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ストリートピアノ
ピロン、ポン。
ストリートピアノの音色が、辺りに響く。
私――――青桐川 櫻は大きめの駅にやってきた。
目的は映画鑑賞だったんだが……ついでに姉のお使いをすることになった。
まったく、人使いの荒いやつ!
黒いピアノ。その下には赤いカーペットが敷かれている。
そこの椅子に座る少年は、とても生き生きと演奏していた。
「ふー……」
ストリートピアノの音が鳴りやむ。
どうやら演奏が終わったようだ。
私は、ついピアノを弾いていた少年を見つめてしまう。
「え?」
どうやら彼に気づかれたらしい。
「あ、あの、いい演奏だなと思いまして」
「ありがとうございます」
彼は小さく頭を下げ、その場から去った。
◇◇◇
「ネギ、塩、カレールー、ほんで洗濯バサミか」
私はさっき買ったものを確認する。
「ねぇねぇ。今日どういうお夕飯なの?」
「知らないよ。というかデュパンはご飯食べられないでしょ」
「いや、まぁそうだけど」
目の前で妖精がふわふわ浮く。
……理不尽なこと言うけど、なんか腹立つな。
ポロン、ポロン。
「ん?」
「どうした?櫻」
ストリートピアノの音だ。
私は少しピアノの方を見てみる。
そこにいたのは――――さっきの少年だった。
相変わらずいい演奏だ。
「綺麗な音だね」
「デュパンもそう思う?」
私達は二人で演奏を聴く。
だが――――その音はすぐに止まった。
「う、うあっ」
少年は、突如崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか?!」
私は彼に駆け寄る。
「あ、いや、大丈夫です」
少年は平気そうにして、その場から走っていった。
「あの子、どうしたんだろう」
デュパンは疑問に思っているようだった。
「ねぇ、デュパン」
「ん?どした?」
私は小さく息を吸った。
「追ってくる」
「え!ちょ?!」
私はその場から走り出した。
目標は当然あの子。なにか――――嫌な予感がするんだ。
◇◇◇
「えっと、誰もいないよな」
少年は周囲を見渡す。
――――何をする気だ?
「ぐ……うおぉぉ!」
次の瞬間、彼は異形の姿へと変わる。
その姿は――――私の敵、悪魔そのものだった。
「嘘?!」
「誰だ!?」
悪魔は私の声に反応した。
まずい、生身の状態じゃ、私に勝ち目はない!
私は息をひそめ、壁に隠れる。
「そこかぁ……」
ギューンという音が、周囲に響く。
「嘘……」
そのまま、壁の後ろから大きな音が聞こえた。
「ふぅ……これで魔法少女は消せ」
「消せてないわよ」
その瞬間、悪魔は私の方を向く。
「何!?」
背後はとった。
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
私は悪魔に一撃をかます。
「グゥオオオオ!」
「まじ!?」
浄化弾を喰らったのに、この悪魔はピンピンしている。
「威力がたりないのかも!」
デュパンの考えを聞き、私は少し考える。
威力が足りない?
一気に何発分ものエネルギーを浄化弾に込めることは可能だが、反動が大きすぎる。
じゃあどうする?
「グワァァ!」
「まじっか!」
悪魔の一撃を躱す。その攻撃は後ろの時計に当たった。
「時計……そうだ!」
私は呼吸する。
「ダーケスト・プラネット・リフレクション!」
悪魔から、あえて外す。
そして――――私は二撃目を準備する。
「ダーケスト・プラネット・ジエンド!」
一度耐えた攻撃だと相手は油断している。
「終わりだ」
「な、ニ!?」
『リフレクション』と『ジエンド』の浄化弾二発。
それらを時間差で命中させる。
「名付けて……ダーケスト・デュエット・アタック」
即興で名前を付け、私はピアノ少年が煙となるのを見届けた。
◇◇◇
「カードは……まぁあるよね」
デュパンは軽く現状を整理する。
ただ――――私は、より恐ろしいことに気づいてしまった。
――――悪魔たちは、私が魔法少女だって知ってるんじゃないか?
あの悪魔は、私が魔法少女になる前に『魔法少女』というワードを使った。
バレるはずがない。そう思い込んでいた。
「え?!」
「どうしたの?櫻」
視線?
「あ、あぁ。大丈夫よ」
気のせいだ。きっと気のせい。
私は、そう思うことにした。