
「ちょっと待っててもらっても良い?」
「全然。今夜は冷えるから厚着してきなさいね。」
母は何を考えている?今は25時だ。夕飯は…食べてない。けれど僕はそれで良かったのに。
冷蔵庫に入っていたご飯を食べていないことも母はきっと知っている。
「そのロングコートもすっかり丈が短くなっちゃって。靴下は履かなくていいの?」
「うん。大丈夫。」
「そう。」
近くのコンビニに着くまでに僕達は何も話さなかった。
「慎ちゃんは何を買うの?」
「スープ、あるかな。」
「あぁ。出かける前に言ってたわね。」
「あら、これでいいの?ご飯炊くの面倒くさいから明日朝パンでも良い?」
「うん。惣菜パンでもいいの?」
「なぁんでも、好きなものを選びなさい。」
僕はウインナーが入ったパンをかごに放り込んだ。
「ママもドーナツ買おうかしら。」
僕はその間大好きなグミの販売コーナーを見に行った。
こんな時間だったらいつもはほっとくのに。明日の朝、ネチネチ行ってくる。
いつのまにか母は会計を終えていた。
「慎ちゃん。いつまで見てるの。行くわよ。」
僕は黙って小走りで母のもとに向かった。
「ねえ慎ちゃん、相談があるのだけれど。」
いつになく真剣な表情で前を向く母の顔を見つめた。
「ママと一緒に逃げよう。」
「え、」
「ママはもう限界。慎ちゃんも一緒に出ていく?慎ちゃんのこれからの暮らし的にもママについていったほうが良いわ。だけど慎ちゃんがどうしてもというのならママはそれを尊重するわ。」
「パパでいい。」
僕はそれ以上言葉を紡がなかった。
「そう。」
母の財布とコンビニのレジ袋でふさがった両手は使い物にならなかった。
僕は胸が苦しくなったけど、こいつはマッドサイエンティストだ。悪魔の手に乗るわけには行かない。
「どうして。…いや何でも無いわ。さっき買ったミートソースパスタ、ママとはんぶんこしてくれる?」
「いいよ。」
母と最後に食べたのはソースがたっぷり掛かったパスタだった。