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ep.4 重なりと分かれは共に
<前回までに起きたこと>
「皆さんは今日が終わるまでに、このビルから出なければいけません」
最後になるかもしれない一歩を踏みしめ、彼らはそれぞれの方向へ歩き出した。
先陣を切り進む者。波に流される者。誰かと肩を組む者。潜み備える者。
、、、その一歩が良いものだったかは、やがて嫌でも分かるだろう。
--- 【現在時刻 8:03:44】 ---
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side 荒木 爛雅(あらき らんが)
なんでこんなに、眠いんだろう、、、?
夜眠れないのは、いつものことだったはず。なぜか今日は、眠気がいつもの数倍酷い。どうして、、、??
、、、あ。
ひとつ、思い当たる節がある。
夢を、見たんだった。
胸の中を誰かにえぐられて。空洞ができて。その中から、ずるずるとただれてゆく。
叫ぶと、声が血に変わって垂れ落ちてゆく。叫び声が止まらない。涙が、赤い。血だまりができてゆく。靴に染みる。足が重い。
声や涙すら枯れて、赤い水面に手をついたら。
絶望に溺れ、心も体もただれた人の、、、自分の顔が見えた。
『いかないで』
向こう側の自分が、儚げに揺らいでいた。 泣いて、笑っていた。
見慣れた腕が血だまりから、こっちに伸びる。
怖くて立ちあがり後ずさったら、水の中から引き上げられるように夢から醒めた。
それはそれは鮮やかに濁る、赤い夢だった。
いやに記憶に染みついている。洗っても取れないシミを残している。
なんで、思い出してしまったんだろう、、、?
忘れたい。思い出さないでくれ。視界を真っ赤に染めないでくれ。
はっ、と現実が見えた。8時を、、、過ぎている。皆が階段へ駆け出していくのが見える。行かなきゃ。でも、眠い。ふらふらする。どうしよう。
「あの、、、眠いんでしたら、これどうぞ」
目の前に、缶コーヒー。と、優しそうな誰かの顔。
待ってくれ。まだ現実がつかめてない。えっと、、、
「、、、あ、すいません!余計なおせっかいですよね!?」
、、、えっとつまりは。あの人は、自分が眠そうなのを気にかけてコーヒーをくれてる、、、?
本当か!?早く何か言わなくては、、、!
「いやいやいや、ぜんぜん!! ほんとにいいんですか?」
彼が微笑んだ。なんか自分、「面白い」って思われてる、、、?
彼から缶コーヒーを受け取って、眠気と嫌な気持ちから覚めたい一心で一気に飲んだ。
、、、飲んでから分かった。ブラックだ、、、。コーヒーの一気飲みは、するもんじゃないな、、、。
眠気が覚めてきた。今なら動けそうかな、、、?そう思い動き出そうとしたとき、彼が口を開いた。
「あの、よかったら一緒に行動しませんか?すぐに出発しなくても、必要なものを集めてからでも出発できますし、その、何より二人でなら心強い」
え?二人で、、、??確かに、単独行動じゃいけない理由はないし、安全なうちに使えるものを集めた方がいい。すごいなぁ、この人。
「え、、、?確かに、そうかも、、、ありがとうございます!自分でよければぜひ!」
「あ、それで。僕の名前は、、、」
彼がそう言って近づくと、彼の頭上にステータスみたいなものが現れていた。
<佐久里 幸吉(さくり ゆきち)>
年齢 : 20
健康状態 : 良好
特異症状 : Null
「さくり、ゆきち、さん、、、?」
このステータスが本当なら、彼の名前はそれだろう。彼が、いや、幸吉さんが驚いた顔で上を見る。どうやらステータスに気づいたらしい。少し戸惑って、口を開いた。
「その通り。佐久里、幸吉です。荒木、爛雅さんですね?、、、名前も分かったことですし、少し使えるものを探しましょうか」
えっ、それって泥棒では、、、!?流石にいけないのではと思い、言った。
「えぇっ、人のものですよね、、、持って行っちゃっていいんですか、、、?」
幸吉さんがまた、『あなたはやっぱり面白いなぁ』とでも言うように目を細める。なんか、恥ずかしい、、、。彼は言った。
「詳細に、法に触れなければ物は自由にどうぞと書いてありますし、ほら、これが人の物かどうかもわかりません。今の制度上、完全にクロになるのはいくら何でもおかしいでしょう?」
いや、、、確かに、、、。時間は有限だし。いつ死んでしまうかも分からない。怖くなってきた、、、、。
「た、確かに、、、すいません、失礼します!!」
近くにあったデスクから、とりあえず何かあったら対抗できそうなカッターと画鋲を手に取った。
もう少し探してみよう。幸吉さんも、またデスクをのぞき始めた。
役立ちそうな物が色々見つかった。周りを見ると、僕ら以外にも同じ考えの人が十数人いる。引き出しも調べてみようかな。幸吉さんは、、、何か考えているようだ。
ふいに引き出しを開けた一人の人が、その引き出しから飛び出した矢の雨に打たれた。
叫ぶ間もないようだ。肉をえぐる嫌な音と血が、そこら中に散った。
ヤマアラシのようになって、けいれんしながらまっすぐ倒れる。
道具集め、、、これくらいに、しておこうかな、、。
苦しいけど滅入ってはいけない。気を取り直して、荷物の整理にかかった。
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side 横田 達磨(よこた たつま)
人の波に押されて、階段を下りていく。
あれ、ちょっと待て。
ビルの階段は、普通一続きになってるはず。もっとも何か仕掛けはあるはずだが、このまま下にうまく下りれば、階層などを通らずにでも一階まで一気に行けるのでは、、、?
