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3rd collaboration.2
ルイスside
「それで...君はどこまで分かっているのかな」
僕は椅子へと座り、テニエルへと問い掛けた。
桜月ちゃんが紅茶とお菓子を出してくれている。
「…彼奴らが今、このヨコハマに来ている事、それからこのヨコハマを手に入れ、俺を連れ戻そうとしている事、トップの異能でまた何らかの形で___」
--- 「最悪、お前たちの生死に関わってくること」 ---
「前のことがあるから分かると思うが、ヨコハマを手に入れる計画の中で、いろいろあったから俺は泉...妹の方...を殺そうとして、それに適任だったのが、俺の異能で世界を超えた所にいた、ルイス・キャロルという人物だった」
その計画の色々が知りたいところだけど、今は置いておくことにしよう。
「なら…今回も桜月ちゃんは計画に邪魔だろうから消される可能性があるし、それに適任である僕にも何が起こるか分からない、ってことだね__おまけに、桜月ちゃんの本当の、本来の世界だから...どちらかが死んで元の世界に、っていうのは僕が簡単にクリアしてしまう」
「つまり前回よりもダントツで複雑な選択が課される…」
「さっきテニエルが言ったとおり、本当に最悪の事態も考えられるね…」
顎に手をやり、少し考え込む。
僕がここで自害して帰るだけで終わるならまだいい。
でも、また悪夢が繰り返されるならそう簡単に帰るわけにはいかない。
「うーん...なんか...凄い事になってるし…でも前はボス、あんな大っぴらに来てたのに、なのに今回は隠密作戦なんですね…?」
無駄にハイテンションだったよな、とまた頭を悩ませる。
桜月ちゃんの誰と決めたわけではない問いに、僕も考え込んでいた。
前回はマフィアとも敵対してる状況だった筈だからよかったけれど、今回はそうではない。
何かが、引っ掛かっている。
「当り前だ、そこの莫迦とは違って計画的なんだ、俺たちは」
ふと、答えが告げられる。
音が聞こえるのはテニエルの胸ポケットからだろうか。
「そうだよ、ソイツと僕等を一緒にしないでほしい」
「まぁまぁ、二人とも落ち着きましょうっ!」
「テニエルー!早く会いたいわ~!Wait for me, my captive princess~♡」
「おい言葉が英語に戻ってるぞ」
「…ぇ、誰」
桜月ちゃんは、思わずそんな声を漏らしていた。
突拍子もなく聞こえてきた声。
突拍子もない会話の内容。
それに、あの声は──。
「…最初の男、さっき僕がすれ違った奴だ」
転移する直前に聞こえた微かな声。
それと同じだ。
彼のことを思い出すだけで警戒してしまう。
「只ならぬ気配だったよ...目の前から歩いてきた筈なのに、ぶつかるまで気づかなかった」
様々な戦場を経験してきた僕の本能が警鐘を鳴らす。
それ程の相手はそう多くない。
つまり、あの時すれ違った彼は本当に危険でやばい奴な可能性がある。
僕がこの世界に来たときのことを交えながら、二人に説明した。
桜月ちゃんはとても驚いているようだった。
「っていうかボス携帯電話っ!?」
「まさかジョージおま、っ」
「よく気が付いたね、流石テニエルだ...僕にかかればそんな携帯、簡単にハッキングできるし、起動もできるよ」
ジョージ。
それが、敵の一人の名前。
ハッキング能力は英国軍の情報部とそう変わらないか。
「ねえ、ボス...ジョージ、って誰?」
「あはは、初めまして…僕はそこのテニエルの仲間...組織の一員で、ハッキングを得意としているんだ、よかったら仲良くしてよ」
いや、仲良くできるか。
桜月ちゃんの方を見てみると、彼女も引いているようだった。
わざわざ云わずとも、テニエルの顔色は悪い。
今なら、敵の情報を知れるかもしれない。
「…ついでだし、他3人も自己紹介してくれないかな?」
「私も…気になってました」
「仕方ないな…まぁいいか」
どうやら自己紹介してくれるらしい。
よほど自信があり、僕達のことをナメているのだろう。
「俺はフランシス。戦闘でもなんでも遠隔系の方が得意だからジョージの援護をしている__それと嗜む程度だが、精神的な分野にも精通している」
「ふふ、私はハリエット__!人と人の間の仲を取り持つことが得意だから、基本は商談や取引系の仕事をしてるのよ!」
「私はメアリー!仕事は全般を補助する係が多いわ!...ね、テニエル~♡」
フランシス、ハリエット、メアリー。
そしてジョージ。
僕の元仲間のことがあるからあまり大声では云えないけど、個性が強すぎる。
性格は勿論──彼ら全員の役割のバランスがちょうど良さそうだ。
テニエルの仲間とは思っていたけれど──。
「ボスの元仲間の...トップと、ボスと同じ立場の3人…!」
ちょっとそこら辺の詳しい話はまだ聞いてないんだけど。
とりあえず、少しでも情報を引き出さないと。
「…誰がトップなのかな」
「誰だと思う?」
多分、この小さな機械の向こうで笑っているであろうフランシス。
少し三月ウサギのような悪戯っぽさがある。
フランシスって名前は|こういう《頭おかしい》奴しかいないのかな。
「…でも、フランシスが一番落ち着いて大人っぽい」
「だよね、僕もそう思う、けど…ハリエット、彼女も侮れないと思うよ」
うふふ、と携帯越しに笑った声が聞こえた。
ハリエットだろうか。
商談や取引は長に必要な力のひとつだし──。
「違う」
そんな、テニエルの声が聞こえた。
「あ、!元仲間だから知って…!」
「本当は誰がトップなの?」
彼方の掌で転がされている感じがし、中々気分が悪い。
早く最終的な敵が知りたいと思ってはいたが──。
「一番ふざけてる...そのジョージって阿保だよ」
云われてから気が付いた。
僕がすれ違ったのはジョージだったじゃないか。
それは声で判っていた筈なのに、何故か選択肢から除外していた。
あの性格から、あり得ないと思ってしまった。
この世界では年齢も見た目も、性格だって関係ないのに。
「阿保って...全く、上司に向かって失礼だよ、年上には敬意を払ってもらわなくちゃ」
「ねーぇテニエル、さっきからそこの人達”元仲間””元仲間”ってうるさいわ…」
「まぁまぁメアリー落ち着きなさい、折角の可愛いお顔が歪んでるわよ?」
「はぁ…テニエル、____。」
機械を通した声の筈なのに、思わず息を飲む。
--- 「”兄弟”じゃなく、敵を選ぶのか?」 ---