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5.支配者のノイズ
すず
「俺はあいつに殺されかけた。社会的にじゃない。文字通り、この手でな。だから死んだことにして逃げるしかなかったんだ。だが、お前だけはあいつの『箱庭』に残してきてしまった……。それがずっと、俺の罪だった」
奏は拳を握りしめた。
今まで自分を優しく包んでいた母の「愛」が、実は自分を窒息させるための真綿だったのだと理解した。
「……父さん。僕を攫ったのは、僕を助けるためなの?」
「そうだ。あいつはもうすぐ、お前を『完成』させようとしている。お前を誰の手にも届かない場所へ閉じ込
めるつもりだ。その前に、俺と一緒に……」
その時だった。
部屋の隅に置かれたアンティーク調のスピーカーから、プツッ、というノイズが走った。
『――あら。二人でお喋りなんて、楽しそうね』
心臓が跳ねた。
聞き間違えるはずのない、鈴を転がすような、あまりに優しい母・琴音の声。
『奏ちゃん、ピーマンは残しちゃダメって言ったでしょ? 悪い子には、もっと厳しい“お掃除”が必要かしら』
隠しカメラがある。奏は、部屋のどこかから自分たちを覗き込んでいる母の視線を、
肌に刺さるような冷たさで感じた。
「琴音……! 貴様、どこから見ている!」
誠が立ち上がり、叫ぶ。しかし、返ってきたのは、穏やかな笑い声だけだった。
『ふふっ。誠さん、お疲れ様。奏をここまで連れてきてくれてありがとう。……さあ、奏ちゃん。パパとの“お別れ会”はこれでおしまいよ』
ガチャリ、と部屋の重厚な扉が、外側からロックされる音が響いた。