、、、7階に着く。自分の考えが、いかに甘かったかに気付いた。
階段が、続いていない。次の段があるべきところには、床しかない。
つまりは。下の階に降りるには、少なくともフロアを探索せねばならない。フロアにはもちろん、仕掛けや危険がいっぱい。、、、ということか。そうだよな。あいつのことだ。それぐらい、造作もないか。まったく、意地悪にも程がある、、、何がしたいんだかさっぱりだ。
考えながら階段を下り終わると、人の流れが止まった。何だ?
前の方で見てみると、8階のような開けたフロアはなかった。
目の前に白い壁。同じ形、同じ色のドアが、二つある。
「7階のみなさ~ん、こ~んに~ちは~♪」
頭の中で、声が響く。あいつだ。随分とふざけてやがる、、、
「や~、ずいぶんと速足でご苦労様です。お好きな方のドアから、進んでいただいて構いませんよ」
ざわめきが起こる。どうしてこんな意地悪な事ができる、、、
いや、そもそも。
どうして僕は、こんなことに巻き込まれなきゃいけないんだ、、、?
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side 藪蛇 実(やぶた みこと)
朝起きたら、知らない場所。チャラそうな奴がチャラくまとめて、、、何か知らんが、俺らはここから出ないと死ぬらしい。
正直、めんどくさい。なんだよそれ。普通だったら信じられねーぞ。色々見ちゃったからアレなんだが。
んで今度は、おんなじ二つのドア。好きな方から進め、と。不穏でしかない。
正直、開けたがる奴は誰もいないだろうな。予想通り、人混みが少しずつ後ろへ下がり始めた。
俺も少し下がって様子を見ようか。そう思いバックしたら、誰かと派手にぶつかった。
「おい、気を付けてくれよ、、、!?」
思わず俺はそう言った。癪に障ったので、少し声が大きくなってしまったか、、、?
「な、何よ、あなたが後ろ見ずにバックしたんでしょ!?」
何故かキレられた、、、驚いて振り返ると、そこには見覚えのある顔があった。隠せなかった驚きが声に出る。
「お前、、、遠坂かよ!?」
目の前にいるのは。高校の時のクラスメイトだった。
彼女が、、、いや、遠坂が、驚いて顔をしかめる。
「っ!?そ、そんな言い方、し、しなくてもいいじゃない、、、。そうよ。わたしは遠坂。遠坂、めい。昔のクラスメイト。はい!終わり終わり、これでいいでしょ。さよなら。」
そのままぷいとそっぽを向いて、変な方向へ歩いて行った。
何だ、、?俺、憎まれてるのか、、、?
そういえば、最後会った時とは少し雰囲気が違う。髪も少しボサついている。なんつーか、、、くたびれてる、、、?
「おい待て、お前そっち何もねーぞ、、、!?」
心配や焦りが混ざる。取り敢えず、あいつに何があったのか気になる。遠坂の行く先へ走った。
--- 【生存人数 278/300人】 ---
--- 【現在時刻 8:32:13 タイムオーバーまであと 15:27:47】 ---
<自主企画にて参加いただいた初登場キャラ>
・遠坂 めい(とおさか めい) 甘味様
ありがとうございます!!これからも活躍しますので、読んでいただけると嬉しいです。
他のキャラクターも順次登場予定です。お楽しみに。
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