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ep.8 肺の中は何色
※<前回までに起きたこと>を廃止いたしました。ご了承ください。
--- 【現在時刻 9:07:28】 ---
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side 藪蛇 実(やぶた みこと)
ちゃんと食べてるのか?心配や悩みは?何かしたいことは?好きなことは続けてる?
心配でたまらない。とにかく心配でたまらない。遠坂はもともと大人しくて、みんなでワイワイってタイプじゃないけど、心の中ではきっと助けてくれる人を求めてたに違いない。自分から声をかけるのができないまま進んできたのか何なのかは知らないが、今の遠坂は絶対に間違った道にいる。どうにかして俺が助けてあげないと。
「遠坂、、、聞いてるか?」
「、、、、、うん、続けといて」
、、、うん、じゃなくてさ!? 俺が聞きたいのは、遠坂自身の事なんだよなぁ、、、
「はぁ、、、あのさぁ、さっきから。わたしを可哀そうな人みたいに見るのやめてくれないかな」
「は? いやいやいやいや、見てない。見てねーよ。俺は遠坂が、、、心配なだけ。それだけだ。」
、、、それだけなんだ、きっと。
「、、、もういいよ、それで。時間もないし行こう」
そう言う遠坂の目は、汚れた犬を見ているようだった。
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side 祀酒 みき(まつさか みき)
どうしよう、どうしよう。いくら一つ目のドアで間違えなかったからいって、ここでも正しい方向を選べる保証はない。
「よしまぁ、、、、進みますか」
契さんが軽ーく呟いた。いやいや、正気か、、、!? 死ぬのが怖くないんだろうか? そもそも恐怖心が麻痺してしまっているとか、、、!?
「、、、何です、その恐怖と驚きと哀れみが詰まった視線、、、」
あ、バレた、、、やっぱりダメだって言おう、しっかり。
「あ、あの、、、」
「もしかして、、、こいつ危機感が足りなさすぎなんじゃないかって思ってますか」
ぎくっ、とした。図星も図星、ぐうの音も出ない。
「人が死ぬのには、職業柄慣れていますんで、、、」
契さんがため息交じりに言った。
「、、、え、それって、、、」
「あ、教師です。歴史の」
、、、? 歴史の教師、、、? 何故、、、
「いやあの、、、織田信長さんとかマリー・アントワネットさんとか、、、いろんな人の死に様を知っちゃうじゃないですか」
そういう事!? 死ぬっていうか、何というか、、、それだけで目の前で起こる死に対してまで耐性がつくものなのだろうか、、、
「確かに危機感が足りないかもしれません、けど、、、僕は被害者としてじゃなく勇者として死にたい」
契さんがなんともないように言った。背筋の、冷える心地がする。
「、、、人の先に立ちドアを開いた人は、歴史の教科書に載りました。風化させられることなく、いつまでも語り継がれた。
残虐な殺人事件が起きて人々の頭に刻まれるのは、大抵被害者ではなく犯人です。どぎついスポットライトが、犯人にあらゆるところから降り注ぐ。
、、、今の僕らは数多の人々の礎から成り立っていますが、、、その中で思い出してもらえるのは一つまみ。いや、それにも満ちません。
僕は歴史を心に刻んで、歴史を破り捨てて、、、そして歴史になりたい。生きてここを出るにも、途中で死ぬにも、僕は誰かに語られる人になりたいんですよ。
誰かの心に住み続けて、永遠の命を得る。細々と話が広がるだけでも、やがて大樹のように大きくなる。ありもしなかった花や実までおまけに貰って。そうして死んだ後も生き続けて、なんなら成長し続けて、ず~~っと歴史を見続ける。知り続ける。共にいる。、、、はぁ、素敵なことじゃないですか、これって。いいとこどりもいいところですよ、、、あっ、駄洒落みたいになってますね、ははっ」
、、、心臓は焦り暴れているのに、驚くほど寒気がする。死神と契約したかのような、そんな語り口。彼に感じていたまろやかな正義感は、とんだ幻だったみたいだ。
一番左のドアを開く契さんが見えた。
何故だろう。距離を置きたいはずなのに、不安が彼に守ってもらえと叫ぶ。
これも死神の、呪いなのだろうか?
「契さん、待って、、、!私も行きます」
キョトンとする彼は、とても死の危険に晒されているとは思えなかった。
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side 雨水 日向(うすい ひゅうが)
最前列の二人は、誰にも主導権を渡さなかった。よくあんな行動ができるな、、、いろんな意味で。
ふと、大きなぬいぐるみを二つ抱えてぶつかりながら歩く、幼い子供が目に留まった。あんなに小さい奴も参加させられているのか、、、恥ずかしくてとても言葉に出せないが、他より小さい故にほとんどの人に気づかれず、ぶつかってよろけた後に心配そうにぬいぐるみを撫でている姿はいじらしくてたまらなかった。
、、、そう考えてみたら、後列で噂ばかりしている輩は何なんだろうか、、、?
「自分勝手だよねぇ、そこがまぁ面白いのだけれど」
かなり性格悪いこと言うな、こいつ、、、ん!?
「あ!気づいた~!!いひひっ」
、、、誰だよ。ガチで誰だよ。俺のすぐ右に、無邪気に笑顔で手を振る青年がいた。
服の色がだいぶ騒がしい。何より、刺すような赤い瞳が印象的だった。
「そっかぁ、あの時奥にいたからおれのことは見えてなかったんだね~、、、おれは皆をここに集めた張本人、って感じかな。あ、君の名前は「雨水日向」だよね?」
「そうだ。、、、ってか何だよお前、何してぇんだ、、、!?」
いや、お前の名前なんて誰も聞いてねぇよ、、、。
何かおかしい。油断なんて一ミリもしてなかったはずなのに、いつの間にか会ったこともない人にするりとペースを奪われていることに気づいた。
「え? いやぁ、別に何したいってわけじゃないんだけど、、、視察、みたいな? 現地に直接足を運んで、色々見て回る!楽しいよ、あっ君は参加者側か!?」
、、、テンションが高すぎる、、、返事する気力が削ぎ落ちてゆくのが分かるくらいだ。
「おっ、あの子だ!怒ってる? 、、、おれはこれで失礼するねっ」
主催者は笑いながら猛スピードで去った。いや、「消えた」の方が正しいのか、、、?
あいつにプレゼントされたみたいに、どっと疲れが押し寄せた。
、、、人混みをかき分けて、誰かがこちらへ来る。
と思ったらいきなり俺の手を握り、必死の形相で問いかけてきた。いや、怖ぇよ。
「あの、、、っ!! 今!あいつと、、、ゲームマスターと話してましたよね!?」
--- 【生存人数 274/300人】 ---
--- 【現在時刻 9:27:10 タイムオーバーまであと 14:32:50】 ---
<自主企画にて参加いただいた初登場キャラ>
・雨水 日向(うすい ひゅうが) 奏者ボカロファン様
ありがとうございます!!これからも活躍しますので、読んでいただけると嬉しいです。
また後半に次のキャラクターのヒントを隠させていただきました~(隠すといっていいほど隠している感じはないのですが、、、)良ければ探してみてください。
他のキャラクターも順次登場予定です。お楽しみに。
